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【短編】りんごの木の話

今年も赤いりんごが実った
赤いリンゴの実った木を一人の男の子が見上げている
美味しそうだな
と、男の子は思っているのか
指をくわえて、リンゴの木を見上げている
男の子は、自分の口の中で唾が湧いてくるのを感じていた
それだけ、今年のリンゴの出来は素晴らしかった
小鳥たちの華やかな泣き声が聞こえる
小鳥たちも赤いリンゴが醸し出す豊潤な香りに興奮を隠しきれないのか、リンゴの木の周りに集まってきている
リンゴの木も、今年はとてもいい実ができたと
誇らしく感じていた
そして、リンゴの木に集まってくる者たちを楽しそうに眺めていた
小鳥の歌声もリンゴの木には、祝福のファンファーレに聞こえていた
そこに先ほどから指をくわえて、りんごの木を見上げている男の子の兄がやってきた
男の子の兄は、弟の
りんごが欲しい
という願いを聞くと、身軽にリンゴの木に登った
男の子の兄が、りんごの木を登ってくる感触をリンゴの木はこそばゆいと感じ、身をよじると、カサカサとリンゴの木の葉が音を立てた
男の子の兄は、器用にりんごの木をするすると登り、一つの赤いりんごをむんずと掴むとオーバーオールの胸ポケットにいれた
そして、りんごの木を降りると、そのリンゴを弟に渡した
男の子は、目をキラキラと輝かせて赤いリンゴを 受け取った
男の子は、赤いリンゴの丸い、そして、かすかに重い感触と甘酸っぱい香りを胸いっぱいに吸い込んだ
そして、ガブリとりんごにかぶりついた
口の中にリンゴの甘酸っぱさが広がっていくのを
感じて、男の子は、思わず微笑みを浮かべた
シャクシャクとリンゴが噛み砕かれていく音を聴きながら、その音も男の子は楽しいと感じていた
美味しそうにリンゴを頬張る弟を微笑ましく眺めていた兄に男の子は、半分残ったリンゴを渡した
兄は喜んで、それを受け取ると、リンゴを口に運んだ
「美味しいでしょ」
と、男の子は、兄がリンゴを食べるのを嬉しそうに見ている
そんな仲の良さそうな兄弟のやりとりをリンゴの木は嬉しそうに眺めていた
そして、幸福感を同時に感じていた
次の日、リンゴの木のある地域に大風が吹いた
大風は、1日中吹き荒れた
リンゴの木は、轟々とふく大風の恐ろしい声を 聴きながら、じっと、根を張ってその風の猛威に 耐えた
そして、すっかり、リンゴの木からリンゴを落としてしまった
大風が止んで外に出てきた村人たちは、リンゴの木からすっかり落ちた赤いりんごたちを見つけた
これは、なんという神様の恵みなんだ
という村人たちの声が、大風に耐えて疲れ切った
リンゴの木に聞こえてきた
そして、疲労感を感じながら、村人たちが嬉しそうに赤いリンゴの実を拾うのを見ていた
村人たちは、たくさんのリンゴを収穫し、それぞれの家に持ち帰った
一人の村人の家では、そのリンゴは、おかみさんの得意なアップルパイに変身した
別の村人の家では、焼きリンゴに姿を変えた
また、別の村人の家では、リンゴジャムになった
それぞれの家から香ってくる匂いからリンゴの木は実ったリンゴたちの行く末を感じ、そして、村人の笑顔を思い、楽しそうな会話を想像の中で聴き、疲労感が消えていくのを感じ、そして、えもいわれぬ充実感を感じたのだっだ

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