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【短編】微熱と蜜柑

こたつの上に、みかんが三つあるのが見える
こたつの中で、暖をとっている猫があくび混じりに泣いた声が聞こえる
私は、まだ熱っぽい感覚を感じながら、寝巻きに
はんてんを羽織った姿で、こたつに座っていた
一昨日から、風邪をひいて寝込んでいた
今日は、熱も下がったが、念のため仕事は休んだ
まだ食欲もさほどないが、目に入ったので、こたつに並んだミカンに手を伸ばした
みかんのひんやりとした感触が、まだ体に熱が残って居ることを教えてくれた
見たいわけではないが、惰性でつけているテレビからは昼のバラエティ番組が流れていて、何がおかしいのかテレビの中から笑い声が聞こえてくる
しばらく、みかんを手に乗せて、みかんのひんやりとした感覚を楽しんでから、私は、みかんの皮をゆっくりとむいた
そして、いつも以上にゆっくりと入念にみかんの 白いスジをとった
熱は下がったが、体は本調子じゃないし、特にやることもないので、白いスジを取ることに集中した
きれいにむき終わったみかんを口に運ぶ
熱っぽい口の中に、みかんの果汁が広がる
乾いた喉にみかんの果汁が染み渡っていく
なんだか、ほっとすると思った
みかんを食べ終わると、微かに残った指先のみかんの果汁をティシュでふいた
みかんの果汁をふきながら、そういえば、子供の頃、みかんの果汁を使って、あぶりだしをやって 遊んだなと思い出した
みかんの果汁を絞って、筆で紙に字を書いたり、絵を描いたりして果汁が乾いたら、ストーブの熱にあぶると果汁の部分が焼けて、字や絵が炙り出されるというあれだ
懐かしいなあ
と思った
ふと、みると、こたつの上に置いてあったみかんの一つが少しかびているのが見えた
よし、やるか
と、思い立ち、私は、こたつから出て、小さなお皿と紙と筆を持って、こたつに戻ってきた
なんとなく聞こえてくるテレビの音は、再放送の 昔のドラマに変わっていた
私は、小さな白いお皿にみかんの汁を絞った
ミカンの甘くて酸っぱい香りが部屋中に広がるのを感じる
準備はできた
さて、何を書こう
と、私は 筆をミカンの汁に浸しながら考えた
そして、一気に紙に筆を走らせた
しばらくして、果汁が乾くと、私は待ちきれずに
台所に行った
今の私の家には、ストーブはないので、ガスレンジの火で紙をあぶる
真っ白の紙をガスの火で炙っていると、だんだんと真っ白い紙の上に所々、茶色い部分が出てくるのが見えた
ガスの火で炙られて、紙がかすかに音を立てるのが聞こえる
そうしてるうちに紙の上にニコちゃんマークが炙り出されてきた
さっき、自分で描いたばかりなのに、炙り出されると、なんだかワクワクする感覚を感じる
不思議なものだな
と、私は思った
そして、私は、ふと思い立って、またリビングへと戻った
そして、紙に筆を走らせた
そして、それが乾くのを待つと、その紙を丁寧に
おって、封筒に入れた
そして、その封筒に自分の家の住所を書いた
そう、私は、自分宛の手紙を書いたのだった
明日、仕事に行くついでにポストに投函するつもりだ
3日後には、郵便屋さんが、私の家に炙り出しの 手紙を届けてくれるだろう
そう思うと、なんだか、くすぐったいようなワクワク感を感じた

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