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【短編】紙を切る女の子

たくさんの色とりどりの折り紙が床一面に散らばっているのが見える
そして、チョキチョキとハサミで紙を切る音が聞こえる
一人の女の子が、夢中で折り紙を切っているのが見える
女の子は、何かを作っているわけではなく、覚えたてのはさみという道具に夢中だった
そして、はさみで、チョキチョキと紙を切る感覚を何度も感じたくて、無心で、はさみで折り紙を 何枚も切っているのだった
女の子は、ただ、でたらめに折り紙を切っていった
床には、四角や三角や歪んだ丸や長いのやら細いのやら不揃いな色とりどりな紙屑が散乱しているのが見える
そして、女の子が、はさみで折り紙を切りながら
楽しそうにでたらめな鼻歌を歌っているのが聞こえる
しばらくすると、女の子の母親が、部屋に入ってきた
そして、女の子と床に散らばった紙屑を見て大きなため息をついた
家の外にも聞こえるのではないかと思うほど、あまりに大きなため息だった
「また、こんなに散らかして」
と、母親は言ったが、女の子は、そんな母親の声が聞こえいないのか、聞こえていても母親の言葉に特に何も感じないのか、はさみを止めることなく折り紙を切り続けている
その姿は、とても楽しそうで、しあわせそうに
見えた
母親は、もう一つ、大きなため息をついて、女の子のいる部屋を出ていった
そして、しばらくすると母親は、掃除機を持って
女の子のいる部屋に戻ってきた
「はいはい、もうそこらへんにしてね
他の遊びをしてくれる?」
と、母親は、女の子に言った
女の子は、まだまだ遊び足りない気持ちを感じていたが、大人しく母親のいうことを聞いて、はさみを持って立ち上がった
そして、女の子は、はさみをお道具箱の中にそっとしまった
そして、女の子が、はさみで、でたらめに切り刻んだ折り紙の破片を掃除機で吸い取っている母親の姿を見ていた
カサカサカサと掃除機に吸い取られていく折り紙の破片の音を聴きながら、女の子は、破片たちが 生きているようだと感じていた
そして、母親が、最後の破片を掃除機で吸い取るまで女の子はジッとそれを見ていた
そこに女の子の家で飼っている子猫が入ってきた
女の子は、女の子に近づいてきた子猫に気がつくと、抱き上げて、ギュッと子猫を抱きしめた
女の子に抱き上げるられて、子猫が喉をゴロゴロと鳴らす音が聞こえる
女の子は、子猫をなでた
子猫の生温かい体温を感じながら、母親が掃除機をかけ終わり、掃除機のボタンを押して、コンセントがシュルシュルと音をたてて、掃除機の本体に巻き取られていくのを見ていた
そして、コンセントが最後まで巻き取られたのを
見届けると、なにかの儀式が終わったのかのように女の子は、小さく吐息を吐いた
その吐息にびっくりしたのか、女の子の腕で喉を鳴らしていた子猫は、突然、女の子の腕から飛び出して隣の部屋に行ってしまった
女の子は、まだ腕に残っている子猫の温もりを感じながら、またでたらめな鼻歌を歌い始めた
そんな女の子の耳に
「おやつよー
手を洗ってきなさい」
という母親の声が 聞こえた
「はーい」
と女の子は、元気に答えると走って部屋を出た

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