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【短編】ナイフの記憶

ナイフがキラリと光るのが見えた
心臓がバクバクと音を立てるのが聞こえる
もう、ダメだ
と思った
そこで、目が覚めた
ああ、夢だったのか
と、天井をみながら思った
夢だったが、私の心臓は、現実的にバクバクと音を立てているのが聞こえる
妙にリアルな夢だったな
と、ぼんやりした頭で思った
そして、
あの夢に出てきたナイフ、どこかで見たことがある
とも思った 
どこで見たんだっけ?
と、考えていると
「これ、いいだろ?」
という声が頭の中に響いた
そして、思い出した
7年前に付き合っていた元彼の声だった
そして、夢にみたナイフはその元彼のものだった
ある日、彼の家に遊びに行った時に彼が見せてくれたのだ
彼は、ナイフマニアだった
20本ぐらいのナイフをその頃の彼は所有していた
その一本一本を彼は、嬉しそうに説明付きで見せてくれた
その説明を聴きながら、私は、嫌な感覚を感じていた
彼の説明が、人を傷つけるには、このナイフはどう使うのが一番効果的かというような内容だったからだ
そんな内容を、目をキラキラとさせて話す彼をみながら、恐ろしさを感じた
この男と付き合ったことを後悔した
しかし、別れる勇気も出なかった
彼は、かなりの嫉妬深い性格だった
そして、こんな風にナイフのコレクションを見せられたら別れ話を切り出したら、彼を怒らせたら刺されるかもしれない、という怖い妄想が、私を 縛ったからだ
だから、彼が、会社の新入社員の女の子に心変わりをして、彼から別れ話をされた時は、内心、ホッとしたものだった
そんなことを一気に私は思い出した
それにしても、もう7年も前の話なのに、なぜ今頃、夢にみたり、思い出したりしたのだろう
と、少しの居心地の悪さを感じながら考えた
私の今の彼の趣味は温泉巡りだ
そういえば
20代なのに、おじいちゃんみたいな趣味ね
と、こないだ彼に言ってしまった
彼は、特に気にする風でもなく
「渋いだろ?」
と、なんだか嬉しそうに言った
そうか、私は、今、すごく幸せなんだ
と、私は思った
人は、すぐに幸せを忘れてしまうものだ
チルチルミチルも幸せの青い鳥を探しに出かけたけど、結局、見つからず家に帰ったら、幸せの 青い鳥が既に家にいたことに気づくのだ
そんなことを考えていると、ベットサイドの携帯が軽快な音を立てた
私の青い鳥からの、おはようのLINEが着信した
私は、おはようのスタンプを彼に送ると元気よく ベットから跳ね起きた

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