【小説】CASE4:モリタココロ

ココロは、生まれて間もないころハタ家にきた。
きれいなおうちにふわふわのベッド、それから決まった日にだけワタルがつくる、お肉がたくさん入ったごはんが大好きだった。

あるときキョウカがいなくなって、ワタルからもいつものごはんをもらうようになった。
もうあのおいしいごはんはもらえないのかなと少しさびしがっているうちに、キョウカと、自分と同じくらいの大きさの子どもが家にきた。それがケントだった。
その日はいつもよりもお肉の入ったごはんで、とびきりおいしかったのを覚えている。

ケントは、ココロなんかよりもすぐにどんどん大きくなっていった。
キョウカとワタルと、同じように自分の名前を呼んでくれた。よく一緒に寝たりもした。乗り物に乗ったケントが危なくないようによく見ながら、おさんぽもした。
大好きなごはんは、ケントもつくってくれるようになった。だから自然と食べられる日もふえて、ココロもどんどん大きくなった。

とっても楽しかったのに、それなのに、ケントとワタルはいなくなってしまった。おうちが変わってココロには少しせまく感じた。ふわふわだったベッドも小さくて、ぼさぼさになった。

それよりもなによりも、ワタルとケントがつくってくれるおいしいごはんが食べられない。ケントに名前を呼んでもらえない。ケントとおさんぽに行けない。かなしくてかなしくて、しかたなかった。


モリタ家のココロは、すっかり大きくなった。
キョウカが起きて、家を出るまでの間はそばで大人しく寄り添う。
それからキョウカが家を出たら、日のよく当たる場所で寝転がって、空を飛んでる鳥なんかを眺める。あんな風に飛べたら、ケントのところまで行けるだろうか。
キョウカが帰ってきたら出てくるご飯を全部食べて、ベッドに戻って寝る、そんな生活。
いつしか体は重くて、目はあまり開かなくなっていった。

そんなある日、少ししか見えない視界でキョウカが震えながら泣いているのが分かった。ココロはとっくにずっと悲しいけれど、キョウカにもそうなってほしくなくて足にすり寄った。

キョウカが手に取っている戸棚の上の何かは、ココロからは高すぎて、何も見えなかった。

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