一瞬の事実

クラスメイトの一人が、線路に飛び込んで自殺した。
友人の口から発せられたその出来事で、寝不足だったカノコの目ははっと覚めた。

学生時代は、誰だって一度くらい死にたいと思ったことがあるはずだ。
でも多分その大半は現状から逃げたいっていう意味で、本当に死んでしまうことなんて想像していない。
カノコだって何度もそう思ったことがあるけれど、結局朝になれば枕に落ちた涙と一緒にその気持ちはどこかへ流されていく。
それが一夜の感情だと信じて疑わなかった。

でも今、クラスの机は1つだけ空いていて。ここに通っている人たちが使い電車は、間違いなく今朝遅れていた。人身事故で。
それから、ホームルームの時間はとっくに過ぎているのに、担任が来ない。
いや、耳をすませればカノコのクラスだけじゃなくて隣も、またその隣も先生が来てないと分かる。いろんな人の声で学校中が騒がしいはずなのに、カノコにはそれが妙に静かに感じられた。

いじめのいの字も、この学校に入ってから聞いたことがなかった。
たまに配られる相談ダイヤルみたいなプリントをそのままカバンに入れながら、もっと他に迷惑が掛からない方法で…なんて吐き捨ててさえいたのに。

負の感情は日々大きさを増して、体や心をむしばむこともあるかもしれない。カノコだってすべての悩みを一晩で忘れられたわけではないのだから。

でも、事実は一瞬だ。あの子が線路に飛び込んだことも、死んでしまったことも。
そのギャップが手に取るように感じられてしまって、カノコは震えが止まらなかった。左手には、おもむろにカバンから取り出した、くしゃくしゃのプリントが握られていた。

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