シェアハウス・ロック0726

がんの「自由診療」

 7月24日の『毎日新聞』4面に、『「有効」と宣伝 実証無く』という記事が載っていた。このがん治療に関する記事は、勝俣範之さんによる。この人は、日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授である。つい最近読み終わった、『がん「エセ医療」の罠』(岩澤倫彦)の「メインキャラクター」でもある。
 この本については、いつか紹介しようと思っていて、事実何回か前にそう話したのだが、この新聞記事を見て、フライイング気味の紹介になった。
 我がシェアハウスのおばさんにがんが発見されたものの、手術は無事成功、予後も問題なしだが、おばさんはこれをきっかけに、がん関係の本を読みあさっている。上記は、そのうちの一冊であり、私に回ってきたものだ。
 さて、同記事に戻る。同記事では、ネット検索で見つかる書籍をまとめると、クエン酸療法、コロイドヨード療法、活性化酸素療法、漢方療法、野菜スープなどがあるという。また、クリニック等が宣伝しているHPでは、がん複合免疫療法、オーダーメード免疫療法、活性NK細胞免疫療法、樹状細胞ワクチン療法、自己がんワクチン療法などがあるそうだ。これらはすべて「自由診療」である。
 しかし、その記事では「こうした治療法の中で、現時点で『がんに有効』という効果を実証したものはありません」と言い切っている。
 前述の『がん「エセ医療」の罠』は、「自由診療」にはまって、悲惨な状態に陥り、最終的に亡くなった例のオンパレードである。
 同書の「はじめに」に、次の文章がある。

 がん治療に関わる真っ当な医師たちは、エセ医療に対して苦々しい思いを抱いているが、自分の患者がエセ医療を希望したときに、強く引き留めはしないだろう。
 正しくはできない、と言うべきかもしれない。なぜなら2014年に施行された「再生医療等の安全性に関する法律(以下再生医療安全法)」で、自由診療の免疫細胞療法が公認されたからである。

 つまり、エセ医療とは思っていても、法律で公認されている以上、現場の医師は、「その療法はやめるべきだ」と言えなくなってしまったということである。だから、良心的な医師は、「その療法をやっても、標準治療も続けてくださいね」と言って、はかない抵抗をするのがせいぜいである。
 忘れないうちに、言っておく。
 この法律を通したのは安倍晋三である。
 同書によると、

 安倍政権が成長戦略の一つに掲げ、有効性の確立していない免疫細胞療法を、患者が高額な費用を負担して行うことができるように認めたのである。以来、この法律は世界標準のEBMを無視して、エセ医療を国が公認した”天下の悪法”といわれるようになった。

 ここで、EBMとあるのは、エビデンス・ベースド・メディシンの略である。「根拠に基づく医療」ということであり、上記「標準治療」はイコールとお考えいただいていい。
 しかも、安倍政権/内閣府は、免疫細胞療法を標榜する瀬田クリニックを東京圏国家戦略特区の構成員に選定、その一環として、国は順天堂大学付属病院のなかに、19床のベッドを認めるという特別措置を与えたのである。これは異例中の異例と言っていい。ここでも、安倍晋三は、とんでもないことをやっている。つまり、医療を経済成長戦略の一環と位置付けたのである。
 免疫細胞療法とは、大雑把に言えば免疫細胞を取り出し、それを培養して増殖し、体内に戻すというものである。自分の細胞だから副作用もなく、効きそうな気がするが、そんなことはない。
 まず、体内に戻された免疫細胞は3日程度で死滅する確率が高い。次に、がん細胞にまでたどりつく確率が極めて低い。最後に、がん細胞そのものがこの免疫反応にブレーキをかける。つまり、無効にする。
 最後の「ブレーキ」は「免疫チェックポイント」のことであり、これを外すのが免疫チェックポイント阻害薬・オブジーボなのである。

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