【文献レビュー】マスターズスイマーのスポーツ的ライフスタイル

結果
サンプル属性
 30代以上の中高年者の男女が多くを占め、職種もばらつきが見られ、学歴的にも、高卒以上で大半を、大卒者の数も約3割程度を占めている(表3を参照)。

分析対象となる学生以外のサンプルのうち、3つの過去のスポーツ種目経験パターン別に学生時代における1年以上のスポーツ・運動クラブ経験を見てみると、A:水泳競技経験群が65名、B:多種目経験群が67名、C:未経験群が61名とほぼ同数の割合を占めている。

スポーツ的ライフスタイルの因子構造
SLS25項目を因子分析した結果、表4を示すように、固有値1.0以上の8因子を抽出した。これら8因子による全体の累積寄与率は52.7%であった。また、これら各々の因子は、因子負荷量の大きさによって解釈し、次のように命名した。第1因子は「スポーツ効果因子」、第2因子は「地域志向因子」、第3因子は「流行・オピニオンリーダー因子」、第4因子は「ウエルネス習慣因子」、第5因子は「競技志向因子」、第6因子は「コミュニケーション因子」、第7因子は「経済的消費行動因子」、第8因子は「レジャー探索因子」と命名した。これらの因子は、これまでの研究におけるレジャーやバケーション、日常的なライフスタイル因子と多くの点で共通した因子構造を持っているが、スポーツ特有の競技志向や地域スポーツへの志向因子などは、新たに抽出された因子となった。

 これらの結果から、マスターズスイマーの持つSLS因子は、スポーツ効果を重視し、地域スポーツやスポーツ現場での積極的なリーダーシップ、ウエルネス志向によって大部分の説明がつくが、競技志向や仲間とのコミュニケーション機能を重視するようなスポーツ本来の持つ活動特性に裏付けられたSLS因子も重要な意味を持っている。

SLS因子によるマスターズスイマーのグルーピング
 SLS因子によるクラスター分析から、①競技志向、②ウエルネス・レジャー生活志向、③コミュニケーション志向、④地域スポーツ・リーダーシップ志向の4クラスターグループが明らかになった。

 そして、これらのグループを従属変数に性別、年齢、過去のスポーツ種目経験パターンを独立変数としたクロス分析をした結果が以下の表である。

X²検定を行った結果、性別とスポーツ種目経験パターン別が5%水準で有意な差が見られ、年齢では有意な差は見られなかった。

以上マスターズスイマーのSLS構造とグループ分類についての分析結果について述べてきたが、過去のこの種の研究で明らかにされたライフスタイルが性別や年齢などいくつかの属性に関した社会学的変数に影響されるとしてきた主張とは別に異なった結果を示した。

性別
クラスターグループの地域スポーツ・リーダーシップ志向に男性の占める割合が多く、コミュニケーション志向に男性の割合が少ない。
→マスターズスイミングを通じて、他人とのコミュニケーションや社交を重視するのは、男性よりも女性の方が割合が多いことを示している。

過去のスポーツ種目経験とクラスターグループの関係
 過去に水泳競技を経験したものは、約半数が地域スポーツ・リーダーシップ志向グループに、約25%が競技志向のスタイルをとっている。また、他のスポーツ種目を経験したものは、ウエルネス・レジャー生活志向と地域スポーツ・リーダーシップ志向のスタイルを約40%と30%の割合でとっている。

 過去のスポーツ経験がなく、マスターズスイミングを初めて行うようになった未経験群は、約3割と3割5分の比率で、競技志向と地域スポーツ・リーダーシップ志向のスタイルをとっている。
→単に過去のスポーツ経験によって価値づけられたり、習慣化されたスポーツに対する質的な行動側面が、現在のマスターズスイマーのスポーツ的ライフスタイルへの影響を及ぼしているだけに関わらず、現在のスポーツ実施状況も少なからず影響している。

5.結語
 本研究では、マスターズスイマーのスポーツ的ライフスタイルの因子構造とグループ分類を明らかにし、それらの特性に影響を及ぼす過去のスポーツ種目経験とのクロス分析を試みた。

その結果、以下のことが明らかとなった。
1)マスターズスイマーのSLS因子として、①スポーツ効果、②地域志向、③流行・オピニオンリーダー、④ウエルネス習慣、⑤競技志向、⑥コミュニケーション、⑦経済的消費行動、⑧レジャー探索の8因子を抽出し命名した。

2)SLS因子によるクラスター分析結果からは、①競技志向、②ウエルネス・レジャー生活志向、③コミュニケーション志向、④地域スポーツ・リーダーシップ志向に分類された。

3)グルーピングされたSLS4集団は、過去のスポーツ経験からの影響を受けているものの競技志向へのSLS形成については、過去のスポーツ経験のない初心者レベルにおいて多く見られた。

マスターズスイマーのスポーツ的ライフスタイルの構造と、その構成集団の主だったSLS特性も明らかとなった。それらのSLSの8因子をもとにグルーピングされた4つのタイプのSLS集団んでは、特に、過去のスポーツ経験パターンとの間で強い関連が見られた。
→過去のスポーツ経験が後のライフステージにおけるライフスタイル形成に影響を及ぼすという老年学での継続説を補完的に裏付ける結果である。同時に、初めてマスターズスイミングを始めたもののSLS特性を見る限り、現状のスポーツ実施状況が過去のスポーツ経験の状況変数と同様なSLS形成への役割・機能をもっていることが明らかであるとともに、その社会学的メカニズムについては、今後の研究課題としたい。

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