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映画『ONODA 一万夜を越えて』の感想です。

映画『ONODA 一万夜を越えて』を観てきました。

あくまでも個人の感想です。ネタバレ含みます。ただ史実なのでそこはよしなに。

「恥ずかしながら帰って参りました」

この言葉を発したのは横井庄一さんで、小野田さんではありません。恥ずかしながら僕はこれまで勘違いしていました。

主人公の小野田寛郎少尉は1974年に太平洋戦争の最後の帰還兵としてフィリピンから祖国日本へ戻ってきた実在の人物です。戦争が終わったのが1945年ですから29年間も戦争状態でいたという想像もつかない激動な人生を送った方です。

映画はこの小野田少尉が、終戦前に特殊訓練をを受けフィリピンに派兵されるところから、戦後29年経って日本人旅行者により発見されフィリピンを離れる約30年間の出来事を描いたドキュメンタリー作品です。

先ず意外だったのが、製作がフランス人監督によるヨーロッパ映画であり、日本人俳優による全編日本語であるという点でした。

なぜ今、小野田さんに注目したのか、なぜこの映画をつくろうと思ったのかは分かりません。ただ、日本人が製作する戦争関連映画というと、どこか旧日本軍懐古主義というか、どうしても末端の兵隊さんに対する同情目線で描かれるセンチメンタリズムが強いものになり、あまり個人的には好きではないのですが、そこは外国人が撮ったこともありそんなお涙頂戴はほとんどなく、ありのままの風景がそこにあると感じました。

特に印象的だったのは、俳優の目の演技です。多くを語らず、あえて映画鑑賞者それぞれに考えさせるような余地のある目の演技と撮り方は、やはりヨーロッパ映画らしいと感じました。(ハリウッド映画は押し付けがましくてちょっとうるさいんですよね…)

あと小野田さんが終戦後、何故そんな長い期間フィリピンのジャングル奥地に滞在していたのか(終戦に気づいていないのもあるが)という理由が、初めて分かりました。

それは派兵される前に受けた訓練にありました。小野田さんが受けたのは秘密戦用特殊訓練です。これは要するに、戦地でゲリラ戦を展開するために現地のあらゆる人材・資材を活用して、半永久的に戦闘を継続するための訓練で、戦闘員は「絶対に自ら命を絶ってはいけない」という指令を受けた特殊任務だったのです。

この事実は非常に興味深く、これまで特攻隊を描いた映画や作品はいくつもありましたが、ゲリラ戦戦闘員を主人公にした作品は初めて観ました。

確かに、物語の展開は地味です。ドキュメンタリーだから仕方ないのですが、それでも約3時間のフィルムは全く退屈することなく鑑賞しました。

そして最後に日本人旅行者により小野田さんは発見されますが、小野田さんは命令が解かれない限りはこの地を去ることはできないと一旦帰国を固辞するのです。

これには少し感動を覚えました。客観的にみたらクレイジーです。でも受けた命令を最後までやり遂げる意志の強さに、僕は畏怖を念を抱きました。

そんな小野田さんの帰国を実現するため、例の旅行者は小野田さんの当時の上官を探し当て、フィリピンに同行してもらい、命令を解くというセレモニーを行い、ようやく小野田さんは約30年間過ごしたフィリピンのジャングルからの飛行機で去るというところで映画は終わります。

小野田さんはそれまで関わった戦友たちとの想い出を決して忘れず過ごしていました。そんな想いを残して飛び去る飛行機からの風景をどのような思いで眺めていたのでしょうか。その答えは本人にしか分かりませんが、それを推し量る鑑賞者の心を俳優の目を通して鏡のように写すこの映画の良さがここにあると思います。

今までの戦争映画とは違った角度での戦争の悲惨さが描かれたとても素晴らしい作品だと思います。機会があればいろんな国の人に観てほしい映画です。



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