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ブルーピリオドを真面目に批評してみる

美大出身の作者が描く美大受験漫画です。作者が美大生だけあって説得力があります。これまたあまり万人にメジャーなテーマを描いているわけではないので、目のつけどころとして優れています。

そして何より絵がうまいです。扉絵や表紙、見せどころの一枚絵はさすがというほかありません。特に表情の描き方がめちゃくちゃうまいです。セリフと絵がすごく合っています。人の表情にかかる影の描き方が僕が読んできた中でも随一うまいです。予備校の先生の顔にかかる影が最高です。そして真面目なコマの後にデフォルメされた抜けたコマが来ることが多く、絵力の緩急がうまいです。

しかし、絵がうまいのと漫画がうまいのは別です。漫画のうまさは、正直言って目を見張るほどではないと思います。題材や絵はうまく、話もおもしろいので漫画としておもしろいですが、予想に反したことや想像以上の展開がなくうまいな〜と唸らせる場面が少なく感じます。

個人的にすごく気になったのが、ジェンダー系や見た目が個性的なキャラが多く出てくることです。これは美大のリアルなのか、それとも多様性を表現してるのでしょうか。ヒロイン枠?のキャラは女装男子ですし、美術部や予備校の生徒も個性的な服装や性格をしています。狙ってやっていることなら、昨今のジェンダー批評的なブームに乗っているとも捉えられるし、絵を描く人はやっぱ尖ってるんですよと言われればそれまでという感じです。(決してこれがダメとかいいとかではなく表現に意図はあるのかという問いです。)

美大受験の過酷さを数字以外でも表現してほしいと思います。美大受験をしていない身からすると倍率かすごいのはわかるのですが、受かるべくして受かる人には倍率なんて1倍以下でしょうし、漫画だしどうせ主人公は受かるだろと思ってしまいます。浪人生活を描くのは、展開がゆっくりになってしまうためしんどいだろうなと読めてしまう。例えば先輩をもう1人出して片方落ちるとか絶望感や壮絶な壁感をもっと出してほしいところです。

また、メインキャラの数が少ないので、もっと心情を深掘りした方がキャラに魅力が出ます。なぜ受験しようとしてるのか、どんな思いで絵を描いているのか、そのキャラの絵の特徴は何かを絵を通してではなく、ストーリーの中に盛り込む方が読者の共感性は高いと思います。

しかし、心の中をビジュアル化するのは絵を描くというテーマと相まってすごくうまいです。主人公の空気が読めたり優等生な面と、独りよがりで自分が思いっきり楽しみたいという二面性を一次試験まで取っておいたのは、すごくうまいなと思いました。心は絵に出るというのが、すごく説得力を持って描かれています。

表現技法で言えば、いろんなスクリーントーンを使っています。さすが美大生。引き出しが多い。影の描き方がうまいと言いましたが、黒を漫画で描くのは意外と難しいのかもしれません。決まりきった方法ではなく様々なトーンを使って表現しているところが魅力的です。

ちなみに好きなキャラは橋田悠と大場先生です。ぜひ橋田のcv.は宮野真守でお願いします。

道が交わればまたどこかで。


大体コーヒーか漫画に使います。もし万が一この若造にコーヒーや酒の1杯おごってやってもいいと思う方がいらっしゃるのなら嬉しい限りです。