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俳句の道|俳句修行日記

 句作を面白く感じ始めたこの頃、一句にかける時間が長くなり、締切に間に合わなくなることもしばしば。痺れを切らした師匠、「どんな句を詠みたいのか」と聞くものだから、「他人が嫉妬するような俳句です」と答える。

 師匠のたまう。「おまえは、他者を貶めることに喜びを得たいのか」と。

 現代人は、まるであたりまえのように比較と競争に明け暮れている。それを助長しているのが「あふれる情報だ」と、師匠は言う。つまり情報は、他者の姿を明らかにし、自らを顧みる時に不遇の思いを植え付ける。そうして味わう挫折の中で、責任転嫁を促すものなのだと…
 師匠は、ここに支配が生まれるのだと言う。満たされぬ欲望を夢で装い、ツワモノが自由を搾取しに来るのだと。だから、「一個の俳人を目指すなら、欲望と無縁であれ」と。

 しかし、諸欲は明日への原動力なのではないかと、ボクは思う。こんなボクには、俳人になる資格がないのだろうか…


 あの日から、『無欲』をテーマに頑張ってきた。しかし、それもそろそろ限界だ。どんなにしたって眠たくなるし、腹は減る。そうなりゃ、美味いものは食いたいし、いい夢ばかり見ていたい…
 何も進まなくなったデスクに向かって溜息つくと、「おまえは、意欲さえも無くしてしまったというのか?」と師匠。答えられなくて目を瞑ると、「今日からは『無』を意識せよ」と。あまりに漠然とした課題にのけぞると、師匠は肩をたたいてこう言った。
「何も持たない自分を許せることじゃよ。」

 他人は他人。俳句の道は、ありのままの姿を受け入れること。そうすることで、何ものにも左右されることのない、自在の境地に解放されると…
 はやく言ってくれればいいのに。イジワルだな、師匠!(修行はつづく)