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AI の中心で、愛をさけぶ|俳句修行日記

 業績がパッとしないことを咎められたので、「出る杭は打たれるといいますから」と言って反論した。そして、「日本は住みにくいところだな」とぼやくと、「イチローも大谷も日本型システムが育てたんじゃよ」と師匠が怒鳴る。
「ここは、伝承を重視しながらも寛容な国じゃ。出る杭は打たれると言い訳する奴は、最初から悔いることばっかり言う奴じゃ。挑むこともなく、甘い汁ばかり吸おうとしておる。そういう奴は、打たれる前に折れてしもとんのじゃ。信念をもって自らを貫き通す人間に、この国の人々は優しいよ。」

 杭打ち論が堂々巡りして、「いずれヒトはAIに打ち据えられるんだ」とつぶやいた。俳句の世界にもAIは進出し、すでにプロ並みの手並を誇示している。「もうすぐ本格的な添削もしてくれるでしょうよ」と言うと、師匠大笑い。
 師匠のたまう。「技巧面では、そのうちAIに太刀打ちできなくなるよ。しかし、言葉の存在意義を考えた時、勝負はすでに決しておる。」

「おまえは、無機的な存在が吐き出した言葉に、真の感動を味わうことができるか?感動とは、共感の延長線上にあるものぞ。」

「俳句とは、生きていく中にこそ生まれてくるもんじゃ。そこにはな、人生の面白みが詰まっておる。AIの並べた言葉がどんなに整っていようが、そこにはそれを裏打ちする背景がない。」

「俳句へとつながる古代からの歌の世界は、技巧に走って幾度となく方向転換してきた。作為の色が濃くなれば、技術的なものばかりが指標となって、人心はそこから離れていくもんじゃ。実感できん言葉に、心動かされることが無うなってな。」

「下手でも構わんもんが俳句なんよ。だれに認められる必要もない。ただ、溢れ出る思いには忠実にな。」
 師匠わかり申した、じゃあ一句。「ええ愛を齧りて倦むや嫁が君」


 翌日、飲み仲間に出る杭の話をした。すると、「出る杭は引き抜くものだよ」と、目を輝かせる。奴は経営者だった…(つづく)