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(25139文字)


一人の少年がベッドから起き上がった。
今日もいつもと変わらない、一日だ。
彼は台所に行くと、食べ物が用意されていた。
お父さんは会社、お母さんはどこかに出かけている。
彼は毎日家で一人だ。
だが、それが日常なので彼はそこまで気にしていない。
今日も同じような日常になるはずだった。
彼は外に出て、学校に行くところだった。
そこへ、一匹の猫が歩いてきた。
いつもなら逃げていくが、その猫は彼に近づいてきた。
彼はその猫を気にせずに学校まで歩いていった。
だが、学校までその猫はついてきた。
彼は猫に気が付かず、学校の中に入っていった。
授業が終わり、給食の時間になった。
給食を食べ終わると彼はいつも行く屋上まで上がった。
そこで空を眺めていると、目の前から猫の声がしてきた。
前を見ると、家の前で見た猫が彼を眺めていた。
いったいどうやって屋上まで上がって来たのか彼は考えてしまった。
普通に階段を使って上がってきたのなら誰かに見られたはずだ。
だが、ほかに上ってくる方法などないはずだ。
すると、猫が口を開いた。

こんにちは。

彼は口を開いたまま石のように固まってしまった。
無理もない。一匹猫が今、口を開き、話したのだ。
驚かない人がいればその人はおかしいと思う。
「私の名前は山田やまだ七海ななみ、少し変わった少女」
僕は目を丸くした。
「今、少女って言った?」
猫は頷いた。
「いやいやいや、どう見ても猫でしょ」
だが、猫はプルプルと震えだした。
「あ、切れるみたい」
僕は意味が分からなかったが、すぐにわかった。
スライムのように崩れ落ちると、また形が作られ始めた。
数秒後には正真正銘、少女が立っていた。
「??」僕の目はぐるぐると回っていた。
「????????????????????????????????」
僕はそのまま倒れてしまった。
起きると、保健室のベッドで寝ていた。
何分経っただろうか。
時計を見てみると、まだ二十分しかたっていなかった。
近くにはもう少女が見当たらなかった。
どこかに行ったのだろう。
そう思い、保健室を出ると普通に授業をした。
だが、その間、ずっと窓の外にいる鳥が気になった。
ずっと僕を見ている気がしたのだ。

学校が終わり、家に帰った。
鍵を開けてドアを開けると、いつもと同じで静かな部屋だと思っていた。
ドアを開けると、そこには誰もいなかった。
やはりそうだ。
そう思い、一歩中に入ると急に上へと浮かび上がった。
「!?」
気付いたときはもう遅かった。
僕は天井に頭をぶつけて、さかさまのまま立っていた。
「あ、ごめんごめん、おかしいな…私だけにしたはずなのに…」
目の前にはさかさまの少女が立っていた。
彼女は天井に座っていた。
まるで重力がひっくり返った蚊のようだった。
僕は天井で立ち上がり、少女のところに近づいた。
どうやらほかのものは普通に重力があるようだ。
その時僕は思った。
もしもいま、ドアから外に出れば宇宙まで落ちていくのではないのかと。
「それはないよ」少女は僕に向いてきた。
「え?」僕は少女をじっくりと見てしまった。
彼女は真っ赤な服を着ていて、真っ赤なリボンをつけている。
肌はさらさらとしていて、赤目をしていた。
金髪だったということが不思議だ。
大体の時は目の色と髪の色は一致するはずだが、髪を染めたのか目を染めたのか…
「だってこの重力は家の中だけ、もしも外に出れば地面に頭をぶつけるよ、重力が戻るから」
僕は思った。
「君は本当に何者なんだ?」
彼女は僕を少しの間見てからにっこりとして答えた。
「私の名前は山田やまだ七海ななみ、少し変わった少女」
僕は自分も自己紹介をしないといけないと思ったのか、自己紹介をした。
渡辺わたなべ 蓮田れんただ。よろしく、と言いたいところだけどこれをどうにかしてくれるか?」僕は地面を見上げて指さした。
「ああ、ごめん」彼女は置いてあった機械のボタンを一つ押すと、重力が元通りになった。
だが、問題は僕が逆さまだったということだ。
僕はまた頭から地面に落ちた。
前は天井に頭を落としてしまったが。
「痛~…」僕は地面に倒れたまま七海をにらんだ。
「というかなんでここにいるんだ?」
彼女は帰る場所があるはずだ。
こんなことができるから、どこか知らない世界から来たに違いない。
彼女は指を鳴らした。
すると、地面に転がっていたあの機械はこの世から消えた。
「どこに行ったんだ?」もう僕は驚くことを飽きたようだ。
彼女は首をかしげた。
「どこかの四次元世界」
僕は目を丸くした。
どうやら彼女は指を鳴らすことで四次元世界とつながるようだ。
僕はもう完全に驚かなくなってしまったようだ。
「とりあえず、帰るあてはあるのか?」
彼女は首を振った。
「あるわけないよ、どこから来たのか覚えてないもの」
僕はため息をついた。
これからどうするのかと聞くと、ここに住むといってきた。
僕は驚き、また天井に頭がぶつかるかと思った。
だが、そんなことは起こらない。
「いやいやいや、親が許すわけないでしょ」
僕の親は友達をほとんど招待できないような家族だった。
行くことは許すが、来ることは許さない。そういう人だった。
そんな親なのにここに住むことを許すはずがない。
「だからこれを使うの」彼女は指を鳴らした。
すると、どこからか携帯が現れた。
「これでテキストしたことはすべて本当になる。健闘を祈ってほしいね」
蓮田は目を細めた。
「健闘を祈ってほしいってどういうこと?」
彼女は少し困った顔をした。
「これは時々間違えたように理解されるころがある」
僕は慌てて彼女を止めた。
嫌な予感しかしなかったからだ。
「他に方法はないのか?」
彼女は考えてから答えた。
どうやら存在するらしい。
だが、これは今まで彼女がこの家に存在したという設定にする道具らしく、初めはいやだったがもう仕方なかった。
「好きにしろ」僕はあきらめて、地面に座り込んだ。
彼女が取り出したものはボタンだった。
そのボタンを手に持つと、言葉を発した。
「私が今いる家でずっと暮らしているようになりますように」
僕は、その時気付いた。
「それをさっき使えばよかったじゃないか!」
だが、その時にはもう遅かった。
彼女はもうボタンを押していて、その願いが実在してしまった。
気が付くと何も起こっていなかった。
「?」僕は部屋を見て回ったが、ほとんど何も変わっていなかった。
「変わったよ」彼女は玄関を指さした。
ちょうどそこへお母さんが帰ってきた。
僕は慌てて七海を隠そうとしたが、そんなことをしなくてもよかったようだ。
「あ、七海はどこかに出かけてたんじゃないの?」まるで家族の一員かのように七海と接していた。
どうやら願い事が本当になったようだ。彼女はではなく、本当に家族の一員なのだ。
事実を知っているのは七海と僕だけだった。「そろそろ遅くなったし早く寝なさい」まだ七時半だった。
どうやら七海が来たせいで寝る時間が早まってしまったようだ。
そして、何よりも問題になったことがあった。それは七海も同じだったようだ。
七海のベッドがないのだ。「わ、私のベッドは?」彼女はまさか…という顔でお母さんを見た。
そのが本当になってしまったようだ。「何言ってるの、二人とも同じベッドで寝るでしょう?」
彼女は顔を真っ青にして外に飛び出していった。「あ、ちょっと!」お母さんは止めようとしたが、もう遅かった。
僕も一緒に飛び出していったからだ。

「どうする?」彼女は僕に訊いてきた。
「戻す方法はないのか?」彼女は頷いた。
ボタンを取り出すと、説明してくれた。
とても簡単な説明だったので省略もいらないだろう。
「このボタンをもう一度押せば消える」僕はボタンを押してほしいと思った。
だが、彼女の顔を見ればそんなこと出来っこなかった。
「帰るところはあるのか、もしもそのボタンを押せば帰るところはあるのか?」
彼女は額に水滴が流れ落ち、首を振った。「…」僕がうつむいていると、僕の額からも水滴が流れ落ちた。
すると、どんどん水滴が舞い降りてきた。雨が降り出したようだ。
僕らは屋根の下に避難して、空を眺めた。
空からは水滴がたくさん落ちてきている。
僕らは沈黙のまま過ごしていた。
なので、僕はその沈黙を壊すために何かを放そうと考えた。
その答えは来れた。
「どうして学校の屋上にいるんだ?」
「さあ」
僕らはまた沈黙に落ちいてしまった。
「とりあえず帰ろうか」僕らは雨の中、ゆっくりと家に帰った。
「お帰り」このことを忘れたかのようにお母さんは接していた。
「「ただいま」」僕らは服を着替えた。
彼女の裸を見たのに、なぜか何も思わなかった。
一緒のベッドで寝ることになった。
これはさすがに僕らは緊張した。
僕らは数十分寝ることができなかった。
「ねえ」彼女は僕に訊いてきた。
「何?」僕は眠い目で聞いてみた。
「この世界って公平だと思う?」とてもおかしな質問だった。
あまりおかしかったので僕は動揺してしまった。
「どういうこと?」彼女は空を見たままつぶやいた。
「言葉のままだよ。この世界は公平だとは思えないよ」僕は何も言えなかった。
「不幸な人は不幸な生き方をして、運のある人は運の良い生活をする。それはおかしいじゃないかな」
「…」僕は何も言わなかった。
「まあいいか、お休み」僕は頷いてから、目を閉じた。

その夜、僕は夢を見た。
どんなのかは覚えていない。
だが、なぜか知っている人の夢だった気がした。
いったい何なのかはわからない。
だが、起きるともうほとんど忘れていた。
思い出そうとしたが、何一つ思い出せなかった。
誰か知っている人のような気がしたが、もう何一つ思い出すことはできなかった。
とりあえず僕は起き上がり、台所まで歩いていこうとした。
だが、起き上がろうとすると何か重いものが乗っていることに気が付いた。
僕は細い目でそれが何なのかを見てみると、そこには七海が寝転がっていた。
どうやら寝相がとても悪いようだ。寝始めた時はまっすぐだったのに九十度も曲がってしまった。
押しのけるのにはとても手間がかかった。
彼女は寝るのが天才なのか、いくらゆすっても声をかけても起きなかった。
やっとずらすことができて、立ち上がるとそのまま洗面台に向かった。
曲がり角を曲がると、声がかかってきた。「おはよう」そこには七海が立っていた。
僕は驚きすぎて尻もちを搗き、強く気の壁に頭をぶつけてしまった。
「いって~」僕は頭をさすった。「ごめんごめん、瞬間移動でここに来たんだけどね」
僕はじろりと七海をにらんだが、ため息をついた。「とりあえずもう脅かさないでくれ」
だが、その願いはかなうことがないだろうと心の中ではわかっていた。
「あら、二人とも、今日は速いわね」僕は首をかしげた。
いつも通りの時間に起きたはずだ。一応時間を見てみると、まだ五時だった。
外の太陽に騙されてしまったようだ。
僕はまたベッドに戻ろうか考えたが、面倒だったのでそのまま起きておくことにした。
顔と手を洗うと台所に行った。
そこにはもうご飯が置いてあり、湯気がもやもやと出ていた。
僕と七海、お母さんとお父さんが席に着くと手を合わせた。
「いただきます」いつもはすぐに食べていたが、お母さんに止められてやらないといけなくなった。
その幼さと気まずさは七海も同意のようだ。
どうやら昔からずっといたことにしただけで、細かくまでは設定できなかったらしい。
それがあの機械の弱点だ。と、僕は思った。
ただ、よかったのは何もなかった。
学校に行くと知らない友達ばかりで、今まで友達だった人は友達じゃなくなるし、クラスは変わっているし僕の成績は悪くなっているし僕がスキだった先生は去年出て行っているしでいいことなど何一つなかった。
あったとすれば学校一位の天才少年少女が僕の友達になったということだ。
その二人はオール五を毎回とっていて、学校では一番人気といってもいいだろう。
将来はどんな仕事にもつくことができるといわれているほどだ。
宇宙飛行士にだってソウル大臣にだってなれるかもしれない。
どんな期待をしてもおかしくないようの人だった。
僕は僕らと話すのは楽しかった。
初めはついつまを合わせるのが大変だったが、少し経つと普通に話すことができるようになっていた。
七海といえば一日目で学校ではなじんでしまい、いいことといえば違うクラスだったということだ。
もしも彼女が同じクラスだったとすれば問題しか起こらなかっただろう。
だが、彼女は変な道具らしきものをたくさん持っていた。彼女の思うがままだろう。
彼女は軽々と理屈をひっくり返して彼女が僕と同じ教室になるようしてしまった。
僕はめんどくさかったが、他の人たちから怪しまれたくはないので仕方なく受け入れた。というか受け入れざるを得なかった。
それから数日は何事もなく進んだ。彼女はほかの人たちとばかり話し、僕には話してこなかったのはとてもうれしいことだ。
だが、それはある日、変わるのだった。
「ねえ」彼女は僕を見てきた。僕の頭には嫌な予感しかしない。
今、僕らは屋上にいる。僕にとっては久しぶりだ。この数日、忙しくて上がってくる暇がなかった。
そこに、ほとんどの時は誰もいないので静かで落ち着くからそこにいる。
日向ぼっこに使うことだってある。「何?」僕は訊き返した。
とりあえず聞くことだけはしようと思った。
彼女はフェンスの先に振り向いてから聞いてきた。「学校って楽しいの?」
不思議な質問だった。そんなことを訊かれたことは今までの人生で一度もなかったからだ。
僕は少し考えた。別に楽しいというわけでもなかったが、面白いというわけでもなかった。
今まではそこまで友達がいなかったので特に友達関係で学校に来たいとは思わなかったし、勉強が嫌で来たくないとも思わなかった。
勉強なら言われたことをすればいいだけだ。勉強は学校でちゃんとしていれば普通に平均点以上は取れる。
もしも何かわからなければ先生に訊けば何でも教えてくれるし、今の時代では先生がわからなくてもインターネットで調べれば大抵なことはわかる。
だから、この質問は少し悩んだ。だが、考えた答えは意外と簡単だった。「まあ、どちらもないかな」彼女は不思議そうな顔で僕を振り向いてきた。
まあ当然だろう。普通なら勉強が嫌で嫌いというか、友達と一緒にいるから好きという。この答え方は多分聞いたことがないのだろう。
「そういえば七海はどこから来たの?」今度は僕が訊いた。彼女は少し考えたが、答えなかった。なぜか答える気がないかのようだ。
僕は少し気になったが、それ以上訊くことはしなかった。すると、そこへあの天才少年少女二人が現れた。「なんでここにいるんだ?」その一人・僕・斉木さいき弓田ゆみだが言った。
僕がいつも昼休みはどこで何をしているのか訊いたことがなかったが、どうしてここにいるのかわからなかった。前回の世界ではここに毎日来てたが見たことがないからだ。
「そっちこそなんでここにいるんだ?」僕もまた訊き返した。すると、僕らは同じ時に答えた。
「「ここが一番落ち着く」」それを聞いてもう一人・彼女・斉木さいき晴香はるかと七海が笑い出した。「「な、なんだよ」」僕らは彼女たちに向いてつぶやきをぶつけた。
二人の言葉は完全に重なっていた。どうやら晴香と弓田はまだ七海のことを完全に走らないようだ。
「「ここに君が来るのは意外だったよ」」完全に、重なってしまった。
少しの間重なっていたが、仕舞いにはその積み重なりが終わった。
「それで、」弓田は蓮田を真剣な顔で見てきた。僕は額に汗を表し、つばを飲み込んだ。
「な、何だ?」健太も視線を跳ね返した。
すると、弓田は健太から視線を外し、横を見た。「いったいどこからあいつはスライムをとって来たんだ?」
横を見ると、そこには七海がスライムで遊んでいた。あまりにも長引きすぎて暇になったようだ。
だが、問題はそこじゃない。問題というのはさっきまでどこにも見当たらなかったということだ。
彼女の周りには箱もないし、あのスライムを空中から出したのだと思えるだろう。本当にそうだからだ。
僕はため息をついて七海の近くに行った。「その力は隠せといっただろう」どうやら、前に言ったのに聞いていなかったようだ。
はため息をついたが、もうどうにか理由を作っておくしかなかった。うまくそこを通り抜けると、もう七海はスライムを消していた。
そのことは二人とも気づかなかったようだ。
僕はそのままフェンス越しから遠くを眺めた。
ここはやはり涼しく、静かで穏やかだ。だが、それをほかの人たちが少し壊していたが。
うるさいしやかましいしうざいし。ここにいるときはいつも静かだった。今までは、の話だが。
だが、今は他の人たちがいる。だから少し変わってしまったようだ。少しうるさすぎる。
確かに学校で一番の天才と友達になれたのはうれしい。色々訊けるし。
だけど、正確がいいとは限らなかった。「ちょっとうるさいんだけど」僕は皆をにらんだ。
屋上にいるメインの目的が僕らのせいで粉々にされた。
だが、ここよりいいところはほかになかったので仕方なくここに残った。
「おい」僕はそれから数分で限界になった。
彼らは思ったよりうるさく、めちゃくちゃイラついた。
「黙ってくれる?」昼休みだけでも静かな部屋にいたかった。
授業はとても疲れる。これからもめんどくさい。
僕は七海をずるずるとずらして建物の裏に行った。
「静かなところは作ることができるか?」彼女は考えてから答えた。
「充分静かだと思うけど」だが、勿論少しうるさすぎる。
僕が欲しいのは完全な静かさだった。「まあそれならこれがあるけど…」彼女はヘッドホンを取り出した。
見せてもらうと、すぐにどうやって使うかを予想できた。
頭につけると、周りの音が聞こえなくなり、静かになる。そういう使い方だろうと僕は思った。
「違うよ」彼女は首を振った。「これは『音害おんがい』、音を害だとみなし、《・》|に音を聞こえなくする」
僕は首をかしげた。その違いが全く分からない。「ということは精神に問題が現れるんだ」
僕は目を点にした。「人間の耳は常に音を聞こうとする。だから何も聞こえないところではキンキンと音が鳴るでしょ?しかも自分の声が聞こえないからそれも問題」
少し考えることになった。確かに音が聞こえないと不便だ。だが、それでも音が聞こえないようにしたい。
「他に何か方法はないの?」彼女は少し頭を回した。「あれならあるかも」彼女は何かを思い出したかのように、指を鳴らし始めた。
ぽんぽんと何か道具が出てきたかと思うと、すぐに消えた。「これだ!」彼女はノリらしきものを取り出した。「これは『防音エリア』。角につければその中では音が聞こえなくなる。まあその改善方法といえばその四角から出るだけだね」だが、ふとまた何かを思い出したかのようにそのノリを消した。
「でもこれもダメ。これは高さを調整できないから屋上でやればその下でも音が聞こえなくなる。」
考えてみればそれは問題だった。もしも緊急ベルが鳴っても誰一人気付かないだろう。
彼女はジーッと考えてから手をポンと、あわせた。「あれならどうだろうか」彼女は指を鳴らすと、目の前に小さな箱が現れた。
それを開けてみると、その中には小さな薬が何個か入っていた。「これは『なりきり薬』、これを使えばどんなことでもできるかのように思える」
彼女は今回こそ満足していた。「まあもしも間違ったように使えば死ぬからそれは用心しておいて。空を飛べるとか願えばビルから飛び降りるからね。昔にそんなことあったから」
僕はつばを飲み込みながら受け取った。「それを飲み込んで何かを考えればそれになり切れる。例えば天才になり切り、運動抜群になり切り、世界でめちゃくちゃ有名になり切りとか。まあ、本当には何一つ変わってないけど。効果が現れるのはそれを使った人だけだよ」
僕はこれを飲んで、何も聞こえなくなったら、と願った。
すると、静かになった。何一つ聞こえなくて、とてもよかった。
「いいね」そういったつもりだが、自分の声も聞こえなかった。
彼女は手を鳴らすと、ペンと紙を取り出してきた。「それはなりきりだから何をしても本当に起きないと害はないよ」
だから何一つ聞こえなくてもいいのか、と僕は思った。
「それと、言い忘れてたけどそれの効果は一時間だから」
「え?」
問題だったのはこれが嫌だったというわけではない。とても良かった。
できればこのまま一生音がなければ幸せだと思った。
だが、問題だったのは授業だ。何も聞こえなかったら先生の話が聞こえない。
だが、どうにもできないので仕方なく聞こえないまま五時間目を半分ほど過ごした。
あのどんな願い事でもかなうスマホで寝返るが、彼女が言うにはそうすればもう一生あの薬が使えなくなるらしい。
それはとても困るので仕方なく僕は過ごすことになった。

彼女が来たことで心の底には思っていたと思う。
僕の人生か彼女をきっかけに、元へとは戻らないと。
そして、どんどんおかしくなり、仕舞いにはどんなことが起こっても普通のような人生になってしまいそうだ。

「お邪魔します…」七海は僕の後ろからそろそろと入ってきた。
まだここの家族だということに慣れていないようだ。
まあ、適当にやったようだし、無理もない。
僕たちは必死に説得して別々のベッドを用意してもらった。
僕はまた自分のベッドに戻れて、良かったと思う。
彼女は横にベッドを置いて、この部屋はとても狭くなった。
だが、彼女と一緒のベッドで寝るよりはましだった。

僕たちはある日僕たちは留守番をしていた。
ちょうどそこへ、インターホンの音が聞こえた。
僕は外に出てみると、そこには真っ黒なフードをかぶった少女が立っていた。
黒いフードには猫耳が付いていた。
黒いマスクをしていて、指が出ている手袋を手には付けていた。
彼女は無言で入ってくると、机の前で正座をした。まるでどこに机があったのかを知っていたかのようだ。
「だ、誰?」僕は目を丸くして彼女を見た。すると、そこに七海が現れた。
僕は彼女に訊いてみたが、見覚えがないといっていた。
彼女はとても静かなのか、まあ静かだが、何を訊いてみ眺めてくるだけで何も話さなかった。
七海が『誰タレ』を取り出し、彼女に行ってき飲ませた。
すると、七海の表情が変わった。「これ、やばいかも…」
どうやら彼女にも見えないらしく、僕も少女の口にたらしてみた。
目の前に現れた者は彼女だった。だが、赤い液体が付いたナイフを手に持っていた。
その時分かった。本物は初めて見たが、間違いない。
彼女は殺人者だ。
彼女が殺人を自分からするのかはわからないが、そう考えてもおかしくないだろう。
そして、その背景は見覚えがあった。しかも彼女はある人物の方向を向いていた。
僕だ。そこは屋上で、フェンスの上にバランスを整えていた。
まるで僕を次のターゲットにしているかのようだ。
僕は数歩後ろに下がった。
彼女のことは少しの間警戒しておく必要があるだろう。
「それで、どうするんだ?彼女のこと」僕は七海を見た。
七海は僕を見てきた。「いや、私に言われても知らないよ」
まあそりゃあそうか。急に殺人者がとことこと家に歩いてきたのだから。
念のために凶器を持っていないか調べてみたが、全て捨てていた。
彼女を追い出すわけにもいかなかった。しかも、何かがおかしかった。
僕は少し考えてから思いついた。彼女は生まれたてからなのかわからないが、言語障害なのだ。
彼女に鉛筆と一枚の紙を渡してまた質問をしてみた。「君はいったい誰?」すると、彼女は鉛筆を紙の上で走らせた。
『わかりません』彼女は記憶喪失なのかもしれないと僕は予想した。
七海も同じことを考えていたらしい。「まあ、これで今のところは殺されなくて済むよ」僕は深くため息をついた。
だからといって警戒心を完全に消すわけにはいかないが。
「どこから来たのかわかるか?」彼女は首を横に振った。
彼女は記憶喪失だということはほぼ確実になった。それか、ただそう演じているか、どっちかだ。
「とりあえず明後日まではお母さんたちが返ってこないから一日ほどなら止めておけるんじゃない?」今回は七海の提案に賛成した。
とりあえず明日は日曜日なので時間ならいくらでもある。彼女は七海と一緒に寝ることにした。
「ねえ、…」僕は七海にあるものを頼んだ。

その夜、僕たちはぐっすりと寝ていた。だが、その中で一人が起き上がった。
マスクをまたつけると僕の前に歩いてきた。
僕はぐっすりと寝ていて、一切気付いていない。
「…」彼女はさっきまで持っていなかったはずのナイフが手に現れた。
無感情の冷たい目で彼女はナイフを振り下ろした。
「やっぱりね」僕は普通に起き上がった。
彼女のナイフは空中で固まっていた。
「僕を殺そうとしてたのはもう充分承知だよ。どうしてかはわからないけど」
僕は立ち上がると彼女の手にあるナイフを見た。
きれいに磨かれていて、めちゃくちゃとがっていた。
僕の心臓なら一瞬で貫けるだろう。
「そこの空間だけ時間を止めたんだ。だから始めるまでは君のナイフなんか動かないよ。」言いながらも思ったが、本当は少し悲しかった。
「普通の人なら威力を上げるために振り下ろす。そして大体は心臓を狙うから心臓の上だ、時間を止めたんだ。他のところを狙われたらやばかったよ」
すると、彼女はナイフから手を放して違うナイフを取り出した。だが、これも完全に読んでいる。
「これは何かわかるかな?」僕は一つの鏡をポケットから取り出した。「これはどんな攻撃でも跳ね返すものなんだ。だから君が僕を刺せば君が死ぬってこと。本当は殺したくないんだけど…」
七海の睡眠力は最強らしく、こんなに足音を立てても起きなかった。だが、それがちょうどいい。彼女が起きていれば少し問題になったと思うから。「なんで僕を殺そうとするんだ」僕は彼女をにらんだ。
彼女は口を開いた。「邪魔」僕は目を丸くした。彼女は言語障害ではなかったようだ。「邪魔って、どいうことだ」彼女はナイフを地面に落とした。「斉木様の友達」僕は少し頭を抱えた。「斉木って…誰だっけ?」
「あの天才双子よ」僕の後ろから声がしてきた。
驚いて後ろを見てみると、そこには七海が立っていた。「なんで起きてるんだよ…」僕はため息をついた。
「いいじゃない」ため息を吐きつつ、僕は彼女に向いた。「まさか頭が狂ったんじゃないよな」彼女はハッと目を見開いた。
「別に僕たちが友達だからって彼らの友達になれないって誰が決めたんだ?しかもあいつら…」僕の脳にあった何かが外れた。
「うるさいしうざいしめんどくさいし文句ばっかり言ってくるし僕の大好きだった場所をうるさくしてしまうし…本当にめんどくさいよ」
彼女はポカーンと僕を見つめてきた。「そう…だったんだ…」彼女は膝を地面について、しょんぼりとしてしまった。
「ま、まあ、誤解がとけて良かったよ」僕は本当に心の中からほっとした。
だが、今度は『死』にほんのちょっとだけ近い問題が現れた。
ベッドに入ると、目を閉じた。
ん? 僕はおかしなことに気が付いた。
いくら目を閉じても夢の世界へと引きずり込まれないのだ。
あれ? 僕はまた起き上がった。
何が起きているのかわからないが、他のみんなも寝れていないようだ。
「どうしてだろうか…?」僕たちは周りを見た。「あ!」急に七海が大声を出したので驚いてし合った。
「ど、どうしたんだよ」僕たちが近づいていくと、彼女の手にはま類物があった。「『逆睡眠ガス』だ…」
その名前を聞いて、普通にどんな機能かは想像できた。「まさかそれで寝れなくなったわけじゃないよね…」
彼女は少し困った顔で笑ってきた。「ぴったりそれだよ!私たちは今夜、寝れなくなったの」
「まじかよ…」僕はため息をつくことしかできなかった。
だが、良かったところはそのおかげで夜中でも充分頭が回ったということだ。
僕は頭を回した。
彼女は僕を憎んでいたから僕を殺そうとした。
問題はそこだ。彼女はそんな理由で僕を殺すか?普通ならいたずらとかいじめで終わらせるだろうけど、どうして寄りにもよって『殺しなんだ?』
僕は彼女の前に座った。「ねえ、ちょっと話があるんだけど」彼女はとても罪悪感を感じていたのか、めちゃくちゃ緊張していた。
「どうして僕を殺そうとしたんだ?」普通の質問だった。でも、僕はとても気になった。
彼女は数秒沈黙に陥ると答えた。「そういえばなんでだろう…前は斉木様の友達だったからと持っていたけど。。今は覚えていない」
やっぱりだった。彼女は確かに僕を恨んでいた。それは多分本当だろう。だが、だからって僕を殺そうとするはずがない。
彼女の心を爆発的に暴走させた何かが起こったんだ。「それじゃあまた聞くけど、誰かから何かをもらったかかった覚えはある?」
彼女は腕を組んで目をつぶり、前のことを思い出そうとした。
すると、彼女は何かを思い出したらしく、手に拳をポンッとたたいた。「そういえば変な男性がこれを渡してきたの」彼女はジャージの裏ポケットからボタンを取り出してきた。
「あ!」それを見た七海の口から声があふれ出てきた。「それって…『リアルボタン』だ…本当は大失敗作で数少ないはずなんだけど…あの『リアルテキスト』に乗っ取られたけど」彼女は僕と出会ったときに出したあのスマホとボタンを取り出してきた。
「どうしてこのボタンは失敗作なんだ?しかも大失敗作なんて…」僕は疑問に思った。「これはスマホよりもAI力が優れていないんだ。まあこんなものの中に入れるからね。もう少し大きくすればよかったかもしれないけど、この大きさ、時々勘違いすることがあるんだ。だから販売されてから二日で販売中止になったんだ。私は販売されてからすぐに買って、試してみたら厄介なことに出会ったよ…だから一切使っていないんだ」僕はその時気付いた。「どこで買ったの?」私は外を指さした。
「よく地面の中で打てあるんだ。ある眼鏡をつけるとGPS的な奴でどこで売られているかわかるようになっている。そこに行ってこの宝石を取り出すと地面をすり抜けて店の中に現れる」彼女が宝石を手に取ると、地面をすり抜けた。
僕はびっくりした。「こんな風になるんだ…」数秒後には七海が部屋の中に入ってきた。
彼女の説明によると、どうやら人目につかないところに出てくるらしい。だけど、それの問題は一度見たところに現れると、他の人たちはおかしく思えるらしい。「でもどうしてここで?」彼女は先話していた眼鏡を取り出してみると、目を丸くした。「場所が目の前の道だ…」また彼女の説明を聞くと、どうやら範囲は一・五メートルらしい。ちょうど彼女が座っていた場所は中心から十メートルの遠さだったようだ。
これの問題といえば飛行機の中で間違えて手に取ってしまうと、飛行機の中に戻るのは道具を使わないといけないということだ。しかも、飛行機は動くのでいつ真上にあるかはわからない。
「それと、どうやって新しい道具が売られてるってわかるの?」彼女はあの『リアルテキスト』を取り出してきた。
携帯はもう一度見てみると、分厚さは一・五㎝ほどで、結構分厚かった。
「これは『リアルテキスト』意外にもいろいろと機能があってね、その中には新しい道具が出てくると教えてくれるアプリもあるんだ。このスマホの本名は『スマホ』だよ」だが、彼女はそれを見せてくれなかった。まあ、そんなものを僕みたいな凡人に教えるわけにはいかないだろうが。
「ということは犯人がいるとすればこれを知っている人ってことか」彼女は頷いた。
僕はその時ふと思ったことを訊いてみることにした。彼女がわかる気はしないが、訊いてみることに悪いことはないだろうと思った。
「他にその道具を持っている人は知らない?」彼女は少し考えてから首を振った。
まあ、彼女がどこから来たのかわからないといわれたときからもう予想できていた。
「でもさ…その道具って壊れた時、どうやって修理できるの?普通の修理工では修理できない気がするけど」
すると、彼女は五回手を鳴らした。『スマホ』とあの宝石、メガネ、『リアルボタン』は消え、代わりに一つの袋が現れた。
「この中に入れた者は何でもどこかに送られて、気づけば戻っている。どうやってやるのかはわからないけど結構便利だよ」
ちょうどその時、いい考えを思いついた。
とても悪い考えかもしれないけど、いい考えだと思っておく。
その時、横にいる少女はおろおろと僕たち二人を交互に見ていた。
「その中に僕たちが入ったらどうだろうか」七海はそれを聞いて叫んだ。
よっぽど否定すべきことだったのだろう。まあ、僕はそんなこと気にしない。
「そんな無茶なことはしないで!この先には何があるかわからないのよ!死んでもおかしくないのよ!」
そんな事充分承知だ。「わかってるさ。でも君が誰なのか、誰が彼女にあの『リアルボタン』を渡したのか知りたくない?」
彼女は少しの間黙っていたが、小さくうなずいた。
「それじゃあ決まりだ…って言いたいところだけど彼女はどうする?」僕は少女を見た。
彼女はさっきまで黙っていたが、口を開いた。
「私も行きたい」だが、僕は首を振った。
「だめだ、君のような無関係ない人に迷惑をかけたくない」
すると、さっきまで真剣だった七海が噴き出した。
「かっこつけてる…」
「何か悪いか?」
「まあ、それもいいんじゃない?」
彼女は一瞬で上機嫌になった。
僕からすれば彼女は気分屋の見本だ。
僕は無理やりでも帰ってもらうことにした。
彼女は記憶がなんくなっていたかったことだし、帰ることはできるだろう。

「それじゃあ準備はいい?」僕たちは頷きあった。
袋の中に頭から突っ込んだ。
中に入ったとたんに、目の前の景色がころりと変わった。
さっきまでは真っ白なバッグだったが、今は無限に続きそうな滑り台だった。
どんどん落ちていくと、しまいには空中にいた。
地面に落ちたかと思うと、そこはスライムのように簿呼ぼよな地面だった。
立ち上がるのに少し苦労したが、僕たちはその場から去っていった。
いったい誰が来るのかわからないからだ。

「やっぱり…」一人の少女は家に帰り途中、方向転換して駆け出していった。
「…」彼女はある家の二回に侵入すると、地面に落ちているバッグを手にとった。
緊張しながらもつばを飲み込みながら、袋を開いた。その袋はただの袋にしか見えない。
この中に入れば何と言われるだろうか。彼女はそう考えて背筋が凍ったが、そんなこと関係なかった。
彼女は助けたい。助けになりたい。借りを返したい。それだけだった。
彼女は袋の中に飛び込むと、消えた。

「…」僕と七海は角からその先を見た。
そこには二人の男性がいて、どう見てもここで働いている人だ。
ここで見つかればやばいことになるだろう。
「なあ、そっちはどうだ?」僕たちは耳を傾けて彼らの話を聞いていた。
「こっちにもいない、いったいあいつはどこに行ったんだ…」どうやら警備員のようだ。
僕たちのことを探しているわけではないだろう。
僕は七海のほうを見て超小声で訊いてみた。「ないか時間を止めれるものはない?」
彼女は音を立てずに指を鳴らすと、腕時計が現れた。「この針を動かさなければ止まるけど…多分無理だと思う」
試してみたが、やはり無理だった。腕時計の針は無理やり指を押しのけて進んだ。
無理やりでも止めようとしたので、その痛みで腕時計を落としてしまい、音を立ててしまった。
普通のところならそこまで音は立たないだろうが、ここは廊下と同じだ。音がとても予行響く。
彼らはそれに気づいたらしく、僕たちの方向に走ってきた。
「今の音は…絶対ここら辺に誰かがいた。探しに行くぞ!」彼らはそのまま駆け出していった。
「危なかった~…」僕はマントから頭を出してため息をついた。このマントは羽織った人が見えなくなり、運よくほかのものも見えなくなる。
どうやらこれはまだ使えるようだ。どうしてかはわからない。
「とりあえず道が空いたから行くよ」僕たちはできるだけ音を立てずに駆け出していった。
すると、向こうからも足音が聞こえてきた。
その足音が聞こえた僕たちは慌てて角などに隠れようとしたが、もうそんな余裕がなかった。
七海が取り出した道具をすぐさま使った。
すると、大人に変わり、殺気の二人と同じユニフォームを着ていた。
向こうの角から現れたのは強そうな男性で、目はつりあがっていて、めちゃくちゃ怖かったが、優秀であるということはメラメラと分かった。
「お前たち、ここで何をしている。早く奴らを見つけるのだ!」「はッ!」奴ら、というのはいったい誰のことなのかわからないが、なんか事件が起こっているのは確かだ。
僕たちが男性の横を通りかかろうとしたとき、僕たちは止められた。
「な、何でしょうか…」嫌な予感しかしなかった。「見ない顔だな…ID番号は何だ?」
「あ、IDですか…」僕が戸惑っていると、七海がフォローしてくれた。「私は二四〇四番で彼は二四二四番です」
すると、彼は警戒心をやめ、笑った。「まあ、頑張ってくれたまえ」
彼が遠くに行き、僕たちが角を曲がると僕は壁にもたれかかった。「はー、緊張したー」
僕は今頃きついたことだが、防犯カメラが全く見当たらなった。もしも結構大事な場所なら普通は防犯カメラを張り巡らせているだろう。
「隠しているかもしれない。気を緩めないで」僕は頷いた。
元の姿に戻るとしたとき、僕たちの後ろから誰かが曲がってきた。
「あ!」その人は知っていた。
なんでここにいるんだよ! 僕は心の中でどなった。
その人・彼女を追うと、彼女は逃げた。
その少女といえばここに来る前、家に帰らせた彼女だ。
七海も僕の後ろを追ってきた。男性の姿で見るとちょっと気が散る。
問題は新たに表れてきた。向こうのほうから違う人たちが現れた。
彼らも彼女に気づくとこっちに走ってきた。
このままでは彼女がつかまってしまう。
と、おもたっ時、七海の手に何かが見えた。
黒い球だ。彼女はそれを投げると、白い煙を出しながら爆発した。
煙幕だ。僕は煙の中から少女を見つけると、手を引いて反対方向へと走っていった。
「わ!なんだ!?」
「見つけ出せ!」
僕たちは彼女の手を引いて角を曲がり、そのまま走りだした。
彼らは追っていなかったので、とりあえず元の姿に戻って透明マントを羽織った。
目の前を彼らはかけていった。
このマントの悪いところといえば片方からは反対側にいる人が透明に見えるが、もう片方からは普通のマントにしか見えない。
だから、どこまで遠くに行ったかはマントの端から目を光らせないといけなかった。
見ていたところではもう誰もいなくて、安全だと思った。
だが、それは大きな間違いだったようだ。
僕たちがマントを外すと、目の前にあの男が立っていた。
顔は少し険しい顔だった。
僕たちは彼にはめられたようだ。
あの時、もう知っていたのだろう。
僕たちは彼に連行され、牢に入れられた。
僕たちが牢に入ると、彼もいっしょに入ってきた。
その牢屋の中には何個も牢屋があり、誰もいなかった。
誰も入ろうとは思わなかったのだろう。こんなバッグの中には。
その中にあった一つの牢屋へ僕たちを押し込むと、ドアを閉めて鍵をかけた。
「そこから一人出してやる。もしも俺に一度でも触れることができたのならばここから出してやろう」
そういうと、彼はスマホを取り出した。
やはり普通のスマホにしか見えない。
「あれは警備官だけが持てるものだと思う」
彼が話していたことはわざと僕たちに訊かせたいのか、少し大きめな声だった。
「ああ、捕まえた。心配するな、俺がどうにかする。…は?そんなことどうでもいいだろう、あいつはめんどくさい奴だからな…ああ、分かった。それじゃあまた今度」
彼が電話を切ると、僕たちのほうを見てきた。「さてと、誰が出てくるんだ?」彼はドアのかぎを開けた。
僕が行くと言おうとしたが、その前に少女が声を上げた。「私が行く」僕は目を丸くした。
「危なすぎる、僕が言ったほうがいい。君を巻き込みたくはない」すると、彼女の雰囲気が変わった。
「あなたは私の恩人です。死なせたくはない」彼女はするりとドアの反対側に行くと、ドアを閉め、ロックを壊した。
いったいどこからそんな力が現れるのかわからないが、今はそんな状況じゃなかった。
あまりに自然なことだったので、反応に少し遅れた。「おい!待て!僕が行く!開けろ!」
彼女は一瞬だけ僕のほうを振り向いたが、また歩いていった。
「くそ!」僕は鉄のドアを力いっぱいたたいた。「今は彼女を頼るしかないのよ」
七海も悲しい顔をしていた。「どうにかここから出る方法はないのか?」僕は七海に迫った。
だが、七海はきっぱりと首を振った。「この壁は特殊な道具で作られているみたい。私の道具はどれも通用しないようにしているらしいよ」
「出る方法とすれば一つだけ、彼女が彼に勝つこと」僕は歯を食いしばった。
なんでこうなったんだ… その時、思い出した。
こうなった第一原因は僕だ。僕があの中に入ろうといったからなんだ。
「ごめん…」僕はつぶやいた。「大丈夫だよ、蓮田のせいじゃない。しかもほら、彼女も人間並み以上の身体能力を持っているみたいだよ」
僕がフェンスの反対がを見てみると、彼女は男の攻撃を全て見事によけていた。
「まあ、出会ったときフェンスの上でしゃがんていたということからおかしいとは思っていたよ」
七海は少女を見た。「彼女はもしかしたら彼以外の身体能力を持っているのかもね」
だが、彼女は全く攻撃を仕掛けない。よけるのに夢中のようだ。
彼女は一瞬隙を見せた。男はそれを見逃さない。彼は強烈なパンチを繰り上げた。
彼女はすれを腕で受け止め、飛んでいった。
「グッ!」彼女はそのまま壁へと吹っ飛んだ。
壁に突っ込み、埃が空中に飛び上がった。
「か…ったね…」彼女は頭から血を流してよろよろと立ち上がった。
彼はまだ気づいていないのか、首を振った。「そんなわけはない。まだ私には触れていなぃ…あ」
彼はやっと気づいたようだ。だが、僕も七海もまだどういう意味なのか分かっていない。
お互いの顔を見て、ポカンとしていた。
「私は君の拳に触れた。それは君に触れたということになるよね?」
男は自分の手を眺めると、怒りのままに地面を殴った。
地面には大きな穴ができて、これを彼女が受けてただじゃ置けないのは普通にわかる。
「手加減していたでしょ」彼女は男に言った。「なッ」男は首を振った。
「もしも今のが私に来ていれば今頃私の腕は九十度以上に曲がっていたよ」彼女は少し赤い腕を見せた。
傷だらけだが、折れてはいなさそうだ。
「お前たちには負けた、さあ、出ていくがいい。もう戻ってくるな」
彼はドアをぶち明けた。「もう鍵は不要だ。あそこのあいつがぶっ壊したからな」彼は向こうに立っている少女を指さした。
僕はその場を離れていった。最後に一言残して。「その約束は少し守れそうにないよ」
僕たちはそのまま廊下を走っていくと、窓が見えた。その窓から見えるものは外だった。
そこには普通の家が立ち並んでいた。「…」七海はその街を眺めて何かを思い出しているかのような目をしていた。
「あれが何か興味を奪い取ったか?」僕が訊くと、彼女は普通の彼女に戻った。「わからない、でもまあ、行ってみたらわかるでしょ」
彼女はガラスを割ると、身を乗り出した。「それじゃあ飛び降りるよ!」僕も外を見てみると、そこは町から百メートルほど高いところにあった。
「いやいやいや、無茶でしょ!こんなところから飛び降りたらしぬよ!」だが、その時にはもう遅かった。僕たちはもう落ちていたのだから。
「ギャー!」僕は叫びながら落ちた。「女子かよ」七海と少女はまったくビビっていなかった。七海は何かあるだろうが、彼女はいったい何を考えればここまで冷静に入れるのかがわからなかった。
「これを飲み込んで!」彼女は薬を渡してきた。「次はありったけ息を取り込んで!」僕は飲み込むと、息を吸い込み始めた。
普通は二秒ほどで吸い込めなくなる。だが、今回は違ったらしく、僕の腹がどんどん大きくなった。
どうしてかはわからないが、服までスライムのように伸びていた。
だんだん落ちる速度が緩まって、ゆっくりと地面につくことができた。
「助かった…」僕が息を吐き出すと、元の姿にも土た。「一回しか使えないってところが悪いしいいんだよね」
もう一度息を吸ってみたが、もう二秒しか吸えなかった。
そこは森の中で、街の方面に歩いていくと、そこには普通に人間が住んでいた。僕たちと同じ、人間が。
だが、僕たちとは違う世界だった。いろいろなことが自動でできて、自由な世界だった。
七海が持っていそうな道具ばかりが使われている。「七海はここで生まれたのかもね」
彼女につぶやいたが、彼女の耳には届いていなかった。「ここが…私で私が生まれたんだ…」聞こえていなかったのかがわからなかった。
彼女は駆け下りていくと、入ろうとした。何かの透明な壁に止められた。
「こ、これは…」僕は目を丸くした。「僕たちは入ることを禁じられているみたいだ。七海なら入れるんじゃない?」
七海がその壁に手を置くと、すり抜けた。彼女はここにいる人と同じだということはこれでわかった。
「先に行っててよ、僕たちはあとから入るから」だが、彼女は言うことを訊かなかった。
「ダメ!みんな一緒に行くの!」だが、いくら駄々をこねても答えは一切変わらない。入れない。それが現実だ。
もしも誰かが助けに来ない限り。
「よう、お前たち」向こうから一人の男性が現れた。
彼の手からはまだ血が垂れている。
「お前たち、ここを通れないのか?まあそりゃそうか。個々の人間じゃないのだから。まあ、お前は個々の人間か」
彼は七海を見た。その次には少女のほうを見た。まだ名前は聞いていないことに気づいていなかったけど。
「お前には完全に負けたよ、今度は買ってやる」彼らが握手しているのを見ると、初見は仲間のように見えるが、腕にかかっている力を見れば握手で喧嘩をしているかのように見える。
「まあ、とりあえずお前たちを中に入れてやろう」彼は鍵らしきものを取り出すと、透明な壁に触れた。
すると、その場所だけ少し反対側が明るくなった気がする。「この壁は少し暗くしていてな、どこに穴ができているのかを調べるためにな。一応ここは開けておくが誰かに見つかって閉められても知らないからな。せいぜい苦しみを楽しんで遅れ」
彼は笑いながら去っていった。「本当にいいんだ…」僕たちは頭が真っ白になったままの脳で中に入った。
町は本当に平和だった。小さな町だったが、それでもみんなちゃんとした服を着て、食べて、寝て、衣食住を全て果たしていた。
「もしかしてあったとき、行ってきた言葉ってこういうことだったの?あの「不幸な人は不幸な生き方をして、運のある人は運の良い生活をする。」って言葉。個々のことを覚えていたから僕たちの町が不平和すぎるんじゃないのかって不満に思ったんじゃないの?」
彼女は少しの間黙っていたが、しまいには頷いた。「本当にそうかはわからないけど…あの時のことはほとんど覚えていないけど、あの時は何かを覚えていたのかもしれない」
「やっと君が誰なのかわかったよ」僕はほっとした。彼女はここに住んでいる人だったんだ。ここには彼女の家があるかもしれない。
彼女は笑っている顔だったが、目だけは違った。何かに起こっているような、泣いているような、苦しんでいるような、複雑な目だった。
もしかしたら心の中に何かを隠しているのかもしれない。
「とりあえず次は彼女の問題だ。誰か彼女にあの『リアルボタン』を上げたのか、見つけ出すよ」
七海と少女は頷いて町の中を歩き始めた。

「それと聞きたかったんだけど名前って何?」彼女は答えなかった。「お~い?」
もう一度聞いてみると、今度は答えてくれた。「ハアナ」彼女はその一言で終わらした。
とても気まずい空気になってしまったので、僕は思いついたことを二人に訊いてみた。
「ねえ、二人ってどんな食べ物が好き?」すると、二人とも「「メロンパン」」と答えた。
彼女たちはいったい何だと聞いてきた。「いや、二人とも何か険しい顔をしていたからほぐそうと思ってね」
彼女たちはそのことに気づくと、元の二人に戻った。
まあ、ハアナの元は知らないけど。
街中を歩いていても「おはよう」と優しい声がかかってきた。
毎回返事するのは大変だったが、個々の平和さがすぐにわかった。
「何かがおかしい…」七海は何かを疑問に思っていた。
こんないい街の何がおかしいのだろうか。
わからないけど、気にしなかった。
街中を歩いていると、ある二人が目に入った。
普通の家族に見えるが、なぜか七海に似ていた。
「ねえ…」僕は七海のほうを見た。だが、そこにはもう七海という人物はいなかった。
気付けば、僕の真後ろにいた。「どうしたんだ?彼らは七海の親に見えるけど」彼女は頷いた。
「確かに彼らは私の親よ」だけど、何か様子がおかしかった。「こんなにやさしい顔じゃなかったはずなんだけど…」
僕は彼女の言っている意味が分からなかった。親は親、普通にやさしくてもおかしないだろう。
「話してきたら?」だが、気づいたのは彼らが先だった。
「ナナミ!どこに行ったのかと思ったらここにいたのか、今まで五年間どこで何をしていたんだ?」
七海のは七海に駆け寄った。だが、七海は僕の後ろに隠れたままだ。
「ほら、親なんだからハグぐらいするだろう、普通」
だが、彼女は首を振った。「この人たちは私の親じゃない。」僕は目を丸くした。「私の親はもっと厳しかった」
七海のは一瞬目を吊り上げたがまたにっこりとした。「何を言っているのかわからないよ、僕たちはいつも優しいよ、ナナミは僕たちの大切な娘なんだから」
だが、彼女は首を振った。「違う違う違う!もしも本当にそうならこれは何!」彼女は耳の手前に垂れ下がっている長い髪をめくりあげた。
そこにはあざが残っていた。「二千百十三年、二月の四日、私は私の父親にたたかれたのよ」七海のは驚いて後ろに下がった。
「そんなわけないだろう、僕は君をたたかないし、怒らない。何かを勘違いしているんじゃないのかな?」
僕はわかっていた。どう考えてもおかしいことは。僕も十分承知だ。この親は何かがおかしい。
「彼女は僕の彼女だから手を出さないでほしいね」僕は彼らの前に立ちはだかった。その前にはハアナが。
「彼らは私の恩人だから手を出さないで」彼らの笑みは今からすれば悪魔の笑みにしか見えない。
「ここはいったい何が起こったんだ…とりあえず逃げるよ!」僕たちは道のど真ん中を駆け出した。
後ろから追ってくる人たちはどんどん増えていった。「私に言い考えがある!」七海は小声で叫んだ。
「あそこまで行って」彼女が指さしていたところは入ってきたあの穴だった。
彼女はそれ以上何も言わなかったが、考えていることは少しだけ分かった気がする。
ハアナは先頭を走っていた。
彼女は僕たちの速度についてきてくれて、最後にはあの穴へと飛び込んだ。
運よくまだだれも見つけていないらしく、壁の反対側に転げ落ちた。
うしょろから負ってくる人は、一人一人通れば追ってくることなど簡単だろう。
だが、七海が考えたことは簡単だ。彼らは親切になるように脳をいじられている。
だから、『譲り合い』というものが現れる。
「どうぞどうぞ、」「いや、そちらがお先に」
彼らは譲り合いというものをしてしまい、いつまでたっても通り抜けてこなかった。
もしもこの壁がもっと大きかったらやばかったかもしれない。
だが、人がちょうど一人通れるほどだったので運がよかったと僕はほっとした。
そのまま逃げていくと、一瞬は彼らも優しさをなくした。
だが、お互いにぶつかるとまた譲り合いが始まった。
そのすきに僕たちは遠くへと逃げていた。
「危なかった~…」僕は腰を下ろしてため息をついた。
もう走れる気がしない。「とりあえず遠くまでは逃げれたみたいだ」もう木々で彼らは見えなくなっている。追ってくることはもうないだろう。
「とりあえず逃げるよ、ここから」僕たちがまた走り出そうとしたとき、地面に何かが見えた。
睡眠ガスだ! だが、その時にはもう遅かった。
睡眠ガスが爆発して、僕たちの周りにはガスが舞った。
「何…で…」目の前には僕たちを見つめる七海が残っていた。
いつもとは、違う、七海が。

「んン…」僕が気付くと、身動きが取れなかった。
周りを見てみると腕は両方電気のようなもので縛られていた。足もそうだ。
僕の横にはハアナがぐったりと眠っていた。
目の前には七海が立っていた。「七海!」
すると、声が聞こえてきた。「ハ、ハ、ハ。声をかけても無駄だ、彼女は私のは以下だからな」
ドアが開くと、知っている男が現れた。あの時、ハアナと争った男だ。
「なんであな…お前が!」暴れたが、電気らしいもので作られた鎖はびくともしなかった。
「無駄だ、その鎖は尋常の力では破れない。あきらめるんだな」彼がポケットの中に手を突っ込むと、バッジが現れた。
見たことがあるバッジだ。
すると、彼の姿がみるみると悪党にぴったりな姿に変わっていった。
その時思い出した。あのバッジは僕たちが警備員の姿に変装した時、使ったものだ。
「貴様!」力いっぱい鎖を引っ張ったが、引きちぎれることはなかった。
ちょうどその時、ハアナが起きた。「…ここはどこ!?」
彼女は今の状況を理解するまで四秒以上かかった。
「あんた、あの『リアルボタン』を渡してきた人!?」
彼女は暴れたが、なかなか外れなかった。
「じっとしていろ!」彼がボタンを押すと…
「キャ!」急に彼女が悲鳴を上げた。
「ハアナ!」男は悪魔のような笑みを浮かべた。
「このボタンを押せば一ボルトの電流が流れる。じっとしていな」
僕は歯を食いしばったが、どうにもできない。
「何が目的だ!」俺が怒りをたっぷりと含んだ質問をした。
彼はよくぞ訊いた、という表情で答えた。
「この世界を成句賦するためだ!この世界は私にふさわしい!私が支配すべき世界だ!だがここが邪魔だった!お前たちが邪魔だった!何もかもが邪魔だった!だから私は決めた」彼はにやりと笑った。
「この世界を破壊しようと」
ちょうどその時、向こうから警部が三人やってきた。
「誰だ!手を上げろ!」彼らは拳銃らしきものを男に向けたが、男は一切の戸惑いも見せずにポケットからピストルを取り出して三度、発砲した。
「グハ!」「ヴッ」「ギャ!」三人は地面に倒れ、彼らからは赤いが流れ出してきた。
「ㇶッ!」僕の目の前が真っ暗になった。
チ…血だ…血だ血だ血だ血だ血だ血だ血だ血だ血だ! あまりのショックのあまりに僕は気を失った。
「なんだ、それだけで気絶するとは、最近の人間どもは弱いな」すると、三回 バキ! と音が聞こえてきた。
「オマエナー…!」男は僕たちのほうを見てにやりと笑った。「まだましな奴はいたな」彼はハアナのほうに何度か発砲した。
「!」銃弾が銃弾の速さ、一ミリ秒もたっていなかっただろう。彼女は消えた。「どこに行った!?」
男は周りを見た。だが、見過ごしていた場所があった。「上だ」ハアナは上から男に突っ込み、彼の頭を地面に落とした。
「グハッ!」地面は砕け、一瞬男の目が白めになった。
その時、七海は部屋のど真ん中で突っ立っていた。周りで起こっていることはお構いなしだ。
「ナナミ!こいつを…」だが、男は七海に指示を出す時間などなかった。「敵はとらせてもらう」
彼女は仕舞いには壁を突き抜けた。「さようなら」男は壁を突き抜けて、百メートルの高さを落ちていった。

僕が気づいたときには地面で寝ていた。起き上がってみると、地面や壁、天井がボロボロになっていて、あの電気鎖は消えていた。
ハアナは七海をつついたりゆすったりしていたけど、七海は全く動かなかった。「あ、起きた。彼女、どうする?」僕のことに気づいたハアナは訊いてきた。
「いや…聞かれても…でもどうにか見つけないといけない。彼女の戻し方を…というかあの男はどこ行ったの?」僕がハアナを見ると、彼女は目をそむけた。
「あ~、彼は…その…あそこから…落ちたと思う…」彼女は向こうの廊下にあった穴を指さした。「もうみんなおかしなやつばかりだな…」僕はため息をついた。
まあ彼は大丈夫だと僕は思う。彼なら生きている。
そして、その考えは当たっていた。
「よ…く…も…落として…くれたな…」あの壊れた塀からあの男がよじ登ってきた。
「!?」僕たちは慌てて後ろに下がった。
「お前、俺と一緒にこの世を制覇しないか?」彼はにやりと笑ってハアナを見た。
彼女は考えずに首を振った。「絶対にしない。世界征服には一切興味がわかないね」
男は歯を食いしばったが、にやりとまた笑った。
「そうか、それなら無理やりやる必要があるな」
彼はボタンを取り出した。「あ、それは…」だが、僕は言い終わることができなかった。
「仲間にしろ」彼はボタンを押した。だが、そのボタンは『リアルボタン』、『リアルテキスト』ではない。
『リアルボタン』は言った命令を誤解することがしょっちゅうあると七海が言っていた。
ボタンが光りだし、光りが消えると、かれは膝を地面についていた。「我がリーダー、何をすればよいだろうか」
彼の手にはあのボタンが置いてあった。どうやらどっちをどっちの仲間にするのかを勘違いしてしまったようだ。
「それなら持っている武器を全て捨てろ」彼が地面に置いたものの中にはあのスマホが置いてあった。
僕はそれを使ってほかの警備員を呼び、彼を捕まえてもらった。

「よくやってくれた、初めは君たちが悪党かと思っていたが、それは違ったようだな」本物が現れ、僕たちを握手をしてくれた。
どうやら彼につかまってしまい、縛られていたらしい。「それは良かったです。しかし彼らは…」僕は毛布が掛けられた三人のとお子達を見た。
「彼らは残念だよ…だが君たちが生きていてよかった。彼の処理は僕たちに任せてくれ」すると、七海が僕のところに来た。
「何が起こってるの?さっきまで森の中にいたのに…」ずっと彼女は意識がなかったようだ。僕はつい腹を抱えて笑ってしまい、それにつられて周りにいた人も笑ってしまった。
彼女がいると本当におかしなことしか起こらない。でも、それも楽しいものだ。おかしなことに巻き込まれるけど、それは僕の暇な人生を楽しくしてくれる。彼女にお礼を言いたいぐらいだよ。
「僕のところに来てくれて、ありがとう」僕がにっこりとして言うと、彼女の尾が赤くなった。「あれ~、まさか恥ずかしいの~?」ハアナが不思議な態度をとった。
「そ、そんなのじゃないよ」七海とハアナは口喧嘩を始めて、追いかけまわしていた。
やっぱりこの人生は変だけど、楽しいね。

その後、市民たちは操りから抜け出すことができていつもの彼らに戻った。多分。
ケンカとかいろいろと大変なことはあるが、これも面白いものだ。

最後にしたことは七海が親に合うということだ。
「ホノカ、今まで何をしていたんだ!心配したんだぞ!」彼女のお父さんは前会った時とは全く違っていた。
もっと厳しくて、怒っていた。これが本当の、彼女の、親なのだ。
僕はケンカをしている親と七海を眺めた。「平和だね」ハアナが僕を見てきた。
僕はもちろん頷いた。
「そろそろ帰ったほうがいいけど…」僕はハッと思い出した。
彼女の居場所はここだ。無理やり戻すわけにもいかないし、そっとしておこう。
僕は彼女の隙をとってその場を去った。

「あれ?」七海は二人がいないことに気づいた。
「彼らと行きたいのか?」お父さんは厳しいが、優しい声で聴いてきた。
七海は勇気を振り絞って頷いた。
「勝手にしろ」お父さんは男ったような声で言った。
七海は駆け出していった。「最後ぐらいは優しくすれば?」お母さんが提案したが、お父さんは首を振った。「今までもこんな態度をとって来たんだ。最後だからといって帰るわけにはいかない」それを聞いてお母さんは一瞬噴出した。
「何かが問題か?」「いいや、何でもないわよ」彼女は笑顔で七海を見送った。
頑張りなさいよ。

少し不満は心の中に抱いていたが、これが最適な判断だ。
彼女はここに残るべきだ。同じ人たちとともに。
僕たちは警官に連れていかれ、ある穴の前に現れた。
「修理をしたものはすべてこの中に入れます。ここに入れば元の場所に戻れるでしょう。ですが、もう帰ってこないでください」
僕たちはにっこりと笑って頭を下げた。
「それじゃあ僕たちの世界へと変えるか」ハアナは頷いた。「でも二人だけじゃないみたいだよ」
彼女が指さした方向を見ると、誰かが飛び込んできた。「な、七海!?」そこにいたのは七海だった。
「やっぱり来ちゃった」彼女はにっこりと笑った。「ちょ、七海はここにいたほうが幸せだよ、同じ人たちがいるんだから」
だが、彼女は首を振った。「やっぱり蓮田と一緒にいたほうがいいよ、楽しいし」僕はため息をついたが、彼女の手を引いた。
「後で文句を言っても知らないからな」彼女は大きくうなずき、一緒に穴へと飛び込んだ。

「んンッ…」気が付くと、袋の目の前にいた。外では日が暮れていた。「日にちは…日曜日だ!」僕たちは焦った。
そろそろお母さんが返ってくる時間だ。僕たちは慌ててハアナと別れて、外に出していた道具を全て元に戻した。
「ただいま~」お母さんがすぐ後に帰ってきた。「「お帰り!」」僕たちが声を合わせて答えると、彼女はびっくりしたような顔をした。
いったいどうしたのかと聞いたが、秘密だといわれたので教えてもらうことはできなかった。

「「行ってきまーす!」」僕たちはいつものように、普通じゃない学校生活を過ごすことになった。
「おはよう」学校につくと、ハアナが待っていた。「おはよう」遠くからは天才双子の斉木が走ってきた。
今の人生が幸せだと、僕は心の中から思う。
今の人生が。

「うるさい!」僕は屋上で叫んだ。「誰がうるさいって!」「お前だよ!」「あ゙?何か文句でもあるのか?」
僕はいつものように弓田とケンカをして、それを転げまわって笑いながら見る七海、少し困った顔で見るハアナと頑張って止めようとする晴香の日常になったのだった。


次の小説 2024年7月21日07時30分投稿予定

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