3時間前にチェックインしたホテルの場所がわからなくなり迷子になるラノベ作家2019

白石定規という自称ライトノベル作家の間抜けなエピソードは枚挙に暇がない。

 2019年末のことである。

 その日、僕は東京で用事をこなしていたのだが、陽が暮れるよりも前にお仕事がすべてすっかり終わってしまい、夕方にある飲み会まで数時間の暇ができた。
 それだけの時間があれば一度ホテルに寄って荷物を置くことなど造作もない。
 僕は翌日の早朝には飛行機に乗るスケジュールになっていたので、荷物を前もってホテルに置く時間的余裕があるならぜひ置きたかった。ので、その旨を話して、僕は颯爽と電車に乗り込むに至った。

 予約していたホテルは羽田空港内にあるビジネスホテル。
 ホテルから徒歩0分で空港に辿り着くことができるという便利すぎて拝み倒したくなるホテルである。
 長期休暇で東京から熊本へと直で行く予定があるときは大体このホテルを利用している。

 この日もホテルまで電車で行き、荷物を置いて、そのまままた飲み会が行われている都内某所へとUターン。飲み会に合流し、美味しいお肉をたらふく食べて、そしてまた、数時間前にチェックインしたホテルへと戻るべく電車に乗り込んだ。

 満腹感が眠気を誘うなか電車に揺られて小一時間。

 舞い戻った羽田空港はすっかり閑散としていた。それもそのはずで、僕が戻った時間は22時頃のことである。
 もうとっくに空港内のお店の数々は閉まっており、僕が既にチェックインしてある某ホテルがある出発ロビーには人など殆どいなかった。
 ほぼ無人といってもいい。ちなみに到着ロビーにはそこそこ人の姿があった。
 なぜ到着ロビーの様子を知っているのか。それは僕が一度間違えて到着ロビーを横断しつつ、
「ふふふ、僕、実はこの先にあるホテルに泊まっているんですよ」
 などというドヤ顔を浮かべていたからです。
 なんか様子が違うなと思ったら到着ロビーだったんですよね。
 穴があったら入りたいですね。
 まあ素知らぬ顔でUターンしたんですけどね。
 結局それから僕はエスカレーターを昇り、出発ロビーへとたどり着く。

 出発ロビーをしばらく真っ直ぐ進むと、隅っこのほうにホテルがある。
 何度か行っているので位置ははっきり覚えている。
 もはや地図を確認するまでもない。僕は両手にポケットに突っ込みつつやはり、
「ふふふ、僕、実はこの先にあるホテルに泊まっているんですよ」
 とでもぬかしそうなドヤ顔を浮かべた。

 再度書くが出発ロビーはほぼ無人だった。
 誰もいない中ドヤ顔を浮かべていたので多分相当に頭のおかしい人間である。
 そして僕は空港の隅っこまで辿り着く。
 直後に凍り付いた。

 そこには、つい数時間前にチェックインしたはずのホテルがなかったのである。

 そこにあるはずのホテルが。

 丸ごと。

 なかったのである。

「は? どうした? 流行りの異世界転生か????」

 と一瞬思ったけれども冷静に考えてそんなことがあるはずがない。
 しかしどう見てもない。
 もしかして反対側だったかしら?
 思いながら細長い出発ロビーを反対方向に歩き出すけれどやっぱり無いというか真ん中まで来た辺りでどう見ても反対側にホテルが無いと気づき途方に暮れる。

 仕方がないので僕はスマホを開く。
 震えた手で地図アプリを開き、ホテルの場所を検索する。

 検索結果。

「よくわかんないなぁ」
 よくわかんなかった。

 事前チェックインをキメたはずのホテルがどこにもないせいで既に僕の知能は平均的な26歳のものから小学生低学年程度まで落ち込んでいた。

 こうなったらもはや自分で解決するのは土台無理な話である。
 仕方がないので僕はそのとき偶然近くを通りかかったCAさんに声を掛けた。
「あ、あの……すみません……」
「あ、はい。どうなさいました?」
 夜遅いにもかかわらず、突然話しかけたにもかかわらず、CAさんはにこにことしながら対応してくれた。たった一言で分かる、この人は良い人に違いない。

 そしてこの人ならばホテルの場所が分かるに違いない。確信した。
 僕は尋ねる。
「××ホテルって、どこにあるんですか?」
「…………。××ホテルですか?」

 人の好さそうなCAさんの表情が一瞬で曇った。
 にこにことしていた表情が遠き幻と思えるほどに「は?」という顔をしていた。

 このタイミングで僕は一つ思い出したことがある。
 以前、都会のスタバでおシャンシャンにスタバ飲んでみたいなー☆ という最早知能の欠片もない動機で東京のスタバに訪れ、店員さんに「すみません。このマンゴーパッションフラペチーノってどんなやつなんですか?」と尋ねたとき、店員さんに、
「お客様。いいですか? まずフラペチーノというものは紅茶をベースにしたものでして——」
 とフラペチーノという概念から教えられた時と似ている。

 要するに「この人何も知らないのね……」という感情が浮き彫りになっていたのである。
「××ホテルは第二ターミナルにございます。そしてここは第一ターミナルです」
 CAさんは淡々かつ懇切丁寧に説明してくれた。
「第二ターミナルに行くにはまず地下一回まで降りていただき、京急の乗り場付近にある連絡通路を通っていただかないといけません」

 要するに僕はそもそも全然違うところにいたのである。間違えてうっかり到着ロビーに来てしまったとかそれ以前の問題である。
 そもそも電車を降りて歩き始めたその瞬間から間違っていたのである。そりゃいくら探しても見つからないはずである。
 そもそもいる場所が違うのだから!

「あ、ありがとうございます!」

 僕は深々とお辞儀しつつ第二ターミナルに向かった。事前にチェックインしてこのザマであるが、それから第二ターミナルに行ってみればすぐにホテルまで辿り着くことができた。
 親切なCAさんに会えなければそのままトムハンクスみたいになるところだった。
 以上が2019年が終わりを迎えるより26時間ほど前に起こった出来事である。
 終わりよければすべてよしという言葉があるが、一日24時間であり一年は365日であるため、2019年の終盤の終盤で馬鹿をさらしたので終わり悪ければすべて悪いということにもなる。

 こうなってしまってはもはや2019年は24時間年中無休で醜態を晒していたといっても過言じゃない。

この記事が参加している募集

休日のすごし方

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?