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オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第22回 苦難の農業経営 ~いちご栽培農家を事例に~

今回は、現地の農業状況を日本の皆様にお伝えし、経営のヒントを提供したいと思います。それでは、オーストラリアのいちご栽培農家を事例に、経営課題について考察します。現在、国内のいちご生産者は、インフレによる不景気の影響を受け、多くが赤字経営に悩んでいます。いちごに限らず、他の農産品目も同様の経営課題に直面しているケースも少なくありません。今回は特に、市場価格と生産コストの関係に注目してみます。

現状の課題

現在、オーストラリア国内のいちご生産者は、インフレと不景気の影響で赤字経営に悩むケースが増えています。特に、市場価格と生産コストのバランスが大きな課題です。

いちご産業が低迷している理由

労働者コストの考え方

まず、いちごの収穫とパッキングの労働者コストについて見ていきましょう。オーストラリアでは、日雇い労働者の時給は凡そ27ドル(Casual worker:日雇い労働者)です。

①1ha当たりのピッキング生産量、コスト:

1ヘクタールあたりのピッキングには30人の労働者が凡そ必要で、8時間の労働時間で総コストは次のようになります。

  • 労働者一人あたりのピッキングスピード:15kg/時間(凡その平均スピード)

  • ピッキング労働時間:4時間

  • 労働者数:30人

収穫毎(一日)の収穫量は、60kg/日×30人=1,800Kg

  • 時給:27ドル

  • 労働者数:30人

  • 労働時間:8時間(ピッキング作業以外の掃除等の労働時間が含まれる)

計算すると、27ドル × 30人 × 8時間 = 6,480ドル

②1ha分のパッキング生産量、コスト:

パッキングには16人の労働者が必要で、同じく8時間働きます。

  • 労働者一人あたりのピッキングスピード:14kg/時間(凡その平均スピード)

  • 合計収穫量(1800kg)で必要なパッキング作業時間:129時間(1800kg÷14kg/時間)

  • 1人当たりの収穫毎(一日)のピッキング労働時間:8時間

  • 労働者数:16人(129時間÷8時間)

計算すると、27ドル × 16人 × 8時間 = 3,456ドル

③1haの収穫毎(一日)の労働者コスト合計:

ピッキングとパッキングの合計コストは、
6,480ドル + 3,456ドル = 9,936ドル

市場価格とのギャップ

オーストラリアでのいちごの卸価格は5ドルから15ドル/kgです。例えば、最低価格の5ドルで計算すると、1,800kg × 5ドル = 9,000ドルとなり、労働コストをカバーできず赤字になります。

課題の克服

この赤字を解消するためには、付加価値を高めることが重要です。例えば、クイーンズランド州の農業試験場では、白いちごの試験栽培が成功し、新たな市場開拓が期待されています。政府の支援の下、こうした取り組みが進められています。

日本の農業への示唆

労働コストの高騰と市場価格の変動に対応するためには、付加価値を高める工夫が求められます。新しい品種の開発や農産物のブランド化など、様々なアプローチが考えられます。持続可能な経営戦略を構築し、革新的な取り組みを推進することが重要です。
オーストラリアのいちご生産者が直面している課題は、日本の農業者にとっても他人事ではありません。労働コストの管理と市場価格の調整は、どの国でも共通の課題です。付加価値を高め、持続可能な経営を目指すことで、厳しい経営環境を乗り越えることができるでしょう。

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