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読書感想『丸の内魔法少女ミラクリーナ』を読んで村田沙耶香さんは誠実に狂っていると思った話

レイコは私よりもずっと誠実に狂っていたと思う。

59頁

誠実に狂っている。

その言葉を村田沙耶香さんにそのまま送りたい。

狂っている。けれど、その筆致が辿り着く場所が極めて誠実だと読んでいて思います。

彼女の小説の世界観や登場人物たちは極めて特殊。

一度ページをめくれば未知の惑星に連れて行かれ、見たこともない生き物に出会った気分になる。僕たちの世界とは全く違った思想を持ち、違った枠組みの中で生きている。

とんでもない体験をした。興奮しながら読み、本を閉じ終わるとそう思うのだが、ふと冷静になってみると自分にも彼らと似たような部分があったかもしれないと気づく。

本作の短編集でも狂った世界で、狂った人達に出会いました。

表題作『丸の内魔法少女ミラクリーナ』では36歳の女性が魔法少女に変身する事によって日々のストレスから身を守って生活している。
『秘密の花園』では女子大生が初恋を相手を監禁する。
『無性教室』ではタイトル通り、性別が禁止されている学校でのお話。
『変容』では怒りが無くなった生活を描いている。

生活、性別、感情、僕たちが感じることすら覚える必要もなかったくらい、当たり前に存在していた世界の当たり前を、いとも簡単に壊しぶつけてくる。そんな作品たちに、不快感、そして恐怖を覚えるのだが同時に安心してしまいます。

例えば、『丸の内魔法少女ミラクリーナ』では、主人公のリナが残業が終え、帰ろうとしたところに後輩が仕事をお願いしてくる場面がある。

そこで彼女は一度トイレに行き、コンパクトを取り出し、
「キューティーチェンジ! ミラクルフレッシュ!」と叫び、魔法少女という設定に変身する。

そうやって変身した彼女は、嫌な仕事も笑顔で引き受け、テキパキとこなす。

現実でそういう人を見たら何しているんだろうときっと驚愕してしまうかもしれない。

しかし僕だって変身している。
無表情で通勤しながら、いざオフィスに入る瞬間、声を明るく挨拶する。
取引先の前でも気合をいれて笑顔を作る。

きっと魔法少女でなくとも、いろんな場面で変身している人は多いのではないでしょうか。
もしくは変身でもしないとやっていけない人がいるのでしょうか。

そういう異常な世界で正常な人、あるいは正常な世界で異常な人を村田沙耶香さんは描きます。

村田さんの小説を読むと、気持ち悪くもなるし安心もする。

それは気持ち悪さを感じている中、どこかで安心している人がいて、安心している中、気持ち悪さを感じている人がいるという事実にもつながる。

当たり前を壊すためには、狂わないといけないのだろう。

しかし、そこから見えるのは誠実さです。
当たり前の世界の設定に馴染めない登場人物に、そして我々に誠実に向き合ってくれる。

そんな村田さんの小説が僕は大好きです。


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