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読書感想『方舟』

読み進めていくごとに緊張感が高まってくる。
なぜ?いったいどうなるの?誰が犯人?
ミステリの醍醐味である。

本作は大学生の柊一の目線で語られる。

学生時代の友人と従兄弟の翔太郎で、山奥の地下建築「方舟」を訪れるた彼らは、偶然出会った3人家族と夜を過ごすことになる。

しかし、翌日の明け方、地震が発生し岩で扉が塞がれ、外へ出れなくなった。

同時に水が浸水し始め、いち早く脱出の方法を模索している最中、友人の裕哉が死体で発見される。「方舟」から脱出する方法は1つだけあるが、誰か一人を犠牲にしなくてはならない。

地下が水で浸されるまで、およそ1週間。
犠牲になるのは殺人の犯人であるべきだと思い、残された彼らは犯人探しを行うが…。

本作はミステリの定番でもあるクローズドサークル、外界との接触が閉ざされた中で起きる事件がメインの作品だ。

そして同時に、誰かを犠牲にしなければ自分が死ぬ状況下に登場人物達は立たされる。そんな中、犯人探しを行うのは極めて苦痛だろう。肉体的にも精神的にも厳しい。

しかし、そこで光るのが翔太郎の推理だ。

周りが感情的になる中、翔太郎だけは見つけた証拠からロジカルな推理を組み立てる。
追い詰められた心情の喧騒さと、論理的な思考の静謐さの混ざる筆致は読みどころの1つだろう。

そして自分ならどうするか。そう考えてしまう時が2回訪れる。

1つ目は、おそらく読みながら常に考えるのかもしれない。それは誰を犠牲にするべきかという人物全員の視点から。

一人を犠牲にすれば残りが助かるといったいわばトロッコ問題さながらの問いを読者に与える。序盤はもちろん犯人が妥当だろう。しかし、極限の状況下で複数の疑惑が浮かんでくる。

作中の人物も、そして我々も、犯人より別の誰かのほうがいいのではないか、むしろあいつが犠牲になってくれないか、判断が変わってくる。

2つ目は本作の根幹にも関わる部分になるので伏せるが、おそらく読者全員が同じ選択をするのではないかと思う。
ただ、1つ目と同じように究極の選択には違いない。

本作は膝から崩れ落ちる体験を読者に与える。
ぜひ「方舟」に迷い込んだ気持ちで読んでほしい。


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