『ジョニーぶらり旅』フィリピン編③
アメリカ人男性とのドライブは、なかなか刺激的だった。彼の経歴を軽く聞くことができたり、窓から見えるフィリピンの景色について英語で会話することができた。
モールが見えてくると、開いた口がふさがらなかった。信じられない位デカいのだ。日本でこんなショッピングセンターなんか見たことない。とにかく大きかった。
周りは依然として東南アジア風土なのに、モールのある区画だけが先進国トップクラスの見た目だった。
驚いたことに、入店時に警備員の金属探知機によるチェックを受けなければならない。恐るべしフィリピン。
中はとても清潔で、アメリカのショッピングセンターのような雰囲気だった。とにかくデカい円形の建物で、真ん中が吹き抜けになっており、それがさらに広さを強調していた。
フードコートで甘ったるい肉のプレートを食べながら、二人で談笑した。
そこで話してくれた話題は、彼が昔関係を持っていた女性が上官の元嫁だったことや、特殊部隊のセレクションでの話などだった。どれも常人離れしていて、とても興味深かった。
食事を終えて向かった先は、アーチェリー。なんとアーチェリーができる施設がモールの中にあるのだ。
気分は勿論、マーベルコミックのホークアイか、DCコミックのグリーンアロー。両者とも私の好きなキャラクター。
二人でアーチェリーをすること15分くらい、あまり的には綺麗に当たらなかった。
お互いの的の紙にサインをして、交換した。
帰りも彼がホテルまで乗せてってくれて、道中はアメリカンロックを流しながら帰った。
国も育ちも年齢を違った人と、これだけ仲良くなれるのはとても最高な体験であり、忘れられない人生の糧である。彼とは今でも時々連絡を取り合う仲で、一緒に旅行をする計画もあったほどだ。
いつか彼のいるアメリカに行けたらいいな。
ホテルに戻り、晩御飯を食べてから一眠りした。
フィリピンに来てまだ二日目だというのに、とんでもなく盛りだくさんな体験をしている。4か所の観光名所を回って、アメリカ人男性とドライブに行き、アーチェリーをする。かなり濃い内容。
しかし、まだ二日目は終わっていない。夜の部が残っている。フィリピン女子がどんな人たちなのかを調べていない。
話してみたいので、アプリで暇な子をカフェに誘って会うことにした。
夜の繁華街で待っていると、一人の女が歩いてk……
「いやどうみても男だろ」というような体つきの人間だった。ドレスを着ているレディーボーイだ。
(もう太ももの筋量が俺よりもあるぞ。私はこんな奴にジュース代をおごらなければならないのか。)
とはいうものの、フィリピンの一般人と話す(一般的なのか??)機会を無駄にはできないので、いろいろと聞くことにした。
どうやら医学生らしく、アメリカで医者になるのが夢だそう。
しばらく話した後に、カフェを出て少し散歩する流れになった。
夜の繁華街を歩いていると、どういう訳かその人(男娘)は「こっち歩こうよ」と誘導してくる。その方角が、有名な治安の悪い売春通りなのだ。
その区画だけ、空気が違った。通りにたむろしている人たちも、あきらかに怪しかった。頭の中で、ナイフで襲われる情景が浮かぶ。
私の生まれつきの本能が、反応した。五感が研ぎ澄まされ、半ば興奮状態に陥った。恐怖と戦闘準備のサインである。後ろの足音も分かる。そして、どの程度の人間がいるのかも感じていた気がした。
突然走ってにげるか、実力に売って出る選択肢もあったが、ここは冷静に交渉から始めることにした。
私は「こっちはいいや、戻ろう」と言ってなんとかその通りを引き返して戻ってきた。助かった。
恐らく、その人にそこまでの悪い意図はなかったのだろうとは思った。だけど、帰り際にタクシー代をふんだくられて帰った。
なかなかバカなことをしたと自分でも少し反省したと同時に、これぞ20代の旅だなとも感じた。
また面白い体験談が増えたことだし、修行になったともいえる。
やはり私の本能は信用できる。
だけど私の欲望は信用できない。そう感じた。
つづく
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