ヒストリックが世界一上手かった男たち-ArenaCS4参戦記
どうも。初めましての方だったり、そうじゃなかったり、ナカヤマ サトシです。
今回は2023/10/7・8で行われたアリーナCS4のチームを代表しての参戦記事です。(リンクはMTGmeleeの大会ページ)
個人的な記録というよりは今回のCS全体の流れや構築のデッキ選択、調整戦略などを中心にまとめていきます。
・チームメンツ紹介
まずチームメンツの紹介をします。
ナカヤマ サトシ(筆者)(twitter)
旧イクサラン直前から競技をするためにMTGを始めた競技狂人(自称中堅プレイヤー)。
歴の長さの割に戦績はぼちぼちだったが6月のウィークエンドday2で僥倖の7-0を達成してPTバルセロナと今回のACS4に出場。
他のめぼしい戦績は2020秋日本選手権TOP8・第一回セカコロTOP16
サイトウ シンヤ(twitter)
三度の飯よりドラフトが好き。
長いテキストが読めないので、ヒストリックは普段全くプレイしないとのこと。(実際オリカが多すぎるのでよくわかる)
Super Sunday Series Championship 2017 優勝者
イイダ マサカツ(twitter)
様々なDCGをプレイしているDCGコンペティター。
ハースストーンでマスターズツアー(年3回開催・1回300人前後の完全招待制大会)に出たこともある実力者で、最近アリーナ中心でMTGの競技も取り組み始めた。
7月のリミテッドのウィークエンドで7勝して一発抜けしている。
ムラカミ カズヤ(twitter)
今回権利があるわけではないのにあれこれ手伝ってくれた聖人。
元々サイトウさんとも知己な上、AkioProsメンバーとして同じヒストリック開催だったACS2に出場しており、ケシスコンボ研究のアドバイスを中心にヒストリックからACS全体まであらゆるサポートをくださった。
競技プレイヤーとしてもチャンピオンズカップファイナル サイクル3で4位に入ってPTバルセロナに出場、41位で次のPTにチェインしている。
・ヒストリック戦績
メンバーのヒストリックの戦績はこちら。
サイトウ シンヤ 7-1(スイス4-1時点で7勝達成して決勝で3-0優勝!)
ナカヤマ サトシ 5-1
イイダ マサカツ 3-3
このうち自分がケシスを使用、サイトウさんとイイダさんはメインとサイドの1枚入れ変え以外75枚一致のウィザードを使用していました。(リスト解説は後述)
負けの内容も自分がケシス同型、サイトウさんの負けはサムワイズの蜘蛛大暴れ、イイダさんは事前想定から外れていた中でも重いディミーア・ベルチャーに回るとキツイヨーグモスという所で、残りの同型含む試合は全て取れています。
特にトーナメントの性質上スイス6回戦全勝のプレイヤーはおらず、5-1が自分含めて3人(サイトウさん除く)、他2人は決勝に上がりそこで敗北しているのでヒストリック勝率だけ見るとサイトウさんが7-1で世界一、自分が5-1で2位という形になります。
これはチームで調整のした甲斐のある結果だったなと自負しています。
・参加者視点のArenaCS4の流れ
ここからは順を追ってチーム活動を解説していきます。
ArenaCS4は、参加者視点で言うとかなり駆け足で開催された大会でした。
時系列に直すと大体以下の通りです。
大会日程が正式に決まったのが約2か月前(!?)
8/16 leaderboardからの参加者の確定・連絡(day2で7勝以外の抜け方の人・過半数)
9/1 大会用DISCORDサーバーへの招待が送られる
9月中旬 アンケートやメレー手続きや立ち写真の送付など
9/22 自分が日本人チームサーバー開設(遅くなった理由は後述)
10月3日 火曜日 00:59 デッキリスト締めきり
10/8 00:00 大会開始
何故チーム作成が遅れたかというと、「ウィザーズ側が(参加者から他の参加者を把握したいとの要望があり)参加者の氏名一覧を作成すると言いつつ、実際に作成されたのは10月に入るあたりだった」ためである。
参加者が一向に発表されないので、一人調整をギリギリまで進めていたが、4人いることがわかっている日本人のうちの2人は何とか伝手で見つけられたので3人+むらっちょさんでチームを組み調整に入りました。
チームに招待したくてナガミさんも探せるだけ探していたんですが、(この時点では本名も分からず)アリーナのアカウント名などから色々検索しても上手く辿り着けずに招けませんでした。(上述のウィザーズ側が一向に発表しなかったことから、海外プレイヤーに参加者であることがバレると一方的にデッキがバレるリスクがあるので大々的な声かけも出来なかった。)
結果的に一人だけはぶかれる形になってしまったナガミさんには申し訳なかったです。
・チーム調整の開始
リスト締め切りの10日弱前にチームを作り、むらっちょさん以外ほぼ全員お互い初対面状態だったので安心して調整に臨めるように事前に紳士協定を決めた上で様々な練習が始まりました。
紳士協定:
チームデッキの完成した場合ミラーに有利なカードの枚数を個人の独断で増やしてはいけない。
デッキがばらばらでも身内のリストを過分にメタらない。
32人の参加者だと他の31人中2人のデッキがわかってしまうので意外と大事な取り決めとなります。
前々回のakioprosチームでの紳士協定を参考に作ったルール
・メタゲーム分析
ではヒストリックがどういうメタゲームをしていたかというと、一言で言うなら指輪物語と楽園の拡散が定義しているフォーマットでした。
指輪とオークがタフ1と雑なミッドレンジを排斥し、8ラノエルの代わりに入った拡散とハーフリングがコントロールを駆逐する。
すなわちここ数年のMTGでも類を見ないコンボ・アグロの2強環境になっていました。
これは全員の見解が各々の個人練習の間に得た経験から一致しており、これを前提条件として調整が始まることになります。
・個別デッキ検討
ここからは我々が選んだデッキ以外で、最終的に多かった順に検討していた内容について話していきます。
ディミーアコントロール
検討はしていたが、正直チームデッキに選ばれるデッキとは思っていなかったデッキ。
仮にコントロールするならサウロン・オークの存在からこのカラーになるとは思っていたが、圧倒的データ不足や多種多様なコンボに対する耐性のバランス取りが非常に難しい中、10日間で最適解を出せるものではないので断念したアーキタイプ。
持ち込んだ6人はチームデッキだったようで、2~3枚の採用誤差以外は基本的に同一リストだった。
上述のコンボ耐性をハンデスではなくカウンターに寄せ、針・瞬唱・ルールスを入れつつハーフリングを処理するという今のメタに合わせ切ったクロパに近い構築には感心した。
最終的なトータルのマッチ勝率は19-20でわずかに負け越してはいたが、非常に安定感のあるリストに仕上がっていて日本人チーム的にはかなり驚きつつ、(相性も含めて)相手にしたくなさを感じるリストだった。
緑単
パイオニアの緑単からニッサの誓いと8ラノエルを抜いて楽園の拡散とハーフリングを入れたデッキ。
分かる人ならそれだけで強さが分かると思うが、まあ安定感が凄い。
後手だと3t目までにアグロならライフを一桁にするか、コンボはリーチをかけないとまず勝てない。
拡散(とハーフリング)のおかげで白タッチもでき、比較的選択肢は多かったがウィッシュボードの都合サイド調整が難しいのと、何より「ウィザードに微不利~不利」なのが致命的だった。
(個人的にはその点トルシミールはかなり感心した)
ゴルガリヨーグモス
トップメタの中で一番握る可能性があったデッキ。
コンボの中でもシルバーバレット戦略が取れるので、3t無限ルートを有しつつメタ置物を割ったりオークを並べてミッドレンジプランを取ったりとにかく器用なビート。
強いカードを強く使うというよりは、強いカードだけで煮詰めたという趣旨のデッキで環境の速度を考えるとコンボの入っているミッドレンジという認識が近い。
特にイイダさんは練習段階ではラダーで滅茶苦茶に勝っていて、最後までデッキ選択で悩んでいた。
最終的に選ばれなかったのはここまでハイレベルなトーメントかつリスト公開制という観点から、お互いに最適解を選び続ける場合重要になる「押しつけの理不尽さと速度」という点で他アーキタイプに一歩及ばないと判断したため。
結果から見ても最終的に5人が持ち込んで総合19-14なほどで、十分選んでおかしくないアーキタイプだった。
ラクドス(ジャンド)ミッドレンジ
現代MTGのミッドレンジと言えばラクドス。ご多聞に漏れずヒストリックでもしばらく最強を誇っていて、オークなども使えるので強い……かと思いきや実は環境的に一番辛かったデッキ。
カードの質は流石なのだが、クルシアスがナーフでタフ1になってしまったのでオークに対して脆いという致命的な弱点が追加され、そもそもこの環境の異常な点である「ミッドレンジ速度はコントロールポジション」という特異性が重くのしかかる。
ただでさえコンボが多く速度負けをするのにハンデスを引きすぎてもトップ叩きつけられるだけで負ける(変換するのに強かったクルシアスはナーフで弱くなっている)。
かといって4キルを達成する速度も無いので、攪乱的アグロの立ち位置も取りずらいと踏んだり蹴ったり。
これらの問題点を解決するべくアプローチをとってみたのが「やるなら徹底的にコンボをハンデスでシバきつつ1枚で勝つカードを動かして勝ちに行く」というアプローチで組んだ真っ白4+ラエリア構成。
真っ白が全対面で腐らず、ケシスや緑単などのキーカードを少数手札に残すデッキにぶっ刺さる。ついでに墓地飛ばすのでリカバリーも難儀。
サイドも空くのでアグレッシブサイドボードをして速攻プランも取りに行けるぜ!という意欲作だったが、「ラクドスの中では一番マシ(多少のパワーアップでは環境に対しての構造的不利をぬぐい切れない)」程度だったのでお蔵入りに。
サムワイズコンボ
ベースはヨーグモスと同じで、シルバーバレットからコンボパーツを揃えに行く構成のコンボ。
ナガミさんが持ち込んでいたアーキタイプ。
先に記事を上げられているので細かい解説はそちらで。
一番わかりやすい違いとしてヨーグモスに比べてカンパニーを強く使えるのが利点。猫が墓地にいるだけ盤面空の状態でインスタントタイミングでコンボ完成したりするのはやはり強い。(檻にさらに弱くなるなどはあると思うが)
これもヨーグモスと同じ消極的理由で最終的に選ばなかった。
ゴブリン・ベルチャー
実際にいるとは思わなかったが、一応検討していたデッキ。
キーカードを抜かれると死ぬ、普通にオークが辛い、ハンデス耐性が高いわけではない等、各々に色々難点はあるが、唯一「3キル率」という点では最高クラスと言えるアーキタイプたち。
選ばなかった理由は、「(速度出すにしても)ウィザードでいい」の一言に集約された。
使用者がいなかったが検討していたアーキタイプ
エンチャントレス
実はラクドスなどよりはよほど警戒していたアーキタイプ。
楽園の拡散・偉大なるオーラ術・ファイレクシアの非生と3段階ほどまとめて強化を受けており、ルーズや軽減無効が関係なくなるというロックコンボの信頼性が上がったことでかなり堅牢になっていた、おとぎ話のおとぎ話によるおとぎ話のためのアーキタイプ。
相性差が非常にはっきりしていて、ヨーグモス系統・ウィザード・ディミーアコントロールにはめっぽう強いが、運命を紡ぐもの以外の有用なサブのフィニッシュプランが見つけられなかったことと、何よりコンボのLO戦略に致命的に弱かったのがありチームデッキとはならなかった。(ケシス・緑単という一番多いと思っていたところが不利なのは厳しい)
オーラ
これも楽園の拡散という初速を担保しつつ安定感を高める点で一番強く使えるうちの一つだったことと、実質ボーグルと呼んでいた毒茸の称賛者が入った事で強化されていたアーキタイプ。
オーク環境なので囲いプッシュが標準搭載で、肉とオーラを揃えて勝たねばならない以上マリガンを許容しにくいという点から安定感が出せず断念。
黒くないデッキに対してはウィザードを各面で上回る爆発力はあるので、ラダーで回してる感触だけは良かった。
・チームデッキ解説
最終的に我々が選択したのは自分がケシスコンボ、イイダさんとサイトウさんがイゼットウィザードだった。
両デッキともデッキパワーがほぼ同格であることに加え、環境が要求する「そもそも対処しにくい押し付け力」「半端な妨害では先行4t目までにゲームを決め切る力」「消耗戦に持ち込まれても粘り勝てる構造」を十二全に兼ね備えていた。
選択デッキが分かれた理由としては「ケシスコンボが複雑すぎて2週間そこらで100%の精度で回せない」というのが何よりも大きかった。
これは自分はAkioProsでよく見ていたので失念していたが、そもそもケシスはパイオニアで暴れる前に他のコンボと一緒くたに禁止された悲しい過去があり、ヒストリックくらいでしかトーナメントレベルのコンボとして成立していないので慣れている人間が非常に少ない。
実際問題デッキをフルで使うのでデッキの60枚が今どの内訳でどの領域にあるのか把握が必要なうえに、マナを軽減したり、マナが出たり、でなかったり、クリックミスるとマナ減ったり、呪文を先に唱えた方がマナが増えたり、減ったり……とにかくマナの計算が煩雑なうえに、不確定な切削でコンボの完遂可否が変わるので攻め時の計算をするのが慣れが無いと難しいデッキなので、受け側の視点を学習するだけでも一苦労なのだ。
逆に自分は「ケシスを対面したときに常に適切なゲームを行えるプレイヤーの方が少ない」というのは十分な利点だったのでケシスを選択した。
個々人の最適解を取った結果、デッキ選択が分かれたのである。
・イゼットウィザード
アルケミーバフをもらった対称の賢者が生み出した異形のアグロ。
モダンですら再現不可能な異常速度を産みつつ、アノールの炎という3マナ1:3交換カードや焦熱島嶼域を手に入れたことで「アグロを防いでようやくスタートライン」という反則じみたアドバンテージ力も兼ね備えている。
使用リストは75枚は一緒、メインサイドの除去の配分だけ1枚ちがう形である。
ウィザードの強さの骨子を支えるのは「肉が」「(色々するついでに)異常にデカくなって」「殴る」、シンプルな暴である。
上の3点だけ守ってればとりあえずデッキとして成立してしまう。ゆえに拡張性が高いのだが、デッキを環境トップレベルまで押し上げているカードは明確なので外せない部分はある。
まず4種のウィザード。こいつらは本当に代わりが効かない。よく「(回避能力無いし)損魂だけ弱いよなぁ」と言ってはいたが、こいつですらオーク環境でタフ2ある・果敢持ってる・1コスというマジで替えのきかないウィザードである。他が狂ってるだけであってこの条件を満たしている時点で150点ぐらいある。
各種スペルは(反復は禁止されているとはいえ)パイオニア範囲の物が殆ど。
しかし頭二つ抜けて強いカードが無謀なる突進とアノールの炎になる。
英語公式記事でもサイトウさんが言っているが、兎に角この2枚を活かすことがウィザードの神髄、ひいては環境の攻略となった。
一般的な他のウィザードと一番の構成の差になるのはアノールの炎4枚型であること。(他のリストだと巨怪な怒り+他スペルになっていることが多い)
アノールの炎のアドバンテージ・テンポ確保力は尋常ではなく、これを引かなければ高密度なオールインアグロ、引いた時は更にロングレンジで常に圧をかけ続ける無呼吸ラッシュのような絶え間ない暴を浴びせるプランを取ることが出来る。
アノールの炎は無謀なる突進の補完としても優秀で、無謀なる突進のデメリットであるアドバンテージorテンポ損を補完でき、逆に突進ケアで構えてきた相手に構え返してテンポで差をつけることもできる。実際にアノール型を相手をしていると突進オールイン型以上に厳しい対処を求められるのだ。
サイドボードに関して、個々のカードについて語ることは少ないが、構造として「メインのバランスが完成されていて枚数抜きすぎると逆に弱くなるので、1~2枚のぶっ刺すカードで埋める」という手法になった。
針は蔓延る各種コンボに、トーモッドはケシスに、瞬唱は除去デッキにウィザードカウント増やし兼リソースとして……等色々あるが、一番意見が割れたのが霊柩車。(と言っても主に自分だけが反対した形だったが)
ウィザードでは意外と乗りにくく、ヨーグモスに効いてもケシス・サムワイズには1枚では足りないことが多い。しかしやはり毎ターン墓地に干渉できること・3~4T で驚異的なサイズになることや、意外とアクションの難しいサイド後の2t目に裏目のないアクションとしておけるメリットが上回ると判断して、2枚の採用になった。(またその相性の部分も鑑み霜剣山の採用がされ、そちらも大活躍した)
そして霊柩車がぶっさるヨーグモスや結果的に多かったディミーアは1/3を占め、大正解のサイドプランだった。ぐう
75枚のリストがかくして完成し、4点で焼きたいかウィザードが無くても3点いれたいかのバランスで1枚だけ入れ変えて2人のデッキは完成したのである。
最終的に「自分の推した突進・瞬唱(突進はナカヤマも)、イイダさんが推した双剣山・疾風、むらっちょさんが推した霊柩車・針、全てが絶妙なバランスで機能して、全員の力で優勝にふさわしい高レベルなデッキを完成できたのがよかった。」(サイトウ談)
調整途中の検討で出てきたカードには浄化の野火がある。
楽園の拡散に打つだけでも実質ランデスであるうえに、一般的なケシスやサムワイズ・同型などでも基本土地が0~1枚のデッキに対して墓地から釣って乱打するだけでゲームが終わるので対面を見ながら勝ち筋を増やせるナイスカードではあった。
最終的に採用しなかった理由としては「複数枚積んだ方が強いカードだが、サイドスロットを食う割に元から相性が普通~有利のデッキにしかあまり刺さらない(あとリスクを受け入れるほど信用も置けない)」という点である。もはやぐうの音もでない。
後はエンチャントレスがいざいたらきついのではないかという点からオーラともども見れる濾過も提案したが、これも「ピンポイント過ぎる」という点で却下。ひん
ケシスコンボ
akioプロスの代名詞みたいになり始めているコンボデッキ。
nathanぶっ倒してday2で7-0決めるとか言う我ながらとんでもない抜け方してたのもあり、研究すれば強さがわかるアーキタイプなので最終的にトップメタになるかと思ったけど最終的な持ち込みは自分の他2人しかいなかった。
トップメタである予想していたもう一つの理由が、crokyzが配信で使用して大勝ちしていたというのがあった。
シミック型は基本的にスゥルタイより弱く、それで勝てるならと研究されるかと思ったが、逆にこれで研究の価値なしと判断されてスゥルタイに辿り着いた人間が少なかったかもしれない。
直近でのこのデッキの主な強化点は3つ。
ケシスの色の内2つをいきなり捻出できる城塞の大広間。
このカードはデッキからマナの合流点を一気に減らし、魂力土地で支える貧弱なマナベースから安定した伝説キャストを達成します。
2つ目はアガサの魂の大釜。
針がケシスに刺さってもそのままコンボ完遂出来るのは流石にズルい。
またローナにエムリー能力を付けてアンバーを唱え続けて無限マナが簡単に出るサブルートも存在する。
3つ目はケシスから拾える墓地メタであるエレヒの石の存在。
置いてるだけで猫や死亡誘発に対してずっと効き続けるのが地味つよポイントで、ケシスがいると0マナなのもずるい。
そもそものこのデッキの挙動について語ろう。
根幹をなすパーツは3つ、ケシス・アンバー・ジェイスだ。
隠された手、ケシスの起動型能力がターン1制限が無いこととモックスアンバーが伝説であることを悪用し、自分のライブラリーを削り落としてかなりのマナを担保し、ジェイスで相手のライブラリーも0にして勝つ(今回は指輪のプロテクションで守られることが多いのでマナ節約にもなる神秘ジェイスをメイン採用)。
ジェイス以外に自分の墓地を肥やすループ・準備のカードとしてアンバーとも相性のいいエムリー、手札入れ替えを高速で行うローナが潤滑剤に。
また、エムリーの拾い先とマナ補助として彩色の宝球・伝説の秘宝が入った事でキナンが入り安定して4t目までにパーツを手札・墓地に揃えてキルするデッキである
概形を語り終えたところでケシスデッキの最大の強みを説明する。
それは4キルの安定性もあるのだがそれの比ではないポイントとして「ピーハンを受けない魂力土地でパーツ揃え・メタカードメタを遂行して勝つ」という妨害難易度の高さにある。
ハンデスを撃つだけでは場パーツと竹沼から完走し、檻や力線を張るだけでは大田原や母聖樹から完走する。ファクトの起動でマナを担保する構造の都合でカーンからトーモッドを持ってくる動きがキツイが、それすら肉を剥がしてカーンを殴って落としてからトーモッドの上から完走するルートが合ったり、兎に角コンボの完走阻止の難易度が尋常じゃなく高い。
現メタにこそいなかったが、前は人間がサリアだろうがエスパーの歩哨置こうが関係なくコンボ決め切ってくるのは恐怖を感じた。(元人間)
相棒の取りやすさも構築の強さにつながる。相棒自体が伝説でありデッキとシナジーしていることと、中速以下のデッキに対してはアガサ釜からの完走ルートに阻害しなければいけない枚数が増えるのはシンプルに圧力として優秀。
ザーダとジェガンサが選択肢になるが、ザーダは見た目以上に取れないカードの制約が緩く、採用圏内で範囲内で取れないカードはラヴィニアとアーテイ・真髄の針程度で、ラヴィニアは主に緑単にしか入れないカードなので関係がない上に他のカードも基本代用できる受けのカードなので採用理由が薄い。
対してジェガンサは神秘ジェイス(と後述の濾過)が採用できないのは確実なデメリット。神秘ジェイスは掘り返しという致命的なメタカードに対する回答でもあるので、単純にアーテイでドローさせれば勝ちという話にはならない。
また本体のキャストに対するバリューが、ザーダは軽めに出して大田原・竹沼・公有地・ローナ・キナンの軽減でかなり取り回しが利くようになるのに対してジェガンサはもっさりしている部分が否めない。唯一唱えにくさがデメリットだったが大広間での色補助度により大分帳消しになり、総合するとザーダの方が比較的採用バリューが高いと判断した。
カードの自由枠は4~6(土地など削って8)ある。
ここに上述のハーフリングを入れればキナンとシナジーして、1パス率が下がりつつカウンター耐性もついて3キル率も上がって最強デッキや!……とはならないのがMTGの難しいところ。
難点は2つ、マナベースの圧迫と単体で何もしないカードになってしまう点だ。
マナベースの問題は分かりやすい。1t目のアクションが伝説でない緑マナだとすると相応の緑カウントが必要になる。具体的には最低12、出来れば15だ。
するとどうなるかと言えば話は簡単で、デッキから竹沼・大田原・大広間の枚数を減らす必要がある(下画像参照)。上述の通りこのデッキの比類ない強みは土地によるコンボ完遂の補助なのでこれではいくらカードが強くともデッキパワーの観点では相殺してしまう。
また黒マナの捻出が難しくなるのも厳しい。竹沼の起動もそうだし、囲い・プッシュの両方を安定して打てることで4t目までの時間やコンボの完遂を安定させている。プッシュは特に仮想トップメタのウィザード相手に打てる打てないで、2ターン分ゲームレンジが変わることもあるので竹沼並に絶対に切り捨てられない。ウィザードデッキを選択したときの話とは逆でコンボ完遂の安定度が高すぎるため、ハンデス耐性の低い安定3キル速度を出すのと多少の障害をものともせず4キルするのでは勝率に大きな差を出さない。
これはハーフリングが単体で何もしないカードになるという部分にも話が結びついている。
ケシスデッキは無限にカードを拾い出すのでアドバンテージを取りまくるように見えるが、実は直接的に手札を増やす手段はエムリー・ジェイスの起動かザーダを手札に加える部分しかない。(キナンの起動はフラッドの最終手段、ケシス起動は基本勝っているときなので省く)
すなわちウィザードのような早くて骨太のビートでない、いわゆる受けてくるデッキを相手にした時に1:1交換の選択肢のある手札が枯れるまでひたすらに交換させ続けるのが勝ち筋であるが、交換させられない札を引いていてはこちらのマスカンさせるカードが足りなくなるのだ。
ハーフリングはカウンター不可能な点を除けば大広間と役割範囲が近いが、上記の通り大量のファストランドやマナの合流点を要求する。(ディミーアにこそプッシュを要求するという役割はあるが一旦省略する)
英雄の公有地すら秘宝・ザーダルートで置き土地から肉を守るという役割も持っている中で、上二つのリストのようにコンボに絡めないマナ源が16~17枚というのは1:1交換メンコをするにあたってあまりに重くのしかかる。(自分のリストは10枚)
かといってファストランドをキャノピーランドにするのはマナベース負担の重さから抱えている合流点4の現状ですら、ギリギリアウトなレベルのライフ損失を抱えているので不可能。
アプローチの構造上、あらゆる角度で「魂力土地がめちゃくちゃする」という強みがかなり弱くなってしまうのが避けられず、自分は避けるべきと判断した。(タイヴァーなど特有の強みも出せるが、大局的に見ると進化の袋小路であることを否定できなかった)
一応ハーフリングのフォローをしておくと、カウンターが存在すると想定されるメタゲームであれば当然仕事が増えるし、何よりタイヴァーの採用理由を大きく後押しすることが出来るのはメリット。ハーフリングが居ないとマイナスで釣れるのが6~8枚しかなくて雑採用できないが、書いてあることは全部の行が凄いのでそちらの構成のキーカードである。
またメタカードが重なりすぎた相手にブチギレローナなどでぶん殴り始める「ミッドレンジルート」と呼んでいるビートプランも肉厚な分トータルでは取りやすくはなっている。
最終的に自分がメインの自由枠で取ったカードはまず魂力土地をギリギリ一杯。
ハンデス環境なためマリガンは負けに直結するので、土地が足りないのでマリガンというのを極限まで減らす意味もあり、23~24が多い中25土地。
勝ち手段の固定化である神秘ジェイスもメインに移し、残りの4枚は囲い2プッシュ1、そしてむらっちょさんから「同型(と環境で総合的に)強くてシナジーあるならメインに1枚回せば?」との啓示を受け、星が減った分の引き回し兼、墓地をなんかしらの形で利用するデッキも多いのでエレヒ石をメイン1投入。これは本当に強かった。
囲いはこのデッキの根幹である1:1交換という点を確実に完遂し、ピーピングで一番コンボを通しやすいルートを判断できるのが柔軟性の塊のようなこのデッキには本当に染みるカード。
ただし重ね引きで効果が薄いし、シンプルに痛いのとテンポ損はあるのでオーク・ヨーグモス・各種コンボパーツ、なんだかんだ居るシェオルへの対策として1枚はプッシュになっている。
サイド枠もサイド枠で悩んでいたのは一点のみ。というのも、基本的にメインが完成されすぎていて「緑単(というかカーン)だけ残りのスロットでどうするか」という所以外考えるところが無いのだ。
相棒のザーダ、アグロにメインプッシュ1と別で軽量除去4枚、プッシュが要らない相手に囲いが1枚、コンボ用に追加の墓地メタエレヒ1枚とついでに先手ならカーンぶっこ抜ける石の脳1枚、汎用性の高いウルザの殲滅破が1枚とここまでで9枚。この9枚の枠は完成されていて、必要十分だった。
緑単を潰すための残りの6枚だけ決めればよくて、前から決まっているのは緑単に対して遅延性能が高いラヴィニア。メタるデッキも決まっていて、あと少しの枠という所でところがこれがなかなか決まらない。
とりあえずラヴィニアは元のリストから3にして回してたが、個人的にあのAkio Matsuzakiに話をした時に「半端なカード入れるならラヴィニア4までツッパした方が確実に強い」と言われ、緑単以外困ってないならそれもそうだなと最終的に4枚は確定。じゃああと2枚か
この2枚が一生決まらない。というのもカーンが厄介なのは、あいつが出た瞬間に最低でもトーモッド張り、1マナでもあれば針の選択肢が確定するのが厄介なのだ。大田原でカーン1枚戻しても元々の盤面が最低限整ってないと突破しきるのが難しい。
緑単はただでさえスピード勝負を決めなければならないのでマナを構えるのが難しいし、ハーフリングでカウンターは論外、よしんば名称指定でキャスト阻害しても襲撃で踏み倒すルートもあるので、つまり襲撃ごと唱えさせないラヴィニアを除いたら実質的に「1枚でPWとアーティファクトを無力化(戦場から引きはがせる)必要がある」。そんなカードあるわけ……
上述の濾過の伏線回収である。ウィザード用に提案しておいて、カードを出した瞬間にカーン対策になることに気が付き、「これじゃん!」みたいなことを言った。
しかも拡散と狼柳とキオーラも巻き込むので、盤面次第ではさらに1Tの時間を作れる場合もある。マナベースだけネック(カーンが出ている場合ファクトから青が出ないため)だが、「カーンが出た時点で不利なので半端にしか対処できないカードなら唱えられないリスクなど気合で突破することにした方がマシ」という大和魂理論に行きついた。ウォォォォォォォ~
ラダーでも最終確認をして十分機能することを確認。デッキとして最終的に持ち込んだのは自分一人でしたが、チーム練習の経験値で取捨選択がかなりできたのでチームには本当に感謝しています。
・リミテッド(?)
結論から言うと殆どチーム練習はしませんでした。
ヒストリックリストの提出後点数票や環境分析を語ったりはしましたが、チームを組む前の事前練習で全員かなり回していたのと、各々の経験値と何より本番での噛み合いが物を言うフォーマットなので、明らかな間違いを取らなければ後は祈るのみというのが大きかったです。
結果としては
ナカヤマ サトシ 0-3
サイトウ シンヤ 3-0
イイダ マサカツ 1-2
自分は卓のパックがヤバすぎました……。祈り足りず……。
逆にサイトウさんはお見事でした。これが世界一。
・総括
まとめに当たってサイトウさんから謝辞を預かっているので先に掲載します。
こんにちは。齋藤です。
自分がAC4優勝、ワールド権利獲得とは、今でも不思議な気持ちです。
ヒストリックは完全に門外漢で、今回チーム調整が始まるまで全くやっていませんでした。そんな自分がわずか2週間の練習でこのような結果を残せたのは、本当にチームメンバーのおかげだと思っています。
ジョンさんには(彼にとっては損でしかないのに)どこからなら死にうるのか、何から除去するべきか、針を刺す優先順位は等々、ケシスの何たるかを徹底レクチャーしてもらいました。直前のスパーで彼に4-1できたことで、本番でも対ケシスは安心して臨めました。
ウルザさんにはウィザードの細部、サイドボーディング等の相談でとてもお世話になりました。彼がリスト提出直前に霜剣山を推してくれなければ、優勝はなかったかもしれません。
そしてむらっちょは参加メンバーでないにも関わらず、声かけからヒストリックの環境解説、ウィザードの最終調整まで付き合ってもらいました。本当にありがたい限りです。
ワールドの権利は得たものの、当分先の話ですのでまずは目の前のプロツアー、アリーナCS出場を目指してやっていく予定です。幸い次のアリーナCSも出場できそうで、連覇…なんてできたらと、今はそんな夢も抱いています。
それではまた。
自分もサイトウさんが今回優勝するのに寄与できたのはとても嬉しく、自身の個人成績には悔いが残りますがそれでも良いチーム活動にできたと強く感じています。
チームでするMTGは自分にない考え方を取り入れるというのは勿論、自身のプレイングも言語化によって自然と洗練されていきます。
これは大会の場がデジタルでも変わることはないという事も証明出来たと思っています。今回のチーム活動記録が皆さんのグループプレイでの一助になれば幸いです。
・(個人的な)追記
ACS終了から2日もたたないうちにアルケミーカードの追加(これ自体はいつもの事なので諦めもありますが)に加えてヒストリックカードのナーフが入りました。
正気かウィザーズ?
…………。
皆ヒストリックを回す時はウィザードかケシスをよろしくな!
(完)
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