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【短編小説】トンネル
子供の頃、そのトンネルが怖くてわざわざ遠回りして帰っていた。
先の見えない暗闇から声が聞こえてきそうで、
耳を塞ぎながらそのトンネルから遠ざかる。
一緒に帰っていた友達もそのトンネルが苦手らしく、
二人で「あのトンネルなんであるんだろうね」と話していた。
ある日、そのトンネルの向こうから歪な形のナニカが出てくるのを見てしまった。
友達と私は走った。叫びながら走った。
それを見てはいけないと直感的に感じたんだと思う。
大人にそのことを話すと次の日にはニュースになっていた。
友達は病院に運ばれて行った。
理由はわからなかった。誰も教えてくれなかった。
私は友達と帰ることができなくなった。
間もなくして、友達は引っ越した。
そんなことを思い出したバイトの帰り道。
「私も大人になったんだなぁ」と肩に深く食い込むリュックのホルダーを直す。
今は怖くない。
ただのトンネルじゃないか。
よく見ればトンネルの中に明かりもついている。
『こっちから帰れば10分早く家に着く』
怖いなんて感情、大人になったら無くなるもんだな。
だってソレよりも毎日が大変で辛くて…
そういえば明日ってあのおばさんとシフト同じだっけ。
『あーもうしんどいな、早く帰ろう』
踏み込んだ一歩が重かった。
トンネルのその先の闇に私は気づかなかった。
怖いという感情が麻痺するほどつかれていたんだ。
『ね、ソレほど怖くないでしょう?』
トンネルの暗闇に紛れるような囁き声が聞こえた。
逃げ出すには、もう遅かった。
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子供の時は無知だった。だから怖いと思った。
でも違った。あの子があのトンネルに引き込まれてしまった。
小学生の頃、一緒に下校していたあの子。
ニュースで流れた時、私は「もしかして…」と思った。
画面に名前が映る。「あぁ、やっぱり…でもどうして」
そんなに追い詰められていたのだろうか?
いや、きっと声が聞こえたんだ。
あのトンネルには私たちには理解できない、この時代にぴったりの化け物がいる。
逃げ道が欲しくなった時に現れる暗闇の化け物。
私は大人になった今でもあのトンネルが怖くてたまらない。
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