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詩・小説

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思いついた言葉の倉庫です。 たまに深夜のテンションで小説も書きます。
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#短編小説

【短編小説】ブラックホール病

ねぇパパ 「ねぇパパ、私はいつまでここにいなくちゃいけなの?」 娘のシルビアが曇りガラスの向こうに何か絵を描きながら言った。 「そうだね、もう少し、かな」 「もう少し?もう少しってどのくらい?」 屈託のない目でこちらを見てきた娘を見て唇を噛み締めた。 「そうだな…」 考えるふりをして下を向いた。いろんな感情が私を襲ってきたのを娘に悟られたくなかった。 「ねぇパパ!」私に考えがあると言わんばかりにシルビアが声を上げた。 「パパのいた場所で一緒に暮らせばいいんじゃない?」 「パ

【短編小説】死神の森

その男 その日、いつものように森を散歩していると怪しげな格好をした男を見つけた。 その男は全身が黒一色で明らかに怪しい行動をしていた。 一生懸命大きな袋に何かを詰めているのだ。 そうして何かを大きな袋に詰め終わった男は周りに誰もいないことを確認して森の奥深くへと歩いて行った。 気になった私はその男に気づかれないようについていくことにした。 危ないことかもしれないが私は自分自身の好奇心が抑えられなかったのだ。 これを読んでいるみんなは絶対に真似しないように。 死神 今日が晴れ

【短編小説】その日には咲かない気持ちに水をやる。

随分前からこの気持ちに嫌気が差していた。 誰かと話していても、ひとりの時もモヤモヤとしはじめるのはどうしてなんだろうか?きっと長い間私の中に溜まってしまった結果だと思う。 「ミサキさんは少し自分の気持ちを伝えるのが苦手のようです」 そう通信簿に書かれていたのを見た母はどうしてかしらねぇ?と首を傾げていた。 私は素知らぬ顔をして絵を描き始める。 季節はまだ肌寒い春のことだった。 それからしばらくして学校で友達ができた。名前はミサトといい、私の席の後ろの子だった。名前の響きが同

雪に沿って舞う夏の金魚

その日の朝、今年初めての雪が降る。 彼女は靴を履きながらこれからのことを考える。 空には私が舞っている。 雪は冷たく、彼女の息が白く霞む。 私は今年死んだ金魚。 彼女の家の庭に埋まった。 でも今はこの静かな明け方の空で雪と一緒に遊んでいる。 彼女は毎日、庭で手を合わせる。 私はそんなことしなくてもいいのにと思いながら、彼女のそばまで行く。 彼女の頬が赤く染まっていた。 私と同じ色だった。

【短編小説】ブラックホール病【続】

↓前回の続きになります。コツコツ書いていこうと思いマッスル! 終わりの始まり 「でさー俺名前もつことにしたわ」 「は?マジで?なんで?」 驚くこいつの顔は意外と嫌いじゃないと思いながらあの時のことを思い出す。 片腕が無くなっているにも関わらず、あの警備員は先生とかいうやつをもう片方の腕で抱き締めていた。「まだ名前を聞いていません」と泣きながら。 先生が無線で事細かに今の状況を伝えてくれていたおかげで救急班やら警備班やら、特に何もできないけどと言いながら何か助けになりたい

神社の夢から醒めないまま

いつからだろうか、現実世界と区別がつかなくなっていた。 自分が眠っているのか起きているのかわからなくなっている。 初めは面白がって話を聞いていた友達も最近は夢の話を聞かなくなった。 よく夢の中で行く神社に今日も行った。 でもこの世界が本当なのかわからない。 現実か夢なのかを確かめる方法は色々あったが、一番手っ取り早いのは自分の体が男なのか女なのかを調べることだ。 不思議なことになぜか夢の世界で私は男性なのだ。 すらっとした体に申し訳程度に筋肉がついており、股間に異物を感じる

【短編小説】トンネル

子供の頃、そのトンネルが怖くてわざわざ遠回りして帰っていた。 先の見えない暗闇から声が聞こえてきそうで、 耳を塞ぎながらそのトンネルから遠ざかる。 一緒に帰っていた友達もそのトンネルが苦手らしく、 二人で「あのトンネルなんであるんだろうね」と話していた。 ある日、そのトンネルの向こうから歪な形のナニカが出てくるのを見てしまった。 友達と私は走った。叫びながら走った。 それを見てはいけないと直感的に感じたんだと思う。 大人にそのことを話すと次の日にはニュースになっていた。

「兄弟姉妹ってさ、絶対比べられるよね。  そう言った彼女は寂しそうに僕の顔を見た。  僕は一人っ子だから彼女の気持ちが分からない。  それでも寄り添いたいという一心で彼女の目を見た。  貴方は貴方だよ、僕は貴方だから好きになったんだ。  誰かと比べて恋に落ちたわけじゃないんだ。」

「私は成功しました。しかし沢山の失敗もしました。  メディアが取り上げるのは成功だけですが。」

「あなたから見れば僕は不幸なのでしょう。  しかし僕から見れば僕は幸せなのです。  あなたは見たいものを見ている。  だから僕も見たいものを見ているのです。」

「あなたの世界が狭すぎると、その中で起こる出来事全てにあなたは反応してしまう。  そうして心を痛めて、私の人生なんか…なんて呟き始める。  あなたは自分の世界が狭いことには気がつかない。  本当の世界はあなたを待っているのに。」

「じいちゃんは言った。死ねなかったと。  あの飛行機に乗って死ぬのが俺の役目だと信じていた。  お国のために自分の命を燃やすのが役目なのだと。  あぁでも。  じいちゃんの守りたかったお国は今、僕を殺しにかかっている。」