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詩・小説

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思いついた言葉の倉庫です。 たまに深夜のテンションで小説も書きます。
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【短編小説】ブラックホール病

ねぇパパ 「ねぇパパ、私はいつまでここにいなくちゃいけなの?」 娘のシルビアが曇りガラスの向こうに何か絵を描きながら言った。 「そうだね、もう少し、かな」 「もう少し?もう少しってどのくらい?」 屈託のない目でこちらを見てきた娘を見て唇を噛み締めた。 「そうだな…」 考えるふりをして下を向いた。いろんな感情が私を襲ってきたのを娘に悟られたくなかった。 「ねぇパパ!」私に考えがあると言わんばかりにシルビアが声を上げた。 「パパのいた場所で一緒に暮らせばいいんじゃない?」 「パ

僕の先生

みんなはまだ覚えているかな? あの先生のことを 過ぎ去った日々を 大人になってから思い出す  あの先生のことを 見渡した未来を  どうしてこんな生活になった? クソみたいに吐き出す愚痴が止められない  片手の画面をフリックして 目の前の伽藍堂の闇を見て孤独に呆れている 運命から手を離したり伸ばしてどうにかこの橋の上にいる  一歩でも間違えたら僕は僕じゃなくなってしまいそうです 見守っていてよ 僕の先生 あの日のように  みんなはもう覚えていないだろうけど 私はいまだに思

この世界でまた君に会いたいな

君がいないから僕は探した その面影を  流れていく色に重ねるように その思い出を  例えば生まれ変わって そっくりな君の姿が 目の前にあったとしてそれは君なんだろうか? 例えば転生して そっくりに作られた世界 でも目の前の風景 それは僕の思い出と同じなのかな?  いろんな色が混沌とした 散りばめられたこの世界で  やっぱり君に会いたいな どこにいるの? 君のいない街 坂道 街頭 そのどれもが  薄れていくように渇いていった そのどれもは  例えば生まれ変わって そっく

【短編小説】死神の森

その男 その日、いつものように森を散歩していると怪しげな格好をした男を見つけた。 その男は全身が黒一色で明らかに怪しい行動をしていた。 一生懸命大きな袋に何かを詰めているのだ。 そうして何かを大きな袋に詰め終わった男は周りに誰もいないことを確認して森の奥深くへと歩いて行った。 気になった私はその男に気づかれないようについていくことにした。 危ないことかもしれないが私は自分自身の好奇心が抑えられなかったのだ。 これを読んでいるみんなは絶対に真似しないように。 死神 今日が晴れ

そいつ

もういらない  使いもんにならんから捨てとくれ もうしらない  あんたなんか代えのきく人形や バカおっしゃい  言わんとってやったのに告げ口か だそうで  煙みたいにゆらゆらと  見下げる街はキラキラと  お楽しみはこれからで  いっそ呪ってやりてぇな ねぇ要らない?  塵にすらならん このゴミを ねぇ知らない?  墓場まで持っていくあの人形 馬鹿おっしゃい  詭弁ばっか宣うて恥知らずが だもんで  火種みたいに燃え移る  見限るなれど今更で  お陰でこっちも同じ穴 

壊れたプレイヤー

何にもなくて壊れちゃいそうだよ  子供の頃からずっと感じていた  空っぽの体に棲みつく悪魔が意地悪な言葉で僕を弱らせる  あと何回傷つけばいいんだろう?  夜の街に繰り出す僕のハートに火をつけて  ガラクタの体に棲みつく悪魔が この頃 僕に優しくしてくるんだ  大切なものってどうしてこんなに音もなく簡単に壊れてしまうの?  あの日の過ちが手招きしてる  夜の街に繰り出す僕のハートに火をつけて  壊れていく音楽に乗った僕らに火をつけて

もうここには彼女はいない

祭壇に添えた老人は粒々の涙を流し始めた 牢にいた生活のように 彼女のことを思い出しては嘆いた 帰ろう、ここにはいない 帰ろう、彼女はいない 祭壇に添えた花束に煌々と照りつける太陽の火 蝋に似た生活のせいで 彼女のことを忘れてしまっていた、と 帰ろう、ここにはいない 帰ろう、彼女はいない 見下ろした街に微笑む 洗濯物は嵩張ってカゴの外へ ドアの向こうに感じる あの温かい声で もう一度 僕の名前を呼んで 帰ろう、彼女はいない 帰ろう、ここには居ないから

彼女の月曜日

憂鬱な月曜の朝に 彼女はコーヒーを飲んだ 甘いけど苦いから 足りないのは何? 痛い期待 つまんない ここから早く出たい 大好きな存在を全部 取り上げて笑う愚弄者 彼女はもう知っていた ここに答えはない 詰まる息苦しくて ここから早く出たい そのままの私を受け止められないのなら ひとりになりたいの 放っておいて欲しいの 毎日が月曜日のよう 痛み止め 空のコップと 彼女はもう泣いていた 追い詰めたのは誰? その問いに答えはない ここから早く出たい そのままの私を受け止めら

【短編小説】その日には咲かない気持ちに水をやる。

随分前からこの気持ちに嫌気が差していた。 誰かと話していても、ひとりの時もモヤモヤとしはじめるのはどうしてなんだろうか?きっと長い間私の中に溜まってしまった結果だと思う。 「ミサキさんは少し自分の気持ちを伝えるのが苦手のようです」 そう通信簿に書かれていたのを見た母はどうしてかしらねぇ?と首を傾げていた。 私は素知らぬ顔をして絵を描き始める。 季節はまだ肌寒い春のことだった。 それからしばらくして学校で友達ができた。名前はミサトといい、私の席の後ろの子だった。名前の響きが同

カフェオレ・カフェイン中毒

いつだって飲み物はカフェオレ カフェイン中毒のあたしは今日も頑張って生きていきます どんなに身を削って稼いだとしても最後は 残っているものなんてあるのでしょうか? 粉になっていくよ コップの底に沈んでは溶けるのを待つよ いつか消えるその日まで 本日の飲み物もカフェオレ カフェイン中毒のあたしは明日の朝まで夜を生きます どうやっても解決するには時間がないけど 残っているものをなんとかしないとね 混ざり合っていくよ コップから溢れるカフェオレ どうすればいいの? あたしの涙

こっちへおいで

だから言ったの 悪いことしちゃダメよって バチ当たるって それでもいいのね? なら 全部全部 投げ捨てて こっちへおいで そのお守り 効き目なんてない 今日の占いは当たり外れ トレンドなんかで叩いてる訳 見守りの誤りでストーカーみたい だから言ったの 正義なんて復讐では元に戻らないと それでもいいのね? なら 全部全部 投げ売って こっちへおいで 一面の記事 隠し持つナイフ 裏切りの感情で精一杯 効き目なんてない お守りの中 占いは一日中 当たり外れ だから言ったの

最果てのパラレル

地球の裏側に行きたいんだ  まだ誰も知らない僕だけが知る世界に 幾日もの拷問をまた繰り返している日常から僕を救って (どうにか生きなくちゃ) 最果てでキミに会ったけれど 可哀想に感情が一切ない 言葉の残骸かき集めては口にするよ  不味くても吐き出さないでいて 誰かのせいにしたい 誰かの声にしがみつく 誰かのせいの死体 誰かの生にしがみつく   回って周って巡って行き着く先は 地球の裏側に行きたいんだ また 誰も知らないキミだけがいる世界に 幾日もの拷問をまだ繰り返してい

じいちゃん家

時計が数えてる もうすぐ眠りの夜 答え合わせして 車でさようなら  帰り道 帰る道 どこにも居場所はなくても 母も父も疲れた顔に もう諦めて 明日も明後日も私は独りを楽しむだけ 愉快だなって 笑えるねって なんだか少し寂しいみたい 空気みたいに 当たり前に なんだか愛を求めてるみたい アラームが鳴り響く 朝日の眩しさを恨めしく思って 遊びと学びから 今日の予定に終止符を打つ じいちゃんが待ってた門の向こうは帰る場所 ばあちゃんが作ってた私の大好きな唐揚げ 美味しいね

じいちゃんは言った 「生きるのに必死だった」と 私は思った 「生きる理由が見つからない」と 誰か書いた 「理由が見つかるまで生きろ」と