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トム・ヨークと車と呼吸(と壁)

トム・ヨークがthe BendsとOK Computerの時期によくモチーフにしていたものは、車(その他、人が作り出した移動手段、もっといえば工業製品)と呼吸(息が詰まる閉塞感)だと思うのでそれを確かめて、まとめてみようとした記事です。書いてたら長くなったのでとりあえずオケコンに付いての文章です。The Bendsについては最後に簡単に書きました。

OK Computer

Airbag

車編を初めますが、オケコンは一曲目から車の曲です。
エアバッグで命を救われたという歌詞が印象的な曲だなと思いました。まっすぐポジティブなことを歌う曲ではなく、車(工業製品)のせいで命を落としかけたが、その一部のエアバッグ(工業製品)に救われた人間というようなシニカルな視点の曲であることがオケコンの雰囲気を形作っていると思います。

In a fast German car
I'm amazed that I survived
An airbag saved my life

Let Down

オケコン5曲目です。車ではありませんが、輸送機関、特に飛行機がLet Downしていくこと(高度を下げていくこと)についての曲です。余談ですが、カネコアヤノのライブ終演後のSEでこれがかかってたのでそのイメージが強い曲です。

Let down and hanging around
Crushed like a bug in the ground

Karma Police

オケコン6曲目、Karma Police(業の警察)に命令して好き勝手やるのを、ちょっとだけ自我を失ったトムが想像するような歌詞で、直接車への言及はありませんが、MVが車を重要なエレメントとして使っているので選びました。業は自分に跳ね返ってくるということでしょうか。

トムヨークは睫毛が長い

Fitter Happier

オケコン7曲目、Twitterとかインスタで自己啓発してそうな奴を凝集した人間の生活(イギリス中流階級の理想とされるあり方)を機械音声が読み上げますが、最後だけ、生活についてではなく、A pig in a cage on antibiotics(檻の中で抗生物質に漬かった豚)とめちゃくちゃに言ってしまうという歌詞。抗生物質を歌詞で初めて見た気がします。失敗できない社会への怖さを感じますが、自分の有能さ?健康さ?を信じて機械音声に読み上げれられる生活の正しさを思う人もいるかもしれません。最後に車への言及部分を引用します。「忍耐強く、良き運転手。より安全な車(バックシートで微笑む赤ちゃん)」ちょっと怖い。

A patient, better driver
A safer car (baby smiling in back seat)

Lucky

オケコン11曲目です。チャリティアルバムに収録した曲とあってアルバムの中で唯一希望を感じられそうな曲ではありますが、破局寸前の状況を墜落事故に例えて、そこから引っ張ってというのは全然ラッキーじゃない気がします。車の墜落ではありませんが車編で選出しました。「墜落事故から引っ張り上げてくれ、湖から引っ張り上げて」

Pull me out of the aircrash
Pull me out of the lake

このチャリティ盤はOasis、The Stone Roses、Suede、Blur、Portishead、Massive attack、Chemical Brothersなど超豪華メンツ勢ぞろいで好きです。

The Tourist

オケコンの最後の曲。「おいおっさんスピード落とせよ、おいバカスピード落とせったら。」というのがこのアルバムの締めなんですねえ。救いがないです。

Hey man, slow down
Slow down
Idiot, slow down
Slow down

呼吸

Subterranean Homesick Alien

ここからは呼吸編です。オケコン3曲目、冒頭から朝の呼吸という歌詞が登場します。ここまでは爽やかなので、最後の「彼らはみんなuptight(神経質)だ」という歌詞との落差がすごいです。

The breath of the morning
I keep forgetting
The smell of the warm summer air

Exit Music (For a Film)

オケコン4曲目、サビで「息をして、呼吸を続けて」と歌われます。ラストでは、「私達はお前が窒息することを望んでいるんだ」と歌って終わります。
お前(you)が何を指すかはわかりませんが、人ではなく、直前の、あなたの自分ルールと知恵の言い替えかもしれません。

Breath, keep breathing

We hope that you choke

No Surprises

オケコン10曲目です。radioheadの歌詞でもトップクラスに有名かつ秀逸だと思います。この文章を書こうと思ったのも、No SurprisesとThe Bendsが好きな曲だからです。(The Bendsは曲の方。潜水病というタイトルで、飛行機という言葉や、私は生きたい、息をしたい、人類の一員でありたいというフレーズが登場する)  No Surprisesの「私は静かな生活を送らさせてもらう、一酸化炭素と握手して。脅かすものはなにもない」という歌詞がありますが、結局たどり着いた世界も逃げ出したくなるような世界。死後の世界すら絶望的に描く詞世界、救いがないです。しかしながら、これほどまでに苦しんでいるトムヨークを見て、自分は頑張ろうという気持ちになれるのは不思議です。

I’ll take a quiet life
A handshake of carbon monoxide
And no alarms and no surprises


最後に壁についてです。まだ触れてない曲二つが壁について言及する箇所があったので壁編を急遽作りました。壁というのはさまざまなな作品でなにかと重大なモチーフになりがちですが、Prananoid Androidではもし自分が王になったら(オケコンによくあるあり得ない仮定、しかもまじでなる気で歌っていて怖い)お前を最初に壁の前に立たせる(処刑するという解釈が多いっぽい)という箇所でwallというワードが出てきます。
Clibmbing Up the Wallsではタイトルからwallという言葉が出できますが、climb up the wallは狂乱状態になるという意味だそうです。

最後に

OK Computerで触れなかったのは8曲目Electioneeringのみで、それ以外は触れることができて大変満足です。Electioneeringはタイトル通り選挙についての曲です。
ちなみに、未発表であったものの、20周年記念で公開された3曲について簡単に述べておきます。
I Promiseでは、いろんなことを約束していく歌詞ですが、「もし船が難破しても、僕は自分を朽ちた甲板に括るよ。約束する。」というフレーズがあり、またしても輸送機関が登場します。どういう意味かはよく分かりませんが、ラストフレーズで「もう逃げない、約束する。」と歌うことからも、船が家族やバンドのメタファーなら意味が通りそうです。また、Ok Computerの曲で通底している、こんな社会では息ができないという、その社会自体のメタファーであるとも考えられるとすれば、トム・ヨークはその社会から逃走せず一緒に沈むことを誓う曲になります。
Man of Warでは、タイトル通り軍艦(Man of War)が登場します。
Liftでは閉塞感をエレベーターにたとえています。この曲が他の曲と違うのは、第三者が「あなたはエレベーターに閉じ込められていたの」「家に帰る時間よ」「今日があなたの残りの人生の最初の日」と救いだしてくれる点だと思います。Man of Warは置いといて、I PromiseとLiftはOk Computerにはない、誓いと救いがある曲だなと思いました。(だから収録しなかった?) 私も収録しなくて良かったと思います。また2016年の元妻レイチェルの死を踏まえると、そことリンクさせて考えてしまいがちな2曲だと思いました。

ガチガチ大名盤Ok Computerについて車、呼吸、壁というワードを中心に見てきましたが、改めてレディオヘッドの歌詞の凄さを感じました。これ以降の作品ではより歌詞が抽象的に切り替わっていくので、オケコンはこれまでの詞世界の総括としても重要だと思います。書いてる途中で思ったんですが、車とか壁って村上春樹みたいですね。最初はthe Bendsについても書こうと思ってたんですが長くなってしまったので簡単に書きます。the Bends(潜水病、特に筋肉、関節に痛みを伴うもの)については先述の通りで、トムヨークっぽい歌詞を象徴する曲だと思います。My Iron Lung(私の鉄の肺)は比喩でもなんでもなく、ほんとうにある人工呼吸器の名称で、超巨大な装置に人がすっぽり入って呼吸できるようにしたものです。調べてもらったら分かるんですが、鉄の肺はデカすぎて行動が制限されるので、生きてはいるけれどがんじがらめな状況の比喩なのかなと思います。「生命維持装置、私の鉄の肺からの酸素不足」という歌詞の通りです。Creepに命を繋がれてるバンドが、これが新曲だ。前のと似てるだろって吐き捨てる感じが好きです。
また、High and Dry は比喩ですがmotorcycle という言葉が出てきますし、Sulkには壁への言及があります。(The Bends編終わり)

最後まで読んでくださってありがとうございました。それではまた。

まとめるとこんな感じ

噛めば噛むほど苦しいOk Computer

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