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数学を学ぶ意義について考えてみた話

※この記事は約3000文字です。約6分で読めます。
※10年以上前に数学科を卒業した(学部卒)レベルの人間が書いています。
※完全に個人的かつ薄い見識の中での内容である事をご了承下さい。

1.数学を学ぶ意義について考えた経緯

2020年4月3日、望月新一教授の宇宙際タイヒミュラー(以下IUTと記載)理論が、2月5日付で専門誌に受理されたというニュースを小耳に挟みました。IUT理論は、「ABC予想」の証明を含んだ斬新な内容との事。

a+b=c
を満たす、互いに素な自然数の組 (a, b, c) に対し、積 abc の互いに異因数の積を d と表す。このとき、任意の ε > 0 に対して、
c>d(1+ε)※(1+ε)は乗数
を満たす組 (a, b, c) は高々有限個しか存在しないであろうか?
(Wikipediaより抜粋)

ABC予想は勿論数学科出身であれば知っている訳で、気になっていた所、知り合いがSNSで勧めていた以下の書籍を読みました。

こちら、非常に興味深い内容となっており、細かい説明を論じているものでは無いですが、群論などを一般人でも分かる様に平易に説明し、ABC予想とIUT理論を身近に感じれる様に説明されています。何よりも数学の面白さや普通は馴染みの無いであろう数学家の一面を(望月氏を例に取りながら)垣間見れるのはとても面白いと感じました。筆者の文章力もあり、非常に読み易く、スッと入ってくると思うので、これを読み、一人でも数学に興味を持ってくれる方が増えてくれると嬉しいなと感じた一冊でした。

やっぱり数学っていいなぁ、と思っていた矢先、ふとした会話から妻や子供から「数学なんて勉強する意味ある?別に分からなくても生活で困らんし」と言われる始末。数学は学問の女王 哲学は学問の王とまで言われているのに。。

そんな事を言われて困っている親御さん、数学を学ぶ意味が理解出来ず勉強へのモチベーションが上がらない方のご参考になれば幸いと思い、書いています。

2.数学は本当に学ぶ意味が無いのか

「数学なんて勉強する意味ある?別に分からなくても生活で困らんし」
この根拠としてあるのは、凡そ以下だと思います。

・四則演算さえ出来れば実生活では困らない
・複雑な計算は電卓があれば事足りる
・因数分解や展開、微積分なんて実生活で1ミリも出て来ない

確かに国語や歴史、英語に比べれば実生活で利用場面は表面上出て来ません。しかし、数学ほど、ビジネス分野や実生活での知恵を磨く為に有用な科目は無いと思っています。ただそれが理解されづらいのは、どうしても数学(多くの人が最後に関わるであろう中学高校レベル)が単純なドリル科目として認識されてしまっている為だと思います。

3.数学を学ぶ意義

私が数学を学ぶ事で得られる力や知恵は主に以下だと考えています。

「具体」と「抽象」を行き来する力を養う
・公式という抽象的なものを運用し、実際の問題という具体的な事象を解く

限られた誌面で上手く説明する文章力が無いのですが伝わりますでしょうか。実生活でも個々に経験した事象を抽象化し、次に起こった事象に対し適用する場面は多いと思います。数学で面白いのはそれをある程度意識しながらで無いと問題を解くのが単純なドリルと化してしまい、この部分が見えて来ない事です。また、例として予備校時代の先生が、「医学部では数学はほぼ必須になっている。国立医学部などの2次試験で理科はなくても数学は殆どある。それは医学で学ぶ理論を個々の患者に適用する力を見ているからだ。」と仰っていた事があります。真偽は不明ですが、確かにこれは専門知識はこれから教えるから論理的思考や理論を事象に適用する頭は持って置いてねと言う事で、なるほどと思った事を覚えています。

問題の構造を理解する
・試験問題とは手がかりと雑音を組み合わせたものである
・試験問題の前半部で具体的な計算を行い、後半部で抽象化した理論を導く

試験問題とは暗記系では別ですが、一般に非暗記系であれば、解く為の手がかりをそれを見えない様にする事で受験者を選別する構造を持っています。これは数学も同じで文意を正しく理解し、結論に向かう為に具体的な例を計算しながら(手がかり)最終的に抽象化された理論を導く(過程でトラップなどの雑音が発生する)形をとる事が多いです。ここで必要な力としては、意味ある問いを考える、この問題は何を問いているのか(代数?解析?幾何?など)を見抜く、観察する力です。これも実生活で必要になるケースは多いのでは無いでしょうか。何かの案件を進める際、多くの情報やバイアスに囚われず、情報を整理し本質を見抜く必要が出るケースは多いと思います。

イノベーションが起きる仕組みを垣間見れる
・イノベーションとは既知と既知を結びつけ、新たな分野を開拓する事
・イノベーションとは何かの課題解決を図る上で生まれるもの

フェルマーの最終定理をご存知でしょうか。

3 以上の自然数 n について、x(n) + y(n) = z(n) となる自然数の組 (x, y, z) は存在しない※nは乗数
(Wikipediaより抜粋)

フェルマーの最終定理は1990年、ケン・リベットにより「谷山志村予想」という別の予想に帰着されました。「谷山志村予想」とは、「楕円曲線」と「保型形式」とがうまく対応する、という予想なのですが、楕円曲線は 代数的/幾何的であり、保型形式は解析的なアプローチで分野が異なるものです。
IUT理論とABC予想の関係も馴染みの深い世界(掛け算足し算の世界)から脱却する為に作られた理論の過程で解決された問題です。
この様に、異なる二つの対象や分野の間を繋ぐ事は数学の分野でもイノベーションを起こす事が多いです。
これはビジネスの世界でも同様で、昨今話題の両利きの経営学において「深化と探索でイノベーションを起こす」という事を表現していると感じています。
また、私が所属するITの世界でもコンウェイの法則と言う有名な法則があり、これはソフトウェア自体の構造とソフトウェアを作り上げる組織の構造が似てしまうと言う理論です。深化を求めるとそれに適した組織構造になってしまい、イノベーションに必要な探索を行えなくなると言う側面を表しているのですが、この辺りを潜在的に理解していたのか、フィールズ賞(数学界のノーベル賞)が40歳以下と言う制約がある事も興味深いと思います。

4.まとめ

最後に、私が好きな数学者の名言をご紹介し結びとします。

音楽は感覚の数学であり、数学は理性の音楽である。
シルベスター(1814~1897)

皆様も興味があれば、その時が勉強するタイミングだと思いますので、是非数学の世界に足を踏み入れてみては如何でしょうか。例えばブルーバックスの本は初心者にも分かり易く、数学の世界を垣間見れる名著が数多くあります。もし、数学に興味を抱いたり、お子さんに本blogの内容を伝えてみようと思って下さる方がいらっしゃれば幸いです。

ここまで読んで頂き、有難う御座いました!

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