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イタリア国内のチーズテイスター資格、ONAF Livello 1の記録

イタリアからBuon Natale。滞在記録が全然更新できていないのが日々の悩みの種の城です。今回は先日試験を通過したばっかりのONAFチーズテイスターコースの体験記録をまとめたいと思います。

ONAF とは Organizzazione Nazionale Assaggiatori Formaggi の略称で、ホームページには以下のように記載されています。

L'ONAF, Organizzazione Nazionale degli Assaggiatori di Formaggio, è nata a Cuneo nel 1989 proponendo, prima in Italia, l'utilizzo della tecnica dell'assaggio quale strumento di promozione dei formaggi di qualità tra un pubblico sempre più ampio e preparato.
L'attività dell'ONAF è imperniata innanzitutto sulla realizzazione di corsi per assaggiatori e maestri assaggiatori che dal 1991 si tengono con lo scopo di promuovere, diffondere, ampliare e valorizzare la cultura del formaggio e delle produzioni lattiero-casearie alla luce delle metodologie di assaggio più avanzate e della considerazione del prodotto caseario come espressione della tradizione e della realtà del proprio territorio.

https://www.onaf.it/index.php?c=index&pageID=3

ざっくり訳すと

「全国チーズテイスター組織である ONAF は 1989 年にクーネオ(注:ピエモンテ州)で設立され、イタリアで初めて、ますます多くの知識豊富な国民の間で高品質のチーズを宣伝するためのツールとしてテイスティング技術の使用を提案しました。
ONAF の活動は主に、チーズテイスターとマスターチーズテイスターのためのコースの作成が中心を置いています。このコースは最先端のテイスティング手法と、その地域の伝統と現実の表現としての乳製品の考慮を踏まえながら、チーズと乳製品の文化を促進、普及、拡大、強化することを目的として1991年から開催されています。」

といった感じ。1989年というと僕の生まれた歳よりも後なのでワインソムリエなどと比べると比較的新しい組織・コースということがわかります。

ここでの注意ポイントの一つは「ONAF(オナフ)」ではなく「L'ONAF」と定冠詞が付いていること。日本人感覚で「オナフ」と話すと通じないことがままあるので注意です(経験談)

イタリアのワインソムリエ資格と言えばAIS(より歴史が古い)ですが、チーズテイスターの資格は他にないはず。最近知ったのものではSalumi, 熟成肉のテイスターコースで"ONAS"というのもあるそうです。

このONAF、イタリア全土で年に3,4回ほど開催されているのですが、どのレベルがいつ開催されるかが明示されていない。海外あるあるですがホームページを何度もチェックしながら滞在地域と睨めっこする日々を一年以上送りました。

AISのワインソムリエではLivello 1, Livello 2, Livello 3の3段階がありましたが、ONAFの場合はLivello 1, Livello 2の2種類だけ。ただし、Livello 2のコースを受講するにはLivello 1の講義に7,8割出席し、試験を通過し、その後ワークショップ(的なもの)を4回受ける必要があります。

Livello 1, Livello 2ともに隔週講義が全10回あり、それぞれの講義で3種類のチーズを味見できます。受講申込みをした際に各講義で配布されるチーズの名前がずらっと並んだPDFを受け取り「イタリア全国の美味しいチーズが味見できる!」と歓喜していたのですが、実際に配られたチーズはほとんど別物でした笑 どうなってんのイタリア。

"I tipi di formaggio in assaggio potrebbero variare in funzione della reperibilita degli stessi" 味見するチーズは入荷状況によって変わります、って下にちっこく書いてあった。

チーズテイスターなんだからイタリア全土のDOPチーズ知らなきゃいけないよね。きっとここにあるチーズもほとんどがDOPのはず。しっかり予習して全部覚えるぞ!」と期待に胸を膨らませた僕を待っていた初めての講義は時間超過→終電により、味見のお話をほとんど聞けずに帰るという悲しみに終わりました。味見で出てきたチーズも全然違った。

とまあ積もる話もありますが、ONAFのコースを受講するにあたって困ったことがたくさんあって、たとえば

  • 受講料はいくら?どうやって振り込むの?

  • イタリア語のレベルは?

  • どんな人が受講しているの?

  • 試験内容は?

など、など。

イタリア来て1年そこらでイタリア人しかいないクラスで一つのことをやり遂げるってまあまあ大変で(でもよく考えると音楽留学などで来ている方々はここを乗り越えてるんですよね。すごい。語学を事前に勉強しているんだろうけど)、特に授業内容や試験内容が不透明。インターネットにはこの手の情報がほとんど見つからず、断片的なものしかありません。イタリア語ならワンチャンあるかもだけど、海外ってこういうノウハウ記事少ない印象です。

ということで経験談をまとめてみます。誰かの助けになりますように!

はじめに

  • 受講料はいくら?どうやって振り込むの? →Livello 1は350€。郵便振込(Poste)、銀行振込などが利用できます

  • イタリア語のレベルは? →僕のイタリア語は受講当初はA2、試験後はB1でした。あくまで語学学校の物差しなので、会話だけに絞れば実際はB1-B2近辺かな

  • どんな人が受講しているの? →老若男女。ただし飲食業関係者は少なめ。年齢を問わないチーズ愛好家。ワインソムリエやオリーブオイルソムリエの人は少ない印象

  • 試験内容は? →記事の後半で!

気になる講義内容ですが、全10回の内訳は以下のようになっています。

PRIMO LEZIONE - Metodica di assaggio dei formaggi
レッスン 1 - チーズのテイスティング方法
SECONDO LEZIONE - Metodica di assaggio dei formaggi
レッスン 2 - チーズのテイスティング方法
TERZO LEZIONE - Il latte: aspetti chimici e merceologici 
レッスン 3 - 乳: 化学的側面と商品
QUARTA LEZIONE - Microbiologia del latte 
レッスン 4 - 乳における微生物学
QUINTA LEZIONE - Cenni di tecnologia casearia
レッスン 5 - 乳製品技術のヒント
SESTA LEZIONE - Formaggi a pasta molle, Formaggi caprini
レッスン 6 - ソフトチーズと山羊のチーズ
SETTIMA LEZIONE - I formaggi a pasta semidura e dura, formaggi pecorini
レッスン 7 - セミハードチーズ、ハードチーズと羊のチーズ
OTTAVA LEZIONE - I Formaggi a pasta filata
レッスン 8 - パスタフィラータ
NONA LEZIONE - Cultura e normativa casearia
レッスン 9 - チーズの文化と乳製品の規制
DECIMA LEZIONE - Utilizzazione e abbinamenti dei formaggi
レッスン 10 - チーズの使用と合わせ方

この文章を読んでいる方は多少なりともチーズの味わい方に興味がある方のはずなのでレッスン1,2はいいとして、その後が問題。化学や微生物学、八木・羊、はたまた「パスタフィラータ」などといった用語が出てきます。

イタリアに来ているからには羊のチーズ pecorino、山羊のチーズ caprinoには多少なりとも縁があるはずなのでこれもいいでしょう。

レッスン9の規制についてはまあこの手のコースでは避けては通れない内容。法律のことをちょっとは知っておかないといけません。レッスン10のabbinamentoは料理好き、ワイン好きの僕としては願ってもない内容。

といった感じで、高等教育だけでは網羅できない内容がままあります。これが日本語なら大した問題ではないのですが、授業も教科書もテイスティングも全部イタリア語。これが厄介です。

僕は授業にすべて出席し、予習は欠かさず、復習はほどほどに。試験前の1,2週間で総復習してわからないことを整理してようやく理解できました。pasta filataなどは日常でもあまり使わない言葉なので、テイスティング用語はもちろん、こういったチーズにおける知識を日本語でもいいからなんとなく掴んでおくと理解が深まると思います。

以下は各講義を簡単にさらっていきます。

クラスの雰囲気。

PRIMO LEZIONE - Metodica di assaggio dei formaggi

味覚、聴覚、嗅覚などとチーズの関係性を学んでいきます。

最初の講義で教科書とテイスティングシート、それに青いカバンがもらえます。肩がけ鞄なので自転車通いにはちょっと不便。でもいい鞄です。
教科書はこんな感じ。厚みは薄いから日本語に訳すともっと薄くなるはず。読み込んでみると各章で重複している箇所も多い。
この手の小難しいスライドがたくさん出てきて、
日本の高等教育における化学IIを超えて大学レベルの内容だと思うけれど、試験では一切出なかった。というか教科書にもここまで深くは記載されていない。
この日の味見はPrimosale, Stracchino, Toma Piemontese.
スプーンは付く時と付かない時がある。紙ナプキン、500mlのお水、コップも配られる。お水は持ち帰ってお部屋に飾ってある。

SECONDO LEZIONE - Metodica di assaggio dei formaggi

前回に引き続き小難しい話が続く。試験には簡単なところしか出題されなかったけれどなぜか教科書にも記載されていない内容が講義では長々話されていた。
Nostrale, Montosio D.O.P., Pecorino Lucano
イタリア語を聴きながらテイスティングシートを必死にまとめる。一応録音は取っておいたけどイタリア在住経験が短い人には形容詞は結構きつい。僕はワインソムリエの過程である程度知っていたから乗り越えられたけれど初見なら無理。

TERZO LEZIONE - Il latte: aspetti chimici e merceologici 

乳について。試験でもちょっとしか触れられていなかったけれどだからといって大事でない訳じゃない。各動物の乳がどのような特徴があるのか、それがどんなチーズ作りに直結するのかを理解する上でここは超大事な部分。

やっとまともな内容になってきました。1、2回目のレッスンの先生はどちらも時間を超過して講義を行なって。みんな近隣に住んでいるから良かったけれど僕だけ遠方から来ていたので最後まで聴けなくて毎週泣きそうだった。「この日の先生は大丈夫だよ」とスタッフから聞いていたのだけど、内容はとても面白かったけど時間はやっぱり超過しました。
牛、羊、山羊、水牛で乳に含まれる物質が少しずつ異なる。それがチーズ作りにも関係する。
Caprino Fresco, Asiago Fresco D.O.P., Caciotta di pienza. 

QUARTA LEZIONE - Microbiologia del latte 

微生物学。ワインもそうですが発酵が絡むものは微生物について知らなければいけません。ブルーチーズで知られるように菌にはいわゆる(チーズにとって)良い菌と(チーズにとって)悪い菌がいるので、そういったことを学びます。教科書には難しい用語がたくさん並んでいるけれどそんな深くは聞かれませんでした。

3回目と4回目は同じ先生だったのだけど、同じとわかった瞬間に「また時間通りに終わらない…」と深く悲しみに暮れました。やっぱり終わらなかった。
間違った熟成
言語が流暢でないから写真はマジでありがたい。
Trattino / Caciotta, Emmentaler D.O.P., Gorgonzola Piccante D.O.P.
講義はいつも途中で帰ってて。「後で正しいテイスティングシートを送るよ」というスタッフの言葉を毎週待っていたのだけど1ヶ月くらい届かなかった。家に持って帰ったチーズは冷蔵庫の中でカビが生えてしまって、それも悲しみに拍車をかけた。

QUINTA LEZIONE - Cenni di tecnologia casearia

ソフトチーズ、ハードチーズの作り方がどのように変わるのかを学ぶ。章としては軽い内容だと当時は感じたけれど、この後の章ではここをベースに進むので、復習時に大事だなと感じた。温度による違いなどが出てくるんだけど、数字を覚えるというより実際のチーズと組み合わせて整理していくといい気がする。

チーズ製造の工程のフローチャートをよく見るようになる。地域や動物が違っても大まかな流れは同じで、温度や加えるものが少しずつ変わるだけ。一度チーズ作りを見学するとここら辺が整理しやすい。
第5回目くらいから時間通りに終わるようになった。4回もクレーム入れたからだと思うけれどあまりに時間通りに終わらなくてほんとびっくりしてる。
Robbiola pura capra, Racontadina, Fontina D.O.P. (Fontal)
ワインソムリエの勉強もそうだったけど、先輩チーズテイスターの感性と自分の感性の違いを認識することがテイスティングで重要だと僕は考えてて。講師も人により違うところがあったり、そもそも言い忘れたりしている。そういったテイスティングを何回も繰り返しながら平均的な技術を覚えるのが大事な気がする。だから最後まで講義を聴けてこの日はうれしみでした。

SESTA LEZIONE - Formaggi a pasta molle, Formaggi caprini

ここからチーズ種別の講義になります。

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不定期連載。実験的に始めます。買い切り。

イタリア滞在期(2022.10~)を連載中です。イタリア料理、ナチュラルワイン、日々のこと。エッセィ。

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