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アイルランド文学から深めちゃお!アイルランドの音楽・ダンス文化の変遷 #土曜夜にアイルランドを語る

みなさんこんばんは。
ボタンアコーディオンを弾いています、アイルランドにフォーリンラブ(?)木村穂波です。(Twitterはこちら

さて、4月4日(土)から始まった連載「#土曜夜にアイルランドを語る」も、とうとう4回目になりました!
まず私の記事の前に、前の掲載を振り返ろう!

4日:たわらさん
アイルランドの物語を読もう!〜クーリーでの思い出〜

11日:アイアイさん
YouTubeで129時間融かした僕が考えるアイルランド音楽のリズム

18日:城拓さん
今こそはじめる、シャンノース【コネマラステップ編】

わたくし実は、持ちネタが沢山あります。(笑)ちょこっと自己紹介をすると

・ボタンアコーディオン弾き。音楽大好き。ダンス(セットダンス)も好き。
・2018-2019年でアイルランドの首都ダブリンに留学。ダブリン市立大学で、アイルランドの文化(復興と継承)や歴史、政治問題を学び、フィールドワーク。
・↑勉強してたよアピールしつつ、ほんとは音楽にもダンスにも、どっぷり。
・専攻は北アイルランド紛争と北アイルランド問題、マイノリティ研究、文化復興など。(ずるずる未だに大学にいます)

(留学先のDublin City University、通称DCU。一応勉強もしていたので、証拠として(?)誰も得しないけど載せておきます。)

という訳で、いろんな角度からアイルランドが好きです。

* * *

今回、ずっと「何を書こうかな…?」と思っていたのですが、神話×旅日記、音楽、ダンス…とテーマが続いたので、
そことは被らず、かつ、みなさんにとって馴染みが薄そうな、アイルランド文学について触れたいと思います。

うん。すごく、馴染み薄そう。だよね。

有名なのは、James JoyceOscar WildeW. B. YeatsSamuel Beckettといったところでしょうか。(読んでみたことはありますか??)

…今、「このnote閉じよ…文学なんて興味ないや…」って、思ったでしょ!!!!!

最後までぜひ読んでくださいっ
なかなか一歩踏み出せない世界を、ちらっと覗いてみましょう!

* * *

アイルランドは昔から、隣国イギリスの大きな影響力によって歴史が左右されてきた国です。

16世紀から実質的な支配下におかれ、政治や経済がイギリスに握られただけでなく、言葉、宗教、音楽、ダンス、スポーツ、あらゆるアイルランド人固有の文化が弾圧の対象となりました。

自分たちの帰属意識・アイデンティティに強く関わる、そういった固有の文化は、中には消滅してしまったものも多くあります。

しかし、歴史の荒波を乗り越え、沢山の文化人や芸術家、資本家らによって維持され続けたものや、復興を遂げたものも、数多くあります。

(イギリスの正式名称は、“グレートブリテン及び北アイルランド連合王国”。これは、アイルランド島北部の北アイルランドの中心都市、Belfastの市庁舎です。正面の女性像はもちろんエリザベス女王。街のあらゆる場所でイギリスの影響が色濃く見える、そんなエリアです。)

私たちが大好きな音楽もダンスも、ここ10年20年でぱっとできたものではなく、
時と共に様々な変化を遂げながら、力強く人々に継承されてきた、アイルランドの伝統文化です。

そして、私たちが好きな伝統音楽・ダンスは、
それ単体ではなく、様々な要因が影響しあいながら、多様に変化をしてきたものであり、
今後もどんどんと変化していくでしょう。

昔はどういう風に愛されてきたのだろうか。
昔はどんな人々によって楽しまれていたのだろうか。

そんな、かつての姿に想像を膨らませ、想いを寄せる一つの手段が、アイルランドの文学からのアプローチ!で!あります!!!(ででん!)

(Dublin南部にある小さい山The Great Sugarloafからの眺め。きっとこの風景、何百年前も変わらなかったんだろな。)

*Celtic Revival
さまざまに文化は浮き沈みをしていましたが、有名なのは19世紀末から20世紀初頭にかけて、「Celtic Twilight」「Celtic Revival」と名付けられた文化復興ブームです。

19世紀初めに深刻な飢饉を経験し(じゃがいも飢饉)死者と他国へ渡る移民を大量排出した結果、アイルランドの政治・経済・文化すべてが疲弊しきってしまいました。

そんな現状に危機感を抱いた文化人たちは、アイルランド固有の文化を呼び覚まし、人々にアイデンティティ感覚や自国への自尊心を高めようと、復興運動を盛り上げます。

このCeltic Twilightでは、文学が特に盛り上がりを見せました。
この復興運動のリーダーとも言えるあの有名なYeats(イェイツ)は中世のアイルランド語(ゲール語)文学をもとに詩や劇を作り、人々に伝えていきました。
アイルランド語自体の復興も進み、話者数の増加もこの時代に見られました。

今回は、その復興を支えたうちの1人、Liam O'Flaherty (1896~1984年) を取り上げようと思います。
セーターで有名なアラン諸島出身で、シンプルで読みやすい小説と短編集を多く残しました。

中でも、田舎での人々の暮らしを描いた作品は、それこそ、アイルランドが経験した飢饉や移民排出などの大きな歴史の流れの下で、人々の生活の様子や変化の情景を、垣間見ることができます。

*ちなみに
面白いのは、この文化復興ムーブメントで活躍した文化人の多くが、海外留学や海外滞在の経験があるということです。
Liam O’Flahertyも、フランスやロシアの文学を学び、またアメリカへの在住などを経験しています。

また、“イギリス帝国”の兵の一因として、彼を含め多くの“アイルランド人”が第一次世界大戦に参加したという経験も、この復興運動の後押しになっていたに違いありません。

(私は海外渡航が好きなのですが、外国に行く度に日本食と日本の食文化のすばらしさを実感しています。笑
だから、異文化に触れるからこそ自己アイデンティティを再認識する感覚、とてもよく分かります。
アイルランド留学中も、日本食が食べたくて食べたくて震えていました。なんてね。笑)

(食べたくて震えすぎて買ったSushi Bento(スシベントー)と簡易みそ汁と緑茶。全然おいしくなかったです。なんなんだこの米は!!なんだこの中身は!!お醤油ケース可愛いから許すけど!!笑)

Liamの本、日本語訳の出版がされていないからこそ、ここでちらりと紹介しますネ。

(※04/30追記
読者の方からご指摘いただき、日本語でも読める本が見つかりました!下記で紹介します♪

まず物語の概要を説明し、
次に音楽やダンスが出てくる文をちらりと日本語訳しながら紹介していきます。
最後に、他のおすすめ本を紹介して、閉めようと思います。

note閉じないでね。ここからが面白いからね。

【Going to Exile:Liam O’Flaherty】

この短編集の中にある、短い作品です。
The Short Stories of Liam O'Flaherty(初版おそらく1956)

(※04/30追記
日本語でも手ることが、読者の方からの指摘で明らかになりました…!なんと!読むしか!)

【概要】

アイルランド西部にあるConnemaraという街に住む兄弟メアリー(19歳)とマイケル(21歳)は、農家の8人兄弟の長男と長女。
経済的豊かさを求め、アメリカへ移住をすることになっていました。
その旅立ちの日の前夜に行われた、地域住民や親戚との送別パーティー、そして家族との永遠の別れを、情景と感情変化を丁寧に描写しているお話です。
特にこの作品においては、アイルランドに「残される人々」である兄弟の両親(父母)からの視点が協調されています。

(19世紀ごろの他国への移住は、現代とは違い、家族と故郷・祖国との永遠の別れを意味していました。戻ることを前提とはしておらず、他国へ“永住“するとの決意で多くの人々が海を渡りました。)

家で行われた送別パーティーでは、豪華な食事やお酒を囲みながら、寂しさをかき消すように、踊り、笑い、歌い、励ましました。
なんとここで、人々はボタンアコーディオンの伴奏に合わせて(!!)Jigというリズムの(!!)セットダンスを(!!)踊っています。(え、ホームケーリーってやつ???きゃー!!!)
また、Walls of Limerick(!!)というケーリーダンスを(!!)踊るシーンもあります。

(やばい、震える。(オタク調))

淋しさを埋めるために空騒ぎした夜は過ぎ、パーティーに参加した人々が家に帰ると、メアリーとマイケルの父親、母親は、それぞれが、
2人が過ぎ去った後の家を想像してみたり、
2人が異国で経験するような労働における苦悩を心配したり、
恋愛において2人が経験するであろうドラマを妄想してみたり、
または、メアリーとマイケルの若々しい姿と自分自身が若かった過去を重ねることで嫉妬に駆られたり…
様々な感情の変化を経ながら、二人との別れの朝を迎えます。

別れの朝は、少し奇妙。
普段は貧しいから我慢したり分け合ったりする食事を、メアリーとマイケルにたんと食べさせたり、
心の中ではとっても心配しているのに、強がってなんとなくぶっきらぼうな態度で接してしまったり…
そんな両親の姿を描きながら、「普段通り」に接しているつもりでも「普段とは少し違う」ことで、別れが現実であるという悲しさを、丁寧に描写し、この物語は終わります。

(Dublinからもっと南に進むと、Wicklowという自然豊かな地域があります。その山々をハイキングするのが好きでした。)

【物語ちらり紹介】

みなさん。

写真だけじゃなくて、ちゃんと概要読みましたよね??
途中も読みました???
ジグとかケーリーダンスとかアコーディオンとか出てきましたよね?!??!?!

萌えるぅ。(オタク調)

*物語の始めのシーン

…On the cement floor of dust, three couples were dancing a jig and raising a quantity of dust, which was, however, soon sucked up and chimney by the huge turf fire that blazed on the hearth. …

「3つのカップルがジグ(というリズム)のダンスを踊りながら床のホコリを巻き上げてる」

そのあとには煙突など暖炉について触れ、送別会のためにイスを移動させて広いフロアを確保してある、など家の中の描写が続きます

…The only clear space in the kitchen was the corner to the left of the fireplace, where Pat Mullaney sat on a knee, a spotted red handkerchief on his head that reeked with perspiration, and his red face contorting as he played a tattered old accordion.

「彼の頭は汗ばんで悪臭がしていて、彼の赤い顔もまた、ぼろぼろのアコーディオンを弾いているからか歪んでいた」
(ちょっと生理的にやだな…笑)

…The opposite door was open and over the heads of the small boys that crowded in it and outside it, peering in at the dancing couples in the kitchen, a starry June sky was visible and, beneath the sky, shadowy grey crags and misty, whitish fields lay motionless, still, and sombre.

「小さい男の子たちが(中略)キッチンで踊っているカップルたちを見ていた」

(Foxfordの古いパブにて。ここのパブ、セッションルームは店内にはなく、ひみつの扉の存在を知らないとここには入れない。まさに、知る人ぞ知る地元セッション。)

踊りながらホコリ巻き上げるとか、私たちと一緒じゃん!w
近づきたくないボロボロのアコーディオンおじちゃんとか、めっちゃいるよね!w

というか、昔はやっぱりお家で、地域の住民によって、踊られていたんですね…

全体的に、Connemaraの大自然が思い浮かぶような、そして古い農家のお家の様子が目の前に見えるような、素朴で丁寧な描写が素晴らしいです。

(ただ、描写が丁寧過ぎて、中間部の両親の感情変化に関しては細かすぎて長ったらしくて物語が全然前に進まくて、私はイライラしました。笑)

* * *

これ以上英語を載せると嫌われそうなので、これくらいにしますが、
読み進めれば、人々がよなよな音楽に合わせてWalls of Limerick(ケーリーダンス)を踊るシーンも出てきます。

全く同じように、ではないけれど、
私たちがこの21世紀の今、愛してやまないアイルランドの音楽やダンスは、
約200年前にも人々に愛されていたということ。

そして、見えてくるのは、
貧しさから大量の移民を排出したアイルランドの姿や、そんな歴史に翻弄されながらも、自分たち独自の文化を愛し、守ろうとしていた人々の姿。

ずっとずっと、続いてきたんですね。

そしてこの先も、様々に変化しながら、ずっと続いていくんでしょうね~…。

(ちらっとしか紹介されてないから、全然見えてこないよ!って人は、ぜひ作品をじっくり読んでみてね。)

(Mountshannonという小さな村にて。昔の農家の倉庫=Store Houseを改装して、ちいさなライブができる場所になっていた可愛い建物。)

【その他のおすすめ】

特にCeltic TwilightCeltic Revival)の時代に書かれた作品には、作中にダンスや音楽のシーンが沢山出てきて、とっても面白いし、ワクワクします。

自分が弾いてる曲、300年前にも、もっと前にも、人々に演奏されてたのかなぁ、なんて思いを馳せると、胸がきゅんとなります。

が、あんまり日本語訳で手に入るものがない。
ない!!

ので、日本語で読めるもので、昔のアイルランドをよく描いているなぁと思う2作品を紹介します。

*The Dead:James Joyce

短編物語。映画化されたりもして、かなり有名です。
James JoyceはLiam O’Flahertyのような人々の暮らしやアイルランド文化の描写は少ないですが、面白いのが、フランスから渡ってきたQuadrilleというダンスを踊っていることです。
19世紀ごろのフランス文化は、ヨーロッパ中に大きな影響力を持っていました。(政治よりもよっぽど…と言われています。)人々は、フランス人のファッションや食や文学などの優雅なライフスタイルのたしなみ方を、模倣したがりました。
そしてその文化習熟度が、その人ないしその家族の社会的地位の高さを表す一種のポイントとも言えました。

セットダンスの中に、Fermanagh Quadrille SetというようなQuadrilleと名前が入ったセットがありますが、きっとこれは(あくまでも推測です)フレンチスタイルのダンスを取り入れたものなのではないでしょうか…(詳しい人いらっしゃいますか?)

フランス文化の存在が、アイルランドの社会や文化に大きく影響を残した、その足跡が見えて面白い。
アイルランドだって、アイルランドだけでずっと続いてきたわけではなくて、周辺各国の影響を受けて、今につながっているんだなぁ…

日本語訳でも手に入ります!短編集「ダブリン市民:ジェームズ・ジョイス」の最後の15作品目。

*Ulysses:James Joyce

日本語で出てるのが少ないから、James Joyce続きになっちゃったんですが…
20世紀初頭のダブリンが舞台。冴えない広告取りであるレオポルド・ブルームを中心に、ダブリンのとある一日を、ぶわわわっと描いた作品。(情景描写多め)

当時のダブリンの街なみや人々の様子が事細かに(事細かに!)描かれていて、面白いです。
20世紀初頭と言えば、まさにCeltic Twilightが起こっていた時代。
Joyceはその復興運動の中心人物でしたが、彼はいろいろな「アイルランドらしさ」を言語化し、人々のアイデンティティを扇動していきます。そんな、政治・文化・経済が大きく変化した時代に生きた人々の様子を垣間見れる作品。

英語が読める方は

*Guests of the Nation:Franc O’Coonor

独立戦争(1919年~1921年)中に、アイルランド共和軍によって捕虜になった2人のイギリス人の処刑を描いた物語です。
作中にWalls of Limerick、Waves of Tory、Siege of Ennisといった3つのダンスを踊っているシーンを見ることができます。

(KinvaaraのPubにて。お酒を飲む人もいれば紅茶を飲んでいる人もいますね。お酒も紅茶、そしてそれを囲んだ交流も、アイルランド人にとって、とても大切な文化の一つです。)

【まとめ】

何度も何度も話していますが…

私が大好きな音楽やダンスは、ここ10年20年でぱっとできたものではなく、
時と共に様々な変化を遂げながら、力強く人々に継承されてきたアイルランドの伝統文化
なんだな、ということ。

そして、そういった伝統音楽・ダンスは、
それ単体ではなく、様々な要因が影響しあいながら、多様に変化をしてきたものであり、
今後もどんどんと変化していくもの
だということ。

そんなことを体感できる一つの手段として、今回はアイルランドの文学(特に20世紀初頭)についてお話しさせていただきました。
長くなっちゃったね。

ぜひ、みなさんもいろんな角度から、アイルランドを深めてみて、そして私に教えてください!

* * *

来週はみぞやすさんによる「終わりなき旅。音源を通じた音楽との出会い方、探し方」です。自分が好きな音、瞬間をどのように探し、出会ってきたか。その経験をまとめてくださいます。

「これからアイルランド音楽を聴き始めたい」という方にぴったりな内容かも? おたのしみにっ!

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※タイトル部に使用した写真
"New Year's Eve in Ireland," The Graphic (London), 15 Jan. 1870

Grazie per leggere. Ci vediamo. 読んでくれてありがとう。また会おう!