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東欧グルーヴ 通信(2)

東欧グルーヴ通信、第2弾です。今回はユーゴスラヴィアも多めです。自著に書いた通り、ユーゴは東欧グルーヴに含めていないのですが、しばらくはこちらに載せていこうと思います。ユーゴの作品は、YU FUNKとしてディスクガイドを作りたいですね…。そんなわけで今回も10枚ほど紹介します。

1)V.A.『Pesme Titu』

(セルビア、77年 PGP RTB:LP 5315)

12''

タイトルは『チトーへの歌』。プロパガンダ番組のサントラのようだ。「蜂起」「戦いへの呼びかけ」「中央政府」と魅力的な曲名が並び、どれもここでしか聴けない楽曲である。しかも作曲はIndexiやKorni Grupaの参加でも知られる最重要鍵盤奏者Kornelije Kovačだから必聴だ。中でもOliver Dragojevićが歌うA-6「チトー1世、最初のプロレタリアート」は鋭いリフを持つロックの名曲。語り掛けも入った「同志チトー、あなたに誓います」でアルバムはフィナーレとなる。1stプレスは1,000枚のみの生産で、地味に貴重。
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2)Miro Ungar『Sentimentalno Putovanje』

(クロアチア、83年 Jugoton:LSY 61822)

12''

ザグレブのビートグループ4Mのヴォーカリストとして人気を博したMiro Ungarは、65年に妻のTereza Kesovijaと共にパリへ移住してソロ活動を開始。Tim Twinkleberryという芸名で、Barclayレーベルに数枚のレコードを残した。68年、オパティヤ音楽祭で2位に輝いたのを皮切りに国内外の歌謡祭で賞を獲得し、世界的歌手に。現在も精力的に作品をリリースし続けているが、本作は3枚目のアルバムにあたる。東京について歌った、オブスキュアなヴォコーダー入りシンセ・ポップB-3はオススメだ。中華風のイントロもご愛敬。
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3)Videosex『Videosex』

(スロヴェニア、83年 ZKP RTVL:LD 0938)

12''

インパクトあるグループ名を持つ彼らは、10代のメンバーを中心として83年に結成された。シンセ・ポップ~ニューウェーヴなサウンドを持ち味として活躍し、この1stアルバムは80年代ユーゴを代表する名盤として知られている。冷たいシンセと打ち込みドラムのシンプルなオケにAnja Rupelの気怠げなヴォーカルが乗るB-2は、グループ名を冠した彼らの代表曲だ。強靭なビートとファンキーなギターによってダンサブルに仕上がったテクノB-4もオススメ。性的メッセージを含んだ本作は物議を醸したが、92年まで活動を続けて計4枚のアルバムを残している。
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4)Du Du A『Primitivni Ples』

(セルビア、83年 PGP RTB:2121263)

12''

ギタリストDejan Kostićは81年にGrupa Iを脱退して新たなニューウェーヴグループDu Du Aを結成。ファンク、レゲエなどあらゆる音楽を貪欲に取り込み、83年に初のアルバムをリリースした。82年にシングルでもリリースされたB-3は、ユーゴで初のヒップホップとして知られている。シンプルなスカの演奏にラップを乗せた、試行錯誤の跡が感じられる一曲だ。本作A-4ではヒップホップ路線をさらに追究し、DJユースな良曲に仕上げている。さらにはダークウェイヴなA-5や、ダンサブルなB-1など特徴的な楽曲を収録。時代を先取りした名盤だ。
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5)Dynamite Brass Band『Desert Storm』

(ブルガリア、91年  Балкантон:ВТА 12725)

12''

91年に制作された、Dynamite Brass Bandによる3枚目のアルバム。体制転換後のリリースのため自著では紹介できなかったものの、是非聴いてほしい一枚だ。彼らはブルガリア最重要ビッグ・バンドであるSofiaの主要メンバーで構成され、スイングに重点を置いた古典的なジャズをコンセプトにしてきた。スタンダードで固めた1stやDuke Ellingtonに捧げた2ndは東欧グルーヴのファンには物足りないかもしれない。しかし本作ではオリジナル曲も収録し、ブルガリアらしいエキゾチックなメロディに変拍子が加わったA-1、目まぐるしく展開する高速ジャズ・ロックなB-2を収録し、どちらもオススメだ。このアルバムは、湾岸戦争でアメリカがクウェート側に集中していたイラク軍の裏をかいてイラク領内を攻撃した「砂漠の嵐(=Desert Storm)」作戦の成功にインスパイアを受けて制作されたという。レコード裏面には、正義が永遠不滅であることを表現したと解説している。冷戦が終結し、湾岸戦争ではあのソ連もアメリカを支持した。東欧革命後の情勢を象徴した一枚としても興味深い。
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6)Kombi『Nowy rozdział』

(ポーランド、84年 Polskie Nagrania Muza:SX 2164)

12''

70年代にソ連製オルガンを改造したシンセサイザーで、電子音楽の先駆者となったKombiの3rdアルバム。前作までのディスコ色は後退し、電子音楽、ニューウェーヴの方向へと舵を切った一枚だ。ドラマーJan Plutaが脱退し、リズムが打ち込みになったことも大きな変化だろう。注目すべきはA-2で、そのラップ風の歌唱にヒップホップの萌芽を感じ取ることができる。東欧グルーヴ的には、スラップするベースがうねるB-1がオススメだ。
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7)V.A.『MESAM - Pop Festival 86.』

(セルビア、86年 PGP RTB:2122642)

12''

MESAM はMeđunarodni sajam muzike(=International Music Fair)の略で、84年から96年まで開催されていた歌謡祭。名前に反して参加者はユーゴの歌手のみではあるが、ベオグラードで最も大規模なフェスティバルだった。その参加楽曲は毎年コンピレーションとしてまとめられ、その中には他では聴けない貴重な楽曲も多い。本作は特にオススメの一枚で、Bebi Dolの歌うオブスキュアなシンセ・ポップA-5が聴きどころだ。ベースがうねるイタロ・ディスコなB-5は本作のみに収録された良曲。
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8)ZK Collaboration『Polish Jazz Vol.86: Slow Food』

(ポーランド、2022年  Polskie Nagrania Muza:9029650809)

12''

『Polish Jazz』シリーズは89年の Vol. 76で一度断絶したものの、2016年に復活を遂げて現在もリリースが続いている。2022年の新譜として登場した本作は、ドラマーAdam Zagórskiとサックス奏者Maciej Kądzielaによるユニット。二人の頭文字をとってZK Collaborationというわけだ。Zagórskiは音大のジャズ・ドラム科で博士号を取得していて、Kądzielaは学生ジャズコンテスト「Jazz nad Odrą」でグランプリを獲得している。2人ともジャズ界のエリートである。内容はフュージョンで、ドラムがタイトに刻むA-3はDJユースな一曲だ。
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いかがでしたでしょうか。またレコードが届き次第、アップしていきますので次回をお楽しみに。
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