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もうひとりの自分 第3話

外はいまだ晴れてはいるが寒い季節。
私は8歳になっていた。しかし自分はまだ家にいる。
1日中家から外の風景を眺めてばかりいる。
幼稚園も行かないまま時が過ぎ8歳となった私は
学校というところに行ったことがない。
たまに母が仕事から帰ってくる。しかし言えない。
言おうとしても母は自分に振り向かず
何か探しているのか棚の中を漁ってばかりだった。
そういえばあの棚の中身なんだろうと思っていた。
母は私のほうに振り向くといきなり何かを自分に
投げつけた。

「これで好きに使ってどっか行ってしまえ!」

と怒号とも思えるような言い方で家から出ていった。
そして二度と帰ってくることはなかった。
それよりも自分に投げつけたものとは札束だ。
一体いくらあるのかと思わんばかりに大量だ。
どうやったらそんな大金得られるのか?
8歳の自分でも不思議に思う。
やがて夜になり電気もガスも通らない家だから
ここは寝るしかなかった。

もうひとりの私も現実と同じく8歳を迎えていた。
両親は妹の世話でそれどころではなかった。
前回(第2話)無事に赤子が生まれた。
女の子だ。自分からすれば5歳年下の妹である。
現実の私と違うことといえば、夢の中の私は小学生。
いつの間にか小学3年になっていた。
1、2年の記憶はないが入学式のことは覚えていた。
いやはっきりし過ぎるほど覚えていた。

入学式。両親から事情により親戚のもとへ行くので
自分1人で学校に行けと言われた。
おめでたい日にそれはないだろと6歳の私でも
そう思った。
思えば生まれてから無邪気にはしゃいだ記憶がない。
そう思いつつこれから6年間世話になる学び舎に
足を運ぶ。周りは親と手を繋ぎ笑顔で登校する。
私はただ質素なスーツを着て何の感情もないまま
登校する。
しかしこの学校。どういうわけかいわゆるマンモス学校と呼ばれるくらい学生数が多い。
そりゃ誰も知らないどころか6年間誰と出会っても
「どうも初めまして」
の毎日を送ることになるだろう。先生も大変だ。
私は1年15組。15組は最後のほうだ。
親が来ないので浮かないまま座ってじっとする。
じっと体育館の壇上にある
「〇〇年度〇〇小学校入学式」
の文字を見つめるしかなかった。
まだ漢字を習ったことがないので何と書かれているか
知らないが。
入学式の式典が始まった。校長先生の話があった。
しかし私は耳を疑った。普通なら校長の話だと

「これから楽しい6年間の学校生活が始まります。
みなさんいろんなことを学んでまいりましょう」

とにこやかに言う。

夢の中の入学式。しかし私にとってはとても変な入学式。

しかしこの学校の校長の口調は小学生には聞くのが
きついものだった。

「君たちは今日から競争です。運動会とかの競争では
ありません。互いに戦い、殺しあう。
大体ななぜうちの学校だけこんだけ多いんだ。
ギャーギャーうるさいし、
生徒多いわりに誰1人デキのいいモノおらんし、
何度も殴って蹴っても治りやしない。まあいい。
どうせ6年後の卒業式にはおそらく1組しか
おらんようになる。せいぜい勉強して死んでこい!
以上!」

あたりが静まり返る。生徒全員の心中は冗談だろと
捉えているだろう。

私は1年15組の一番後ろの席。これから6年間ずっと15組で一番後ろの席。

入学式の式典終了後。生徒はそれぞれ教室に入った。
私は1年15組。14組までは平均で1クラス30人だが、
15組だけは18人と少ない。担任の教師が入ってきた。40代のどこかパッとしない白髪混じり天然パーマの
おっさん。聞けばいまだ独り身だという。
それよりも私の席はずっと後ろである。
これからもこういうポジションだ。

入学式が終わり教室から出た瞬間、夢から醒めた。
だがここで疑問に思う。たかが夢なのになぜ小学1、2年の記憶がないのだろう?
そんなのどうでもいいか。 所詮夢だから。

第3話おわり。

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