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主人公ごっこはつづく23.窓から見える東京ドームシティのアトラクションに(一応後楽園なんだよなあ)と思った

 早々に水抜き状態でいたため計量の数日前にはリミットを切る体重になっていた。計量前日でもなんだか体が軽くて水すましのように動けた。脱水症状気味ではっきり言って最悪のコンディションだとは思うのだがなぜか調子が良く感じた。こればかりは今かんがえると全く理解できない現象である。初試合に懸ける思いが強くてエンドルフィンに近い脳内物質が出ていたとしか思えない。


 ジムから帰って体重を測りながらアイスを食べるも少し経つと喉が渇いて仕方なかった。そんな長い長い夜が明けて計量へ。当時はJBCの事務所が後楽園ホールではなくアミューズメント施設のビルにあり、計量するのは部屋ではなく廊下の窓際。通路で服を脱ぎはかりに乗った。イメージと全く違うプロの計量に驚いてしまったが、窓から見える東京ドームシティのアトラクションに(一応後楽園なんだよなあ)と思った。


 計量は500gアンダーでパス。こんなことならゆうべコーラの一本でも飲んで寝ればよかったと悔やんだ。ひとまず安心して相手を見ると、身長は僕より低かったが肩回りの筋肉がモッコリしておりヒョロッヒョロの僕とは違う筋肉質な体つきだった。「お願いします」と挨拶を交わして検診へ。

 会場やテレビでいつも見ているリングアナの富樫さんやレフェリーの福地さんがいて、仕事はリング上だけじゃないんだあと思った。前日なのでまだ緊張はしておらず、国体予選のように血圧が上がることもなく無事終了。会長に連れられやっと、念願の食事だ。


 当時、小熊ジムでは計量が終わると会長が東京ドームホテルのビュッフェでご馳走してくれた。このルーティーンは現在は存在せず、僕を始め多くの選手は水分を摂りながら帰宅し、家に着いて落ち着いたころに食事を摂る。なぜそうなったかと言うと、暴飲暴食によってコンディションを崩してしまう選手が続出したからだ。4回戦のころの僕がそれだった。


 席に案内されるなり僕は、コーラを5、6杯並べて順番に一気飲みしようとした。会長に制止されまずはスープを飲むよう促される。しかし会長が席を立った隙に3杯ほど流し込んだ。頭の中でなにかが爆発した。「うンめェ~~ッッ」とひとり席で声がひねり出た。普段飲んでいるコーラとは全くの別物に感じた。もう今後、食べ物を残したりすることはやめよう、一杯の水にも感謝して生きていこう。と誓いを立てた。17歳男子の価値観がガラッと変わり悟りを開くほどつらい減量だった。


 そこから先はドラゴンボールの悟空のようにごはんをかきこんだ。気持ち悪くなるかもしれないと思ったがもうそんなことどうでもよかった。案の定帰りの電車で気持ち悪くなり途中下車して休ませてもらった。にもかかわらず川越に着けば催されていた祭りの的屋の焼きそばを買いそうになる僕。会長に制止されたが、すでに僕は食べ物に対してギャングになっていた。目の前の食べ物は片っぱしからやっつけてやりたい。先ほどの悟りは完全にどこかへいってしまっていた。主人公ごっこはつづく。


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