田之岡条

田之岡条です。小熊ボクシングジムでプロボクサーをしています。

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最近の記事

主人公ごっこはつづく26.頭の中で何かが爆発した

 1ラウンドが終了するまで僕は1発も被弾せずにいた。(勝てる…!)と思った。続く2回、相手の入り際に左ストレートを合わせると膝がカクンっと揺れ、今まであれほど僕を追いかけ回していた相手がロープに下がっていった。(今だッッ!!)と思い仕留めるつもりでラッシュを仕掛けた。ここで全てのスタミナを使うつもりで。打ち急いでしまい腕がからんでクリンチに。僕は気づいた。(すげー疲れてるおれ……。)

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    • 主人公ごっこはつづく25.(おれはやっぱりボクシングに向いてないな)

       開場。前座ボクサーはホールの通路で試合を待つ。席に向かう同級生と目が合ってガッツポーズでエールをくれた。なんだか心強くて、国体予選のときを思い出した。試合開始時間になるとゴングが高らかに打ち鳴らされ「第一試合、両選手、リングに入場です」とアナウンス。アドレナリンと緊張感で頭が爆発した。「ッしゃァッッ!!」と雄たけびを上げ眉間にシワを寄せながらリングへ向かった。ボクサー、ではなく格闘家で言うならヴァンダレイ・シウバのような殺伐としたテンションで入場した。今とは大違いの入場スタ

      • 主人公ごっこはつづく24.試合をすることよりも試合を見てもらうのが楽しみだった

         計量、食事を終え無事(?)家に帰り、寝た。寝込むといった方が正しいくらいおなかがいっぱいで動けなかった。それでも夜は父に焼肉に連れて行ってもらう。ボクサーで言うならマルコス・マイダナに負けないくらいに肉を喰らい、またも気持ち悪くなって就寝。最後の晩餐と言えるほど詰め込んだ試合前夜であった。

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        • 主人公ごっこはつづく23.窓から見える東京ドームシティのアトラクションに(一応後楽園なんだよなあ)と思った

           早々に水抜き状態でいたため計量の数日前にはリミットを切る体重になっていた。計量前日でもなんだか体が軽くて水すましのように動けた。脱水症状気味ではっきり言って最悪のコンディションだとは思うのだがなぜか調子が良く感じた。こればかりは今かんがえると全く理解できない現象である。初試合に懸ける思いが強くてエンドルフィンに近い脳内物質が出ていたとしか思えない。  ジムから帰って体重を測りながらアイスを食べるも少し経つと喉が渇いて仕方なかった。そんな長い長い夜が明けて計量へ。当時はJB

        主人公ごっこはつづく26.頭の中で何かが爆発した

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        • 主人公ごっこはつづく25.(おれはやっぱりボクシングに向いてないな)

        • 主人公ごっこはつづく24.試合をすることよりも試合を見てもらうのが楽しみだった

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        • 主人公ごっこはつづく23.窓から見える東京ドームシティのアトラクションに(一応後楽園なんだよなあ)と思った

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        • 主人公ごっこはつづく
          26本

        記事

          主人公ごっこはつづく22.プロデビュー戦が決定?!

           1月にプロテストに合格し気づけば夏になっていた。そんなある日会長のミットを打っていると電話が鳴った。電話をとり何やらメモっている会長。リングに取り残された僕をガン見しながら応対しているので、サボるなと言われている気がしてデモンストレーションのように一生懸命シャドーした。電話を切り戻ってきた会長は「8月1日フライ級でデビューの選手と、やる?」といきなり言われたので「は、はい!」と条件反射的によく考えず即答してしまった。

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          主人公ごっこはつづく22.プロデビュー戦が決定?!

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          これはもはやテーマパーク『バンクシーって誰?展』

           アートが好きだ。美術館に行くとその日から目に入るもの全ての見え方がなんだか変わる気がする。美術作品は生活を豊かにしてくれるのだ。喫茶店やホテルに飾ってある名前も知らない画家の作品でも同じ。アートを見ているときはただ心をウキウキさせてくれる。僕は絵が苦手だ。僕もこんなふうに絵が描けたなら、自分の表現したいものを描いてみんなに伝えたいなあと思って生きてきた。歌謡曲の一節のようになってしまったが、僕は絵描きさんへの尊敬の念を抱いてやまない。  『バンクシーって誰?展』は、神出鬼

          これはもはやテーマパーク『バンクシーって誰?展』

          主人公ごっこはつづく21.「きたねえ羊の血などつけやがって…!」

           リングを降り、会長とじっちゃんにグローブを外してもらう。返り血をバシバシ浴びた僕を見て「血が付いてるよ」とじっちゃん。僕は何を思ったか「きたねえ羊の血などつけやがって…!」と喧嘩商売のセリフをなかなかの声量で叫んでしまった。きっと凄惨なスパーから解放されたことで安堵の気持ちでいっぱいだったのだ。早い話が怖かったのである。

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          主人公ごっこはつづく21.「きたねえ羊の血などつけやがって…!」

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          主人公ごっこはつづく20.「辛いもんばっか食ってるから腹が弱いんだ」

           プロテストのラウンド間インターバルは30秒と短い。それに加えて1ラウンド目は相手を寄せ付けまいとかなりのハイペースでワンツーを打ち込んだ。肩で息をしたいところだがスタミナも審査項目なので涼しい顔を心がけて2ラウンド目に臨んだ。

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          主人公ごっこはつづく20.「辛いもんばっか食ってるから腹が弱いんだ」

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          主人公ごっこはつづく19.「お願いします!!!」

           「いま向かい合っているのがスパーリングの相手です。握手をして」握手をする手に力を感じた。さっきまでナメくさっていたこのスパー相手だったが、強い目力に少し緊張感が走る。

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          主人公ごっこはつづく19.「お願いします!!!」

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          主人公ごっこはつづく18.受験生同士の偵察戦

           はじめの一歩に憧れ木を散々蹴っ飛ばし、がんばれ元気に影響され電車を血眼で見ていた僕も高校入学と同時に小熊ジムに入門し、やがてはアマ公式戦に出場するようになった。判定負けし「お前プロはまだ早いよ」と会長に言われた半年後。17歳の誕生日を迎えた日にいよいよ会長に申し出た。

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          主人公ごっこはつづく18.受験生同士の偵察戦

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          非日常がもたらす幸福感「マスカレード・ホテル」

           僕は非日常が好きだ。まず旅行。やはりこれ以上の非日常はないだろう。何度も観た名作映画も飛行機で観るのはまた違う。セリフも覚えてしまっている「ショーシャンクの空に」なのにこれほど感涙してしまうとは…!単に「ショーシャンクの空に」が傑作というのもあるが、それを昂揚させてしまうのが非日常の優雅さだ。キャビンアテンダントさんから手渡されるキットカットもそう。いつも食べているものとは決定的な違いがある。ほのかに高揚感、高気圧感(?)のようなものを感じるのだ。  オシャレな街を歩くと

          非日常がもたらす幸福感「マスカレード・ホテル」

          主人公ごっこはつづく17.僕らはのきなみ中二病になった

           先月、アンダージュニア全日本王座決定戦が和歌山県で行われ、同門の小学6年生紺野優空が優勝の栄冠を勝ち取った。小熊ジムでは唯一のキッズなので勝手がわからず試合の出場手続きからセコンド、出稽古に至るまで熊谷コサカジムさんにお世話になりっぱなしだった。そう、中学生時代の僕が判定負けに終わった初のスパーリング大会が開催されたジムだ。もし当時の僕がゆあとスパーリングをしたら確実にKOされているはずである。以前からキッズボクシングに力を入れている熊谷コサカジム。そのおかげでゆあが日本一

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          主人公ごっこはつづく17.僕らはのきなみ中二病になった

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          主人公ごっこはつづく16.「会長こないのかよ。薄情だなあ」

           初めてのスパーリングから一年後。中学生になり、相変わらず遊び半分ではあるもののジムへは通っていた。まだ同じジムに通っており、小熊ジムに入門するのはもうちょっと先のこと。ある日、キッズのスパーリング大会に出ないかと言われ僕と一個下の6年生Sとで出ることになった。スパーリングとはいえ勝敗がつく試合というものを前にして緊張感が走る。

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          主人公ごっこはつづく16.「会長こないのかよ。薄情だなあ」

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          サウナーのみなさん、おまたせしました!「サ道」

           気分転換にすることってありますか?僕はサウナ。今となってはブームとなっているが、僕は水風呂に入った後の外気浴でのトリップ感をずっと前から味わっていた。これだけは他にない。全身の器官。血液の流れすら止まったような気になれるこの瞬間は、悩みや葛藤などバカバカしいと思わせてくれる大事な時間だ。自分と向き合い、そして明日へと立ち向かう精神統一のような時間。悟りを開いた僕に怖いものは何もない。大げさだと思うのなら一度正しい入り方でサウナを嗜んでほしい。気づけば僕のように心の拠り所にな

          サウナーのみなさん、おまたせしました!「サ道」

          主人公ごっこはつづく15.「ボクシングって、見るのも好きだけどやるのはその1000倍楽しい!!」

           角海老ジムに見学に行った帰り道、父がボクシングマガジンを買ってくれた。巻末にはボクシングジムの広告が載っており、埼玉のボクシングジムも一件載っていた。当時は小熊ジムの存在を知らず、ボクシングマガジンに載っているという絶大な信頼をもとにその違うジムへ通おうと思った。

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          主人公ごっこはつづく15.「ボクシングって、見るのも好きだけどやるのはその1000倍楽しい!!」

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          主人公ごっこはつづく14.大きくなったらまたおいで

           独学で強くなろうと公園でのスパーリングを楽しむなかでドンピシャな漫画に出会った。「がんばれ元気」である。こちらも「はじめの一歩」「あしたのジョー」と並ぶボクシング漫画の金字塔だ。なかでも「元気」はこのなかで唯一5歳からスタートし大人になっていく様を追っていくストーリーというのが、小学生の僕にはとても共感できた。また、ジム以外でのトレーニングが多く描かれているというのがよかった。  元気は動体視力を鍛えるトレーニングを好んでする。有名なところでいくと電車の乗客のひとりひとり

          主人公ごっこはつづく14.大きくなったらまたおいで