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「タコの介の浮きっぱなし9」言ったのか。分からんが、タコの介の言葉が沖縄の女を泣かせた。

■「事をなす」女が一人
先日、沖縄に行って来た。寒緋桜が満開で、デイゴの木がつぼみを付けていた。沖縄の空は午前中は晴れて、午後になるとやみくもにスコールがやってくる。
沖縄には5、6回出かけているが、前回からもう10年以上も時間が過ぎている。那覇に着く前は宮古島にいた。椎名誠の「わしらは怪しい雑魚釣り隊」の取材を兼ねての3泊4日。那覇には2泊したので、全部で5泊6日だ。病の身としては長い旅となった。

那覇ではY子に会った。Y子は元「つり丸」編集部員で沖縄に移住して10年になる。タコの介が「つり丸」の編集長をしていたある日、Y子が思いつめた顔でこう言った。
「樋口さん、あたし『つり丸』を辞めます」
「なんで?」
「40歳になっちゃったから」
「ふーん。で、これからどうするの」
「沖縄に行きます。グルクン釣りを楽しみにして」
事情はあっただろうが聞かなかった。「事をなす」Y子の思い切りのよさにちょっとホレた。

10年ぶりに那覇で会うY子は、今なにをしていたのか。彼女は讃岐うどんを出す小料理屋のおかみとなっていた。出身が香川県だった。10年間せっせとお金をためて、3年前に念願の店「陽より」を沖縄県庁近くに開店させた。

■本当に言ったのか。言ったのか?

Y子が休暇を取ってくれて一日付き合うことになった。ほかに一人加わって3人のショートツアー。向かった先は沖縄北インター近くの「東南植物楽園」。植物好きのタコの介向けバージョンのコースだ。でも、植物楽園ってなんだろう。

植物楽園は楽しい。東京では温室でしか見られない東南アジアの熱帯植物が露地にそのままある。高さが25メートルのユスラヤシの並木通りと林は異空間だ。人のいない林にはここだけ違う風が幹の高いところで吹いている。

タコの介はスティックを突きながら、ユスラヤシの並木をゆっくりと歩いていた。それに従うように歩いていたY子が語りだした。
「ずっと前、あたし泣きながら樋口さんに電話したの覚えてる?」
「うー、ないな」
「駐車場に車を停めて電話したの」

なにやら、やばい展開になってきた。
「言われた通り、ずっと我慢してきたわ」
「うん。なにを?」
「樋口さん言ったでしょ。『苦しいときは一人で我慢しろ。楽しいことはみんなで分かち合え』って。でも、我慢できなくて」

「ええっ! 俺、そんなくさいこと言うか? そういうの大嫌いなんだけど」
「こっちが、ええっ! ですよ。ずっと一人で我慢してきてたんだから」

いつからそういう話になっているんだ。いつから俺は「みつお」になったんだ。俺は沖縄で一人頑張っていた女を苦しめたのか。言うわけもないあんなくさい言葉で。

「ふふふ。大丈夫。樋口さんの言葉で助けられたこともあったから」

言ったか言わなかったか分からんが、不用意な言葉ほど怖いものはないぞ。
(言ってないんだけどなぁ)

#沖縄 #フライフィッシング #釣り #書く

タコの介のnoteに来てくれて、ありがとうございます。小学3年生。はじめて釣り竿を両手でにぎりしめてから、釣りが趣味となり、いつの間にか仕事にも。書くことの多くが釣りになりました。そんな釣りにまつわるnoteです。どうぞよしなに。