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プロダクトマネージャーとキャリア

マネーフォワードの広瀬です。ビジネスカンパニー(BtoB領域事業)CPO室 室長として、50人を超えるプロダクトマネージャー(以下、PM)組織の運営責任者を担当しています。

友人のPIVOT はちさん(@PassionateHachi)が近く出す技術同人誌に「PMとキャリア」をテーマとしたゲストコラムをお願いされたため、久々にnoteを書いてみました。

私自身、年間200人を超えるPM職種の採用面談や、マネフォのPMとの1on1などを通じて、このテーマに関する質問・議論も多く経験しています。自分の考え方の棚卸し、としてもちょうど良い機会を頂いた、と感謝してます。

  • キャリア成長や次のステップを模索しているPM

  • 他の職種からPMへのキャリアチェンジを考えている人

  • PMを採用したい人、人事・採用担当・経営者

特に、このような方に読んでいただけると嬉しいです。


1. PMとは何か

1.1 基本的な定義と役割

PMとは、一般的にはプロダクト開発の全ライフサイクルをマネジメントし、プロダクトの成功に責任を持つ職種です。

私が所属する組織では「プロダクトの成功のためになんでもする人」と定義して、組織運営の基本としてます。

PMとは「プロダクトの成功のためになんでもする人」
・プロダクト…ソフトウェアのみならず周辺サービスまでを含むものすべて
・成功…ユーザーに価値を届けると同時に、ビジネスの成功にも貢献する

つまり、「自身が担当するプロダクト(ソフトウェアのみならず周辺サービスまでを含む)で、ユーザーに価値を届けるとともにビジネスの成功にも貢献するために、なんでもする人」

Aki Hirohara著 note「プロダクトマネージャーという仕事(2023年4月28日)」 

その具体的な役割は、ビジネスの目標達成に向けたビジョン・戦略・ロードマップ等を設定し、それに基づいてプロダクト開発をリードすることです。日本で最も有名なPM本の1つである「プロダクトマネジメントのすべて」では次のようにまとめられています。

プロダクトマネージャーには2種類の仕事がある。プロダクトを育てることと、ステークホルダーをまとめプロダクトチームを率いることである。

及川 卓也, 曽根原 春樹, 小城 久美子 著「プロダクトマネジメントのすべて」

1.2 他の職種との違い

PMと比較されやすい職種・役割を5つピックアップし、それぞれの職種とPMとの違いを簡単にまとめてみました。

  • プロジェクトマネージャー(PjM)

  • プロダクトオーナー(PO)

  • 事業戦略・事業開発(BizDev)

  • プロダクトマーケティングマネージャー(PMM)

  • Webプロデューサー・ディレクター

プロジェクトマネージャー(PjM)
PjMは、プロジェクトの品質・費用・納期(QCD)を管理する役割であり、主に「プロジェクトが予定通りに完了すること」が求められます。ある程度成熟したプロダクトチームの場合、エンジニアリングマネージャー(EM)がPjMを担い、PMとは分けて配置されるケースが多く見られます。これは、よりPMが中長期的なビジョン・戦略に集中し、一方でEMがスケジュール・リソース管理に専念することでの最適化を図っています。

プロダクトオーナー(PO)
POは、アジャイル開発における1つの役割で、顧客やビジネスの要求を理解し、優先順位をつけてプロダクトバックログを管理しチームに指示します。
PMが存在するプロダクトチームの場合、PMがPOの役割も担います。
(PMの持つ役割・業務の一部がPO、という整理)

事業戦略・事業開発(BizDev)
BizDevは、長期的な事業戦略を策定し、収益を拡大するための新しい市場やビジネスモデル、提携先を探すことに責任を持ちます。
プロダクトマーケットフィット(PMF)する前のスモールなプロダクトチームの場合、PMがBizDevの役割を担うケース(※)も多いですが、プロダクトの成熟度が上がるに連れてPMとBizDevを分けて配置するケースが増えます。BizDevは新たな市場機会の探索と創出・TAM(Total Addressable Market)の拡大に寄与し、一方でPMはリーチできる顧客層の最大化・SAM(Serviceable Available Market)の拡大をリードする役割とも言えます。

※ estie VP of Product 久保拓也氏「新規プロダクトの立ち上げ」参照

プロダクトマーケティングマネージャー(PMM)
PMMは、PMと同じくプロダクトの成功に貢献する役割を持ちますが、役割と責任範囲が異なります。PMMは主に市場と顧客にフォーカスし、担当するプロダクトのマーケティング戦略を立案、ターゲット市場に効果的にプロダクトを展開することに責任を負います。特に複数プロダクトを展開している企業では、セールスイネーブルメント観点で配置するケースもあります。
PMがSAMの拡大をリードする役割である一方、PMMは競合他社からのシェアの獲得や販売効率の向上・SOM(Serviceable Obtainable Market)の拡大をリードする役割になります。

Webプロデューサー・ディレクター
WebプロデューサーはWebサイトの企画から設計のディスカバリーまで、Webディレクターは制作から運用のデリバリーまでを担当します。
一方、PMはプロダクト開発の全ライフサイクルをマネジメントする役割のため、工程に分けて一部の役割を担うWebプロデューサー・ディレクターとは役割・責任の範囲が大きく異なります。

2. PMに求められるスキル・マインド

2.1 Product Management Triangle

PMに必要なスキルセットを語る上で、必ず登場するのが「The Product Management Triangle」です。

The Product Management Triangle

引用: The Product Management Triangle(Product Logic)

「Developers(開発)」「The Business(ビジネス)」「Users(ユーザー)」の3つの領域のスキルをすべて求められるということになりますが、私の所属する組織ではこのトライアングルを用いて、次のポイントにこだわり、PMに必要なスキル・マインドと定義しています。

  • 3つの領域それぞれの仕事ができる能力を持っていること

  • 3つの領域の間に落ちる仕事を拾い、間に挟まれる課題を調整すること

  • 3つの領域の外側もPMの仕事と理解し動くこと

3つの領域それぞれの仕事ができる能力を持っていること
PMは、開発部門・ビジネス部門・ユーザー(例:マネフォの場合は経理・人事・法務等)部門、3つの領域で基本的なスキルを持つ必要があります。
理想的には、どの部門でも活躍できるレベルが求められますが、それが難しい場合でも、最低限それぞれの領域で一人前として働ける能力が必要です。

3つの領域の間に落ちる仕事を拾い、間に挟まれる課題を調整すること
PMは、プロダクトチームやステークホルダーと協力してプロダクトを作り、育てる役割を担います。関係者から信頼される知見とスキルを持ち、最適なチームを編成し必要に応じて自らも実行役として動くことが求められます。また、各領域の間で発生する課題やコミュニケーショントラブルを解決し、プロダクトの成功に導くことも重要な役割です。

3つの領域の外側もPMの仕事と理解し動くこと
PMの仕事は3つの領域にとどまらず、それらの外側にある課題にも及びます。プロダクトの成功のために、これら全ての領域外で発生する重要な課題にも対応し、解決する責任がPMに求められています。

2.2 What is a Product Manager?

The Product Management Triangleと並び、「PMとは何か?」をまとめた有名な「ベン図」のスライド「What, exactly, is a Product Manager? :Martin Eriksson」があります。

これを、私なりに解釈してPMの守備範囲(PMが担うべき仕事の範囲)と、立ち位置(スタンス)の違いについて、次のスライドにまとめています。

PMの「守備範囲」と「立ち位置」の解釈

PMの必要性に関する要否の議論が様々な人々の間で巻き起こっていますが、私個人の考えとしては、PMはサッカーにおける『キャプテン』のような存在であり、チームにとって必要不可欠な役割を担うと考えています。

  • PM(キャプテン)は、プロダクトが成功(勝利)するために何でもする役割である。

  • PM(キャプテン)がスーパーマンで、全ての能力がチームで最高であれば理想的ではあるが、一方で絶対条件ではない。

  • 3つの領域・スキルセットはチーム全体で補完することが重要で、PM(キャプテン)はスキル以上にマインド・スタンスが重要。

  • PM(キャプテン)は、チームのリーダーとしてプロダクトの成功(勝利)に全力を尽くす姿勢を見せ続けるべき存在である。

そのため、PM不要論では「成熟したチーム」の理想的な状態をイメージし、各メンバーが高い自己管理能力を持ち、必要な意思決定や調整を自主的に行えるため、明確なリーダーシップがなくても機能する可能性や、それを目指すことの意義に言及されているものが多い印象です。

ただ、チームは常に変化し続けるものであり、組織間の調整や複雑な課題の解決が必要な場面、例えば有事・トラブルが発生した場合では、PMがチームをリードする役割を担うことが重要だと思います。

成熟したチームではPMの役割が変化するかもしれませんが、完全に不要とは言えません。むしろ、PMが柔軟にチームのニーズに応じたリーダーシップを発揮することが求められる、と私は考えます。

また、PMが他の職種、例えばエンジニアやデザイナーと同様に「1つの職種」であることから、必ずしも意思決定のリーダーである必要はない、という考え方には一定の理解ができますが、限界もあります。

クロスファンクショナルチームでは、各メンバーが異なる専門分野を持ち寄り、共同でプロダクトを成功に導くことが重視されます。このチーム構造では、RACIチャートが有効であり、各メンバーの役割と責任を明確にすることで、誰が意思決定を行うべきか、誰がサポートするのかが明確にされます。

ただし、PMは、プロダクトのビジョンと戦略を統括し、クロスファンクショナルチームの中での意思決定を最終的に統合する役割があります。これは、全体の方向性を維持するために重要であり、レポートラインを通じて意思決定が組織全体に伝達される際にもPMが中心的な役割を果たします。PMが意思決定のリーダーである必要がないという見方は、専門分野における意思決定の分担として支持できるものの、プロダクトの一貫性と成功を保証するためにPMのリーダーシップは欠かせません。

したがって、クロスファンクショナルチーム内では専門性に基づいた意思決定が行われるべきですが、PMは全体を俯瞰し、戦略的な意思決定のリーダーとしての役割を果たすべき、と私は考えています。

個人的には、PMが不要となるほどビジョンがアラインされ、かつ、成熟したプロダクトマネジメントがメンバー個々で自立する組織も見てみたい気持ちもありますが、なかなか難しいのではないでしょうか。

3. PMとしての具体的なキャリア

3.1 PMのレベル別キャリアステップ

私の実体験および周囲の企業からの情報をもとに、PMのキャリアステップを以下の4段階にまとめました。

  1. ジュニアPM(PM見習い)

  2. シニアPM(一人前のPM)

  3. VP of Product / Head of Product(複数のプロダクトを管掌するPM)

  4. Chief Product Officer / CPO(最高プロダクト責任者)

PMは企業によっても役割・責任の範囲が異なる、日本においてはまだ一般的ではない職種のため、このレベル別キャリアステップもあくまで参考情報として捉えていただけると嬉しいです。

1.ジュニアPM(PM見習い)
プロダクト開発においてPRD作成やスクラムイベントのマネジメントを担当することで、戦略を具体的な行動に落とし込む役割を果たします。複数のPM体制で開発している場合は、リードPM(シニアPM以上)により特定された解くべき課題に対して「具体的な課題の解き方(How?)」のEpicを担当します。ただし、一人でプロダクトを担当することは困難なレベルのため、各プロセスにおいてシニアPM以上のレビュー・サポートが必要です。

2.シニアPM(一人前のPM)
プロダクト開発の「Why?」と「What?」にコミット
し、ビジョンや戦略を策定することでチーム全体の方向性を示す重要な役割を果たします。リードPMとしてプロダクト責任者を担い、長期的なプロダクトロードマップを描き、これをステークホルダーと共有し、合意を得る責任を持ちます。
なお、スクラムにおけるPO業務(How?)も一人で遂行できます。

3.VP of Product / Head of Product(複数のプロダクトを管掌するPM)
複数プロダクトの統括として、横断的な連携やプロダクトポートフォリオの戦略策定・実行管理を担います。そのため、企業の成長戦略に密接に関与し、各プロダクトのシナジーを最大化する戦略を練ることが求められます。また管掌領域のPMのピープルマネジメント、採用と育成の責任も担います。

4.Chief Product Officer / CPO(最高プロダクト責任者)
全プロダクトを管掌し、企業全体の成長と市場リーダーシップを支える役割を果たします。また、FacebookやAmazon(EC)のような巨大なプラットフォーム・プロダクトの場合、単一のプロダクトであっても非常に複雑かつ多岐にわたる機能を持つため、CPOは各機能やサービス間の統合を図り、プラットフォーム全体の戦略的方向性を導くことが求められます。プロダクト戦略の最終決定者として、エグゼクティブチームと協力し、長期的なビジョンを策定し、実行に移します。

ここで分かりやすいギャップがあるのはジュニアPMとシニアPMの差です。「一人前のPMとして、1人で1つのプロダクトのプロダクトマネジメントが担えるかどうか」という言葉で表現できます。

例えば、ロードマップも「単に資料を作ることができるかどうか」であればジュニアPMでも可能なケースもあります。しかし、「ステークホルダーに共有し、アラインメントまで責任を持って完遂させること」はジュニアPMには困難です。

この違いがプロダクトマネジメントのリード役としての役割と責任を担えるかどうか、の違いです。

なお、シニアPM以上のキャリアステップについては、企業やプロダクトのフェーズ、成熟度、さらにはPM組織や関連部署のキーマンの能力によって大きく異なるため、一概に定義することは困難です。

そのため、たとえCPOやVPoPの経験者であっても、他の企業で同様の役割を担うことが難しい場合があります。

3.2 PMへのキャリアパス

次に、未経験からPMにキャリアチェンジするためのキャリアパスについて、そのパターンをまとめました。

  • 新卒入社:「PMコース」がある会社に入社する

  • 社内登用:抜擢人事の機会を利用する

  • 中途採用:関連職種から転職時にキャリアチェンジする

新卒入社:「PMコース」がある会社に入社する
まだ日本では一般的ではないため数は少ないですが、いくつかの企業では「未経験者向けのPMコース」を提供して、実務経験を積みながらPMに必要なスキルを学ぶ機会が与えられます。
マネーフォワードでも2024年新卒採用から「エキスパートコース PM職」を新設しています。まず初めにPMに必要なエンジニア職のスキル・経験を中心に獲得するために、入社時にはエンジニア職として着任し、一定のレベルに達したタイミングでPM職への変更権利が発生するコースとしています。

社内登用:抜擢人事の機会を利用する
日本において未経験からPMになるために最も多いパターンが社内登用
です。すでにPM職が確立されている企業の場合、中途採用の求人枠を社内登用にも開放するケースは多く存在します。企業にとっても、組織文化へのスムーズな適応、長期的な人材育成の観点から「素養のあるPM未経験者の確保」を目的として積極的に実施しています。
マネーフォワードでも、毎年複数人のPM未経験者がPMへ登用されており、一般的なキャリアパスとなっています。

(マネーフォワードに新卒入社し、PMへ転身した藤永さんの事例)

中途採用:関連職種から転職時にキャリアチェンジする
プロダクトチームの一員として、プロダクトマネジメントに携わった経験を活かして転職時にキャリアチェンジするパターンです。主に、開発に関わるエンジニア・デザイナー、販売に関わるカスタマーサクセス、戦略に関わるBizDevからPMへのキャリアチェンジが多い印象です。
マネーフォワードのBtoB領域の場合、上記の職種に加えて業界理解が大きな武器となりうるSIerやパッケージベンダーなど「ERP・バックオフィス業界の経験者(PjMや導入コンサル)」の方も多くPMに転身し活躍しています。

(マネーフォワードのPMとして関連職種からキャリアチェンジした事例)

4. まとめ

PMの役割とは、プロダクトの成功に向けて全力を尽くすリーダーであることです。しかし、真のリーダーシップとは「自分がリーダーになりたい」という意志よりも、チーム全員から「この人にリーダーを任せたい」と信頼されることにあります。

PMは、プロダクトのビジョンを実現するために、チーム全体を導く戦略的な思考と柔軟なリーダーシップが求められます。チームの成熟度に応じてPMの役割は変わるかもしれませんが、プロダクトの成功にコミットするリーダーシップの重要性は常に変わりません。

PMを目指す方々には、単に「PMになりたい」という願望にとどまらず、PMという役割を通じて事業やプロダクトをリードする存在を目指していただきたいと思います。

このコラムが、キャリアを模索する皆さんにとって、何らかのヒントやインスピレーションとなれば幸いです。

引用記事・書籍まとめ


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