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ヒップホップミュージシャンは「働き方改革」を体現するか?

混迷を極める現代社会の病巣に、臨床医学的な見地から軽妙洒脱な筆致で快刀乱麻にメスを入れるサブカル産業医・大室正志と、特にメスは入れていない朝倉が、ミュージシャンを通じて考える、働き方改革と、メンバーシップ型組織・ジョブ型組織のあり方。

ストリーミング時代に最適化した楽曲作り

朝倉:「働き方改革」が叫ばれる昨今、世の中のミュージシャンのあり方も、会社に喩えると、メンバーシップ型組織やジョブ型組織に分けられるよねって話をしたけど、その中でもヒップホップ色のある人達って、コミュニティ感を出しがちだよね。
僕の10代の頃だと、リップスライムとDragon Ash、スケボーキングやラッパ我リヤなんかがよく一緒にイベントをやっていた覚えがある。
最近でも特定のラッパーやDJ、トラックメーカーなんかは個別に活動しつつも楽曲制作やイベントで同じメンツがコラボする傾向にある。
他の音楽ジャンルと比べても、ソロと並行したプロジェクト的な活動が多い傾向にあるように思うんだけど、あれってヒップホップの特徴なのかな?

大室:確かに。それで言うと面白いのが、バンドってギターなりドラムなり、本来ジョブ型なんですよね。一人一人の役割分担が決まっている。
一方で、ヒップホップっていうのはマイクがあって、トラックメーカーさえいれば誰でも参加可能なので、ある意味メンバーシップ型ともすごく相性がいいんだけど、そもそもがヒップホップって一人で出来るから、ソロになっちゃうんだよね。

朝倉:そうね。

大室:で、最近ってストリーミングで聞かれることが多いから、お互いがお互いにお客を回すためにフィーチャリングを沢山するようになってる。
誰かの曲を聴くともう一人の曲も聴くようにするために、リンクが貼れるようになってる。学者さんのインパクトファクターみたく、論文を引用し合う、みたいな形をとってるよね。
あれは完全にストリーミング対応ですよ。

朝倉:それで言うと、よく分かんないなと思うのが、複数人で活動しているグループの中の1人がソロで曲を出しているところに、他のメンバーが参加していたりするケース。
例えば僕、Chelmicoっていう女子2人のポップなラップデュオが結構好きなんだけど、そのうちの1人のマミコはソロ名義で曲を出していて、そこにフィーチャリング形式で相方のレイチェルも参加しているわけです。これは一体何なんだと。

大室:「それChelmicoでよくね?」と。

朝倉:そう。2人名義にしてやれよ、と。

大室:なるほど。オザケンのソロにフィーチャリング・コーネリアスと出てくるみたいな感じ?(笑)

朝倉:そうそう!
レイチェルの方が、ややいじられキャラ感あって、Twitterとかでも「(Chelmicoのマミコ)じゃないほうって言うな!」みたいなことツイートしてるわけですよ。
判官贔屓としては、そういうド真ん中王道ではない方に惹かれるわけです。

大室:確かに、朝倉さん不幸萌えって言ってたもんね(笑)

朝倉:別に不幸ではないけどさ。2番ショート的なクセがある方がいい。
『ドカベン』なら殿馬。スラダンなら宮城。『ジャイアントキリング』なら王子。

強烈なスキルを持った強烈なメンバーシップ型バンドの賞味期限は短め

大室:あと、YMOもだけどアルフィーも面白い。全員が曲を作れて、曲ごとパートごとにリードボーカルが変わる。
そういう意味では、YMOって解散はしてるけど、バンドの中で一番長持ちするのって、強烈なメンバーシップがあって、強烈なスキルがある人達がいるパターンなのかなと思わせられるよね。
ただ、これが揃うのはほぼ奇跡なんだけど。

朝倉:うん。

大室:ここで三点倒立がちょっとうまくいかないと、ひずみが入っちゃうというか……。

朝倉:X JAPANはひずみが入りやすい構造にあったと。

大室:X JAPANもみんなすごいんだけど、少なくとも当時の印象はTOSHIとYOSHIKIが強いよね。あとちょっとYOSHIKIがオレオレタイプじゃないのかなぁ?
BOOWYもビートルズも4人バンドで2人が目立つという感じだけど、これは安定感がないんだろうか。
あ、でもミック&キースというやや似た構成でもストーンズは長く活動してるか。これは多分ミックジャガーのリーダーシップの賜物ですね。
あとフォーク・クルセダーズとか。

朝倉:フォーク・クルセダーズ!(笑)

大室:昔ピチカートの小西康陽さんが、「フリッパーズギターって、はしだのりひこのいないフォークルだったのかも」とエッセイで書いてたな、そう言えば。洒脱な都会っ子(加藤和彦、小山田圭吾)とインテリ文学青年(北山修、小沢健二)の組み合わせ。
あと、バンドなんだけど、「未来永劫的に続くものでは無くて、これはプロジェクトである」と割り切って本人も周りもそう見ているっていうケースもあるんですよ。ピチカート・ファイブとか明らかにそう。これはピチカート・ファイブというプロジェクトであると。

朝倉:ピチカート・ファイブってボーカルも何度も変わってたよね?

大室:ボーカルは佐々木麻美子さんから田島貴男さんを経て野宮真貴さんになりましたしね。そして最後はすごくゲストボーカルが増えた。ただ最初に始める時はちゃんとバンドやろうと思ってたと思うんだよね。途中からプロジェクトとしてのピチカート・ファイブみたいな感じになっていったと思うんだよね。

朝倉:うん。

ヒップホップミュージシャンは「働き方改革」を体現するか?

大室:で、もう一つのパターンとしては、これから世の中は会社などもどんどんプロジェクト型になっていくじゃないですか。冒頭でヒップホップはプロジェクト的活動が多いって話があったけど、ヒップホップはたしかにそういう感じになっている。フィーチャリングとかメンバー編成とか、「今回このトラックではこう」みたく、プロジェクト型でやってますよね。
あれ、すごく今風だなと思うんですよね。

朝倉:個々に技量があって、尚且つポータブルというか、組織依存型のスキルではなく、他のところに混ざっても即戦力として活躍しやすい芸を何かしら持っているっていうことだよね。

大室:ヒップホップなんかはまさにトラックとボーカルという風に分解しやすいよね。ジョブ型向き。
そういえば、これで思い出したけど、僕の友人で、ここには公開できないようなキワドイことばっかりTwitterや連載に書いているラッパーの三島くんっていう人がいるんだけど。

朝倉:僕も一度お会いしましたね。

大室:朝倉さんも一回会ったか。三島くんは「中卒」って言われるとものすごい怒るんですよ。「オレは工業高校中退なんで。そこは一緒にしないでください」と。

朝倉:なるほど。

大室:で、「そういえば朝倉さんも高校行ってなかったよ」って彼に言ったら、「マジ?」って言って満面の笑みであなたに握手しようとしたじゃん。
「でもこの人東大卒なんだよね」って言ったら、手をバシーンって叩いてたけど(笑)

朝倉:そうなるの目に見えているのに、なんでわざわざフルかね……。

大室:(笑)。でもその三島くんが曲を作る時に、歌詞は自分で書くんだけど、トラックに関しては「誰か作ってくれませんか?」ってTwitterで募集すると、作ってくれる人が現れるらしい。

朝倉:いいよね、そういうゆるふわなプロジェクト。

大室:うん。それ見るとすごい今風だなぁと思う。

ビジョン共有型組織のビジュアル系バンド

朝倉:一方で、ビジュアル系ってどう考えてもメンバーシップ型だよね?

大室:そうだね。
ビジュアル系って多分音楽的な技巧の差よりも、どちらかと言うと世界観を共有してるってことが重要になるからメンバーシップ型なんだろうね。
でも、面白いのが、ビジュアル系も亜種になればなる程、演奏が上手くなっていくじゃん。あえてビジュアルっていうやつ。簡単に言うと、筋肉少女帯と聖飢魔IIって演奏最強なんですよ。

朝倉:うまいよね。誰をとってもめちゃめちゃうまいもんね。

大室:そう。あの2つは最強。あの人達って極めてインテリな人達が、敢えてやっている感じするじゃん。あと、向こうのKISSを日本風にやるとこうなるのかっていう批評性とパロディ感があるんだけど。後、「変なビジュアル」と言えばねずみ男ルックの人間椅子も見た目に反しめちゃ演奏が上手い。
ツッコミを受け付けないガチのビジュアル系バンドは、一糸乱れぬ世界観を共有しないといけないからメンバーシップ型が向いてるんだろうなぁ。

朝倉:ひとつ間違えるとコミックバンドすれすれの「なんちゃって」感のある方が、確かになぜか技巧的な傾向はあるのかもしれないな。その意味ではジョブ型組織感あるよね。
逆にガチのビジュアル系バンドは、その世界観に全然そぐわない姿形の人が来たら困るよね。メンバーシップ型って要は終身雇用で、組織に最適化していくってことなわけでしょ?

大室:うん。個々人が。

朝倉:だからバンドに特化して「社内スキル」が研ぎ澄まされていくという点においては、ビジュアル系はメンバーシップ型であるのかもしれない。

大室:ビジュアル系はメンバーシップ型だね。

朝倉:ヒップホップはジョブ型。

大室:ヒップホップは「職業」としてはジョブ型向きだけど「態度」としてはファミリーを大事にするっていう。すごく面白いよね。

朝倉:確かに。BAD HOPなんか、メンバーに兄弟がいたり、幼少の頃から一緒だったりするんでしょ?ゆるふわギャングは彼氏彼女だしね。

大室:AORとフュージョンとか、このへんはジョブ型が多い。これでなんとなくバンドがメンバーシップ型かジョブ型か分けられてきたね(笑)とりあえず中学校で出会った友人と続けてたら、そのバンドはガチメンバーシップ型です。

朝倉:そう思うと、我が青春のミッシェルガンエレファントはメンバーシップ型だったんだよね。オリジナルメンバーに代わってアベさんが入ってデビューしたんだけど。
切ないのは、アベさんがお亡くなりになる前にチバさんがThe Birthdayが始めたじゃん?その時にドラマーのキューちゃんだけは参加したわけよ。
女々しいのかもしれないけどさ、メンバーシップ型のバンドがスピンアウトしていく様って、元のバンドが好きだったファンにとっては悲しいよね。
考えてみるとミッシェルも、もともとはメンバーシップ型で始まったものの、ジョブ型志向に傾いた結果、バンド名の看板を掛け替えて実質的なジョブ型移行を果たした組織なのかな。
メンバーシップ型組織からジョブ型組織への移行が「働き方改革」のメッセージなのだとすると、「働き方改革」って切ないね。

大室:そうか、ミッシェルガンエレファントは明治学院だったしね。サザンオールスターズみたいに、大学で出会ったという、ある程度の音楽素養と趣味でフィルタリングされた後に集まったというメンバーシップ型もあるし、この辺りは完全に2つに割り切れるわけではなく色んなパターンがありますね。
自分の好きなバンドをそうやって眺めてみると面白いんじゃないでしょうか?

朝倉:何?この深夜ラジオ感。

本稿は「論語と算盤と私とVoicy」の放送に加筆修正した内容です。
(編集:代 麻理子)


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