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ポピュラーサイエンス

からだの内側からにじみでるような湿度の高い暑さがやってきて、7月になってしまった、と思った。体調はもうすっかりよくなって、きょうはアイスクリームを食べて、夕飯にビールを一口だけ飲んだ。うれしい。もう食事療法をしなくてもよさそうなので、様子をみつつあれこれ解禁してしまおうと思う。あとはうしなってしまった気力を回復させるだけ。日記は5日くらいさぼっている。日記に飽きた。明らかな異常事態が続く日々に対して、特筆すべき“大いなる些事”を見失いつつあるからだ。疲れている。生きるのに忙しい。

土曜日は楽しみにしていた映画『ストーリー・オブ・マイ・ライフ わたしの若草物語』を観た。とてもよかった。若草物語で一番好きなジョーを演じているシアーシャ・ローナンはすばらしかった。あの時代で女流作家を目指すということの困難さはもちろん、創作に対するたくさんのヒントに富んでいた。じぶんの作品を批評されることの怖さ、スイッチが入ったら夢中で書き続けられるあの引力のこと、ものを書いている人にはぜひ見てもらいたいし、感想を語り合いたいなと思った。終盤では、時代背景として描かれていたけれど、すてきな活版印刷とアナログ製本のようすも映し出されていてうっとりできる。時間軸の描写がすこしわかりづらいけれど、4姉妹のにぎやかな暮らしぶりは見ているだけで楽しいし、古典をベースにしつつも時代に即したバランス感覚のよい映画だった。創作についてはもちろん、結婚観や愛についての名シーンづくし。好きな人に好きになってもらえないこと、好いてくれる人を好きになれないこと、その痛み。終盤の展開がよくて、すこし泣いた。しかしなんといっても、幼なじみのローリーを演じるティモシー・シャラメの魅力的なこと……。あんな青年が近所に住んでいたら、ほかに求めるものなんかなにもいらないと確かに思えてしまうようなたたずまいだった。『call me by your name』の彼もすてきだったが、一段と色っぽく成長していてよろこばしいことだった。次回作も観たい。夕方すこし仕事。もうこういう生活にも慣れてきた。

都知事選挙は午前中のうちに済ませてしまった。雨が降っていて不快だったけれど、やるべきことは早めに済ませてしまいたいときょうは思えた(いつもは先延ばしにしがち)から出掛けた。タイミングがわるかったのか、珍しく長蛇の列。感染対策、マスク、アルコール消毒。さっくりと済ませて、帰り道でずっと食べたいと思っていたケーキ屋さんのクッキーを買った。ふだんメーカーのクッキーなんかはぜんぜん好きじゃないのだけれど、こういうお店のそれの、バターのきいた、やわらかく崩れる食感はとても好き。あしたからのおやつにしようと思う。食べたいものが食べられるよろこびをいまは謳歌する。

夕方からきれいに雨がやんでしまい、どしゃぶりの中出掛けたのをちょっと後悔する。投票率はきっとずっとよくないだろうと思ったが、どうやら予想ははずれなかったらしい。ひとはそう簡単に変わらないということがよくわかる。ひとびとはもう、社会にたいしてあまり興味がないのだろう。誰も助けてはくれないし、誰のことも助けない社会がやってきた。じぶんが声高になにかを叫べばよかったか? ちがう。何をすべきか、ほんとうは誰もが知っているはずだったのだ。ただ生きるのに忙しく、疲れている。“どう生きるか”なんて考えられるのは、2020年の東京をもってしても、所詮は特権なのかもしれない。絶望すら自己責任の世の中で。


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