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以外と思われるかもしれないが、不採用になって実はホッとした

以外に思われるかもしれないが応募した案件が不採用ということになってホッとした。選考に数日要していたのでもしかしたらダメだったかもしれないと思っていたが、やはりその通りになった。その連絡は、いわゆるお祈りメールという形で知らされた。僕はそのような結果になって残念でもありながら、実は内心ホッと胸をなでおろしたという気持ちがあった。

今回の案件は、仕事の内容や条件面でかなり妥協して応募したものだった。しかも、応募した案件とは違う勤務地を打診され、その勤務地での案件も含めて面接で相談するということだった。まあ、僕としては打診された勤務地は遠方であったため、できればもともと希望していたところで働きたいという気持ちが強かった。それでも、もし自分の能力や経験に期待されるのであれば前向きに検討したいとも考えていた。そして面接に臨むと、候補にあがっているすべての案件について面接の場で双方の意見を交換するのではなく、すでにできれば避けたい遠方の案件一択になっていた。僕は面接の際、希望していた方の案件はすでに充足してしまったのかと問うと、はっきりした返答は得られなかった。釈然としないながらも僕はすべての可能性が残っている限り、ポジティブにとらえていた。

一方で、個人的に条件面で妥協しにくいこともいくつかあった。特に低い給与水準と限定的な通勤費で、通勤費については定期代がいくらになるのか調べてみると、完全に上限を超えてしまうことがわかっていた。そのため、僕は面接官に、仮に遠方での勤務になった場合には、限定的な通勤費について考慮されるのかと尋ねた。それについても明確な返答は得られず、検討するという返答にとどまった。まあ、率直に考えても、先方から遠方の勤務地を打診しておきながら通勤費は限定的なもので、もし上限を超える場合は自己負担でお願いします、と聞こえたような気がした。誰がどうみても、そのように解釈されてもしかたがないようにも思える。

仕事の内容についても、キャリアコンサルティングは限定的なもので、むしろその他多数の事業運営にかかわる業務が主であるという点も自分が妥協していた点であった。むしろこの仕事の内容が自分の中で一番優先されるものである。それをこのような対人援助職という仕事をより多角的な視点に立って業務にあたることによって、新しい発見がみつかるかもしれないし自身の成長にもつながるかもしれないと考えていた。そういうあくまで前向きな考えのもと妥協して面接に臨んだのだった。

それが蓋を開けてみると残念な結果におわった。しかし、冒頭で書いたように、残念に思う反面、肩の荷がおりた気にもなった。僕が今従事している仕事の業界では、まあ世界が狭いというか、業界内でさまざまな声が漏れ聞こえてくる。その中でも、この業界内でのそれぞれの企業に対するイメージや評価というものがあちこちでなされていた。僕も前職時代に、今回応募した企業についての業界内での評価というものを聴いていた。確かにそれらは主観的なもので確たるエビデンスに即したものではないことは確かである。しかしながら今回、その企業に応募し面接を受けることで、そのような企業イメージが確証に変わった。「あそこは評判よくないよ」という先行したイメージが、「やっぱりか」という確証に変わった瞬間でもあった。

あくまで自分を客観的にみたとき、業界内で評判のよくない企業に仮に評価され採用された場合、自分自身をどのように評価すればいいのか迷うと思う。自分は大丈夫かなと。それでも、実際にその企業に入ってそこで仕事をしてみなければわからないことも確かである。しかしながらこれは、世論調査と同じようなもので、多くの人が評価していることは往々にしてその評価が正しいということもある。そういう意味で、客観的な視点で今回の結果をとらえたとき、残念な結果におわったがさまざまな要因を考慮にいれても、気持ちの面では内心ほっと胸をなでおろしている自分がいたことも事実である。

今回の案件の選考を待っている間、別の案件への応募を検討していた。まずは現在の選考結果を待って応募するのか、それとも選考結果を待たずに応募するのかの選択に迫られていた。内心おそらく不採用になるだろうと思っていたので、先に進むためにも早く応募するほうが賢明であるとの判断で書類を送付した。次へのステップとして、先に進めるためにも優先順位をさだめ、自分の認知資源を有効活用しながら集中されることが重要である。特に、選考にかかわる数多くの希望条件や要因を把握し、優先順位をつけ、その時その時に最善の判断を下すことは非常に高次の認知的判断を求められる。また、あらゆる情報は、自分の主観が優先されることから客観的に考えることが重要と言われている。しかし、そのようなことがすでに自我消耗、すなわち認知資源の枯渇につながり、適切な判断を阻害するものと考えられる。

自分が応募する者の立場になって考えたとき、応募者は自分の中でさまざまな事柄について優先順位をつけられずに迷っていることが予想される。また、自分の中で優先される事柄に固執するあまり、適切な判断が下せなくなることも予想される。そういった意味で、キャリアコンサルティングにおける、選考にかかわる判断・意思決定の支援では、非常に高度な対応が求めらる。特に、支援対象者がどのようなことを優先させ、何を希望しているのかの把握がこの段階では重要である。今回は自分がその支援対象者の立場になって経験してみたことで、自分を客観的にみてわかったことも多かった。自分ではこまごましたあらゆることが見えていてわかっているからである。

しかし、それが他人であればそうもいかない。人が物事をどのようにとらえ、何を優先させ、希望しているのか。また、それらの根拠となるものとしての意図は何なのか、ということを面談の中で確認することがキャリアコンサルティングの現場で求められる。ある意味、今回はリアリティを伴った壮大なロールプレイだったようにも思える。自分が支援対象者の立場で選考に臨むにあたることで、支援対象者のことがよりわかったような気もした。いや、わかったような気がしただけでなく、実際に経験することでそうであると理解し、確証に変わった。

選考の段階での人の思考や感情や意図というものは非常に複雑で他者からはなかなか見えづらいものである。自分のことならわかるけども、それが他者となるととたんにわかりにくくなる。そこで重要になってくるのが、いかにして引き出すか、という高度な技能である。他者の内面的世界をどのようにとらえるか、またそのことによってその相手に、こちらはあなたのことを十分に理解していますよ、という姿勢を示し、相手にそれを認識させることが重要でもある。キャリアコンサルティングの各段階で、往々にして最初のラポール形成がもっとも重要な段階だとされている。確かに、支援対象者と良好な信頼関係を構築するためには最優先課題でもある。しかしながら判断・意思決定の段階では非常にデリケートさを要求されると思われる。それは、その判断・意思決定の結果によって、その人のその後の人生の成り行きを左右させるからである。僕らはこの仕事をすることによって、多くの人のその後の人生を豊かなものにするかそれとも苦労させるものにさせるかの岐路に立たされ、非常に重要な任務を任されていることを常に認識しておく必要がある。

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