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計画性の高いはずの日系企業でも苦戦する中国市場。

立派なタイトルを付けてしまいました。

ここ数ヶ月ゼロコロナが明けてから中国への渡航頻度が増えまして、色々と感じるところがある今日この頃です。
今日は中国生活の雑感を、徒然なるままに書いていこうと思います。


1.最近印象的だった一言。

今年の夏頃から、私はある企業さんの中国子会社で外部顧問として携わらせてもらっている。

ご挨拶に訪れた、とある銀行の担当者さんとの交流中の一幕。

「今が中国経済の底、だと思いますか?それとももう少し続くと思われますか?」

この会話が繰り広げられたのは、今年の8月くらいの話だ。

市場経済の端っこで細々と生きている私なので、そんな途方もない中国経済について回答することに対して少し憚られたが、
何も考えずに、
「かなり底の方ではないかと思っていますが、ここから上向くことを期待しています」
などと、かなり楽観的なことを答えてしまった。

その後、しばらくしてその彼と再び会う機会があった。

気になっていた例の質問の意図、そして彼なりの答えを教えてくれないかと請うてみた。
流石の銀行マン、難しい理論的な話が続いたが、結論はこうだった。

「かなりのドン底だと思いますが、まだ底がありそうです」

更にこう一言、付け加えてくれた。

「景気状況は業界によってバラツキがあります。ただ、あなたの良くなることを期待している、という前向きな考え方こそ、一番大事だと思います」と。


私のスットンキョウな答えも彼は肯定してくれたが、経営は時に前向きであることも必要だが、論理的かつ客観的な分析に裏付けられていることも重要だ。

もちろん私は絶望的に後者のような客観的分析センスを持ち合わせていない。

例のやり取りから、半年近くの月日が流れた。
実際の中国の景気状況は私が思っていたよりも、かなり悪く、まだ抜け出せていない、というのが第一感だ。

ただ、一方で以前は私と同じようにコロナ禍が明けて一気に経済回復すると思い込んでいた楽観的な意見が多かったようにも感じている。

「さあここからだ!」と思って意気込んでいた企業が、
その楽観的希望が反発した状況に直面したことで、
多くの人間が「悪すぎる」と錯覚しているのだと、他人事のように思っていた。

しかし、実際にそれはそれであながち間違いでもない。
中国市場は急激に緩やかにはなったが、成長は続けていることもまた事実だ。

160キロを投げる剛速球ピッチャーが投げた変化球につんのめって空振りするように、
中国市場に対する期待値が高すぎるが故に、突如として切り替わった平常運転に大きな落差を感じるともいえる。

むろん、知り合いの企業も撤退や縮小の噂を嫌というほど聞く。
商売が儲かって仕方ない!なんていう話をほとんど聞かない。

ビザの問題もあるだろうが、ぱったりと日本人を見る機会が少なくなった。
以前は日本人だらけだった上海市の蕎麦屋も閑古鳥が鳴いている。

苦境にあるのは、日本企業だけではない。
止まったままの不動産開発現場を多く目にするし、渋滞も以前に比べて少なくなったままだ。
中国企業でもリストラのニュースを毎日のように目にし、景気に敏感になるはずの弁護士や税理士でさえも「不景気だ」と口にするようになった。


重複するが、ただただ不景気だ、というのは簡単。
不景気の体感尺度が何をもってなのか、ということも考える必要がある。

以前のようなイケイケの中国がすぐに戻ってくるような可能性は低いかもしれないものの、一方で生き残る道はまだまだたくさん残っているのも事実。

再スタートなのか、撤退なのか、それとも継続か。

日本のニュースなどを見てもそれらが語られずに不動産バブルの崩壊だけにフォーカスするのは違和感も感じるところだ。

不必要な悪が淘汰され、正当な市場で本質が生き残る流れになれば、むしろ日本企業にとってもまだまだ伸びしろがあるのではないか。
これが私なりの当面の結論である。


2.慎重な日本企業の良し悪し。

私はサラリーマンの駐在員時代から結構好き勝手やらせてもらってえた環境だった。
おかげで個人的にはかなり決断力が磨かれたが、景気が好調であれば独断的な決断も好結果を生みやすい。

景気がいい時こそ、判断の良し悪しよりもスピードが重視されるからだ。

時に独断で好結果ばかり生まれると「俺ってすげえ」なんて勘違いすることもあるが、この不景気な状況ではかなりリスキーである。


一方で、日本企業は中国で、対応が遅いと言われることがままある。
行け行けドンドン状態だった中国の経済状況であれば、確かにその通りでもある。

しかし、その冷静な判断と、民主主義的な判断は、スピードには欠くものの、失敗を生みにくいのも事実だ。

上向きな景気が一旦落ち着いてしまった今こそ、日系企業の正念場だと私は信じている。

だが、そんな冷静で慎重な日系企業でもリストラなどの中国子会社の規模縮小が続く。
改めて中国で商売をすることが日本企業にとってどれだけ難儀であるかが分かるし、
そんな慎重な日系企業でも突如として想定外の窮地が訪れるのだから、これらは中国景気の急激な低迷を意味しているとも言えそうだ。

冒頭の銀行マンとのやり取りのように、業界が違えば状況も違う。
耐え忍ぶためのリストラ敢行でもあるかもしれないが、現状を踏まえ冷静に経営体制を整えていくこと、これを徹底することも大事だ。

思えば、私の知り合いの中国人社長らはかなり前向きな人が多い。
日本企業と比べて計画性がない人が多いからだ。
不景気を経験したことがないからだ。
と言えばそれもそれで正しいかもしれないが、とにもかくにも弱音を吐くことが少ない。

縮小や撤退は悪いことではない、未来への一歩だと思っているフシも中国企業、中国人経営者には多いように思う。
それが前向きなのか、見通しが甘いかはさておき、その意気は見習いたいものだ。


3.中国の温浴施設の景気状況

私の本業である「温浴業界」も苦境に喘いでいる。

日本の温浴文化は、世界的に見てもかなり稀なもので、そもそも至る所にお風呂が存在している。
スーパー銭湯、ホテルや旅館、ゴルフ場や介護施設、もちろん各家庭のほとんどにもバスタブがある。

「安近短のスーパー銭湯は不景気に強い!」

これは以前勤めていた会社の社長の口癖だった。
確かに身近にある安いレジャーであれば、景気の影響はそれほどでもないかもしれない。

ところが、中国の温浴施設は安近短というよりも、少しばかり余裕のある人が時間を使って利用する高級品に近い感覚だ。
お風呂に入る行為も決して必須な日常ではない。

相当なお風呂マニアではない限り、家計を紐解けば真っ先に無駄だと言われて、削られやすいコストとなってしまう。


また、お風呂屋さんを開業するに当たって、最初に確立せねばならないのが、開業場所、いわゆる不動産である。

以前の中国でも投資家はまず立地等を考慮して不動産業者と交渉をする。

今はその時点でケチがつくようなする傾向を感じる。
投資家にとっても先行きが見えづらい状況下の投資でもあり、昨今の中国市場で最もやり玉に挙げられている不動産業界である。


不動産開発に近しい業界の方から少し興味深い話を聞いた。

とある場所で不動産開発の計画があったが、この度の状況下で地方政府も中国企業も当該不動産開発を慎重に進める方針に切り替わった。

その中で最もネックとなった条件の一つが、
開発前にテナントの8割を確約してからスタートしよう、というものだ。

実際に中国の地方都市などで、開発は終わったもののテナントががら空きという状況はよく目にするものだ。
しかし、だからと言って何年後に開業するか分からない施設のテナントに名乗りを上げる企業などいない。

テナント契約の詳しい条件こそ分からないが、契約相手はそれこそ景気の影響をモロに受けている不動産業界だ。

地方政府も慎重にならざるを得ない現状を表している、悪循環がところどころで目に見える事象だ。

もちろんそうなれば、一つのサービス業でもある温浴施設も当然影響を及ぼす。
開発も慎重、投資も慎重、これで良いサイクルが生まれるはずがない。


4.中国人スタッフの衝撃発言。

さて、最後はちょっと気晴らしの日常の話。

中国のことなら何でも分かる!と、豪語するつもりもありませんが、
中国通の私でも「中国人って分からん!!」と思わず投げ出したくなることも、いくらでもあります。

多くの駐在者さんが体感するはずですが、日本的な考え方を一方的に押し付けることは、海外生活や海外ビジネスではご法度です。
ただ、頭では理解していても、なかなか根本は変えられないものです。
それは10年も中国にいた私でも同じです。


とある中国人スタッフが、仕事をさぼっていることが判明しました。
中国ではよくあることだ、と片づけるのは簡単ですが、風紀を乱す行為を野放しにする訳にもいかず、当該スタッフ(38歳)と面談をしました。

「会社がこういう状況であるにも関わらず、あなたの行為は見過ごすことができない」
「権利ばかりを主張するのではなく、社員としての義務を果たしなさい」
「あなたはもう立派な社会人で、新人でもありません、恥ずかしい行為で、すぐに改めなさい」

私もこんなことをコンコンと説教したくはありません。
頭の痛い仕事です。

彼も自分の非をすぐに認めましたが、より彼が良くなってくれるために、と諭すようにかけた言葉が、全く相手に伝わらなかったがショックでした。

「こんなレベルの低いことで怒られて、自分の両親や家族、子供に対して恥ずかしいと思いませんか?」

家族を大事にして、メンツも大事にする中国人です。
家では子供に「勉強しなさい!」などと叱責している自分が、
会社の上司からこんな低レベルな行為で叱責されて恥ずかしくないのか?ということを訴えました。


多くの人間が、毎日一生懸命仕事をしていますが、その理由は、
「お金」のため、「やりがいや達成感」、「地位や名誉」などなど、色々とあるかと思います。

その中でも気が付きにくいですが、例えば子供に尊敬されるような仕事だったり、金銭だけではなく家族から誇らしい人だと思われるような仕事をしている、
「仕事への誇り、親族に対しての誇り」を感じることがあるのでは、と軽い気持ちで掛けた言葉でした。

ところが彼は「私の仕事中の行為と家族が結びつく意味が分からない」というのです。

別に価値観を押し付ける訳で諭したわけではないのですが、あまりに伝わらない価値観に私も頭が一瞬混乱してしまいました。

「私は朝会社に行き、一か月に一度家に給料を持って帰る、仕事はそれ以上でもそれ以下でもないでしょう?」
「仕事の内容や成果と家族って関係あります?」

ときたもんだ。

私も思わず「自分の子供に、お父さんはこんな立派な仕事してるんだぞ!とか自慢することないの?」と問いました。

予想はしていたものの、彼の答えは明確ですっきりしていました。
「ありません!」と。


決して必ず伝えなければならない話ではなかったので、価値観の押しつけは止めて、「ま、まあ、、とにかく仕事に集中するように!」
とか言って面談を終了させましたが、なんだか勝手にモヤモヤが募ってしまいました。

私ったらなんだか頑固オヤジみたいで、恥ずかしい。。。

と、思わず反省してしまいましたが、
価値観を合わせることって、確かに絶対事項ではないかもしれないけど、
なんだか豪快な空振りに終わった人生訓が空しく私の頭の中にモヤモヤを残したある日の出来事でした。。。

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