ポストコロナ時代に定着するハイブリッドな働き方
コロナ禍では多くの企業がリモートワークを導入したが、2022年は徐々に通常勤務へと戻す出口戦略が模索されている。しかし、働く側はリモートワークを経験したことで様々な利点を知り、コロナ収束後も継続して欲しいという要望が大きい。
米国のリモートワーク専門求人サイト「FlexJobs」が2021年に行った調査によると、パンデミック後も週5日のリモートワークを希望する者は、回答者の58%、リモートと通勤を両立させたハイブリッドワークの希望者が39%となり、パンデミック前の通常勤務(週5日通勤)を希望するのは、全体のわずか3%という結果になっている。さらに、会社がリモートワークを認めない場合は、転職を検討、実行しようとする者は4割を超している。
これら希望者の中では、雇用主がリモートワークを継続することと引き換えに、給与や休暇が減ることを容認しても良いと考えている。それは、リモートワークによって、時間と生活費の無駄を省くことができ、トータルでみればプラスの効果が大きいという判断によるものだ。子育てをしながら働く場合には、リモートワークでは、年間1万ドル以上の生活費を削減できると回答した世帯が、全体の2割を超している。
世論調査会社のGallup社(ギャラップ)が行った調査でも、米国内でワクチン接種率が50%を超した2021年5月以降も、フルタイム労働者の45%は週に数日のリモートワークを継続しており、ホワイトカラー職では65%にもなる。雇用主がリモートワークを認めない場合には、10人に3人が別の仕事を探す可能性が高いと回答している。
このように、2022年の労働市場では、リモートワークの終了が人材流失に繋がる恐れがある。米国では、社員に対してオフィスへの復帰を強要することが、新たな労働争議の火種となっており、これまでのように週5日のフルタイム通勤をする勤務体系には、完全には戻らないだろうと予測されている。
労働者が理想としているのは、通勤と在宅勤務の日を柔軟に振り分けられるハイブリッドワークの形態であることが、上記の調査からも明らかになっており、従来のオフィス文化を見直す必要に迫られている。しかし、今後もオフィスの存在が無くなるわけでは無く、役割や機能をリニューアルすることで物件価値を高める動きが出てきている。
【再定義されるオフィスの役割】
リモートワークが普及するとオフィスは使われなくなり、空室が増えて家賃相場が下がるという予測がある中で、コロナ禍の不動産市場は異なる動きをしている。商業不動産の市場分析を行うCommercialEdgeの月次レポート(2021年12月)によると、米国オフィスの家賃相場は崩れておらず、大都市では前年同月比で上昇傾向にある。
その理由としては、社員間のソーシャルディスタンスを保つためにオフィスを増床することや、オフィスの仕様をフレックススペースへとリニューアルさせるニーズが出てきているためだ。仮に、仕事の5割を出勤、残りの5割をリモートで行える勤務体系にしても、社員が出勤したいのは、同じタイミングに集中する傾向があるため、オフィス面積を半分の縮小することは現実的に難しい。
そのため、企業オフィスをコワーキングセンターのような機能に変更することがフレックススペースのコンセプトになっている。固定席は設けずに、社員が出勤したい日時に必要なスペースを予約できるようにしたり、取引先のフリーランスにもオフィス利用の権限を与えることで、従来型の組織構造に囚われずに、外部とのコラボレーションもしやすくなる。こうしたオフィス用途の変化に対応するため、フレックススペースの機能を提供するビジネスが伸びている。
オフィスのコワーキング化は10年以上前からのトレンドだが、パンデミックを転機としてニーズが大きく変化しており、オフィス物件を中心に扱う不動産業界にとっては追い風と捉えられている。コワーキングの時代的な変遷は、コワーキング1.0~3.0という3段階のステージで、求められるサービスや機能の進化が進化してきている。
コワーキング1.0は、2008年頃から起きた波で、フリーランス(個人)や小規模なスタートアップ企業が家賃コストの負担を下げるためにオフィスを共有するスタイルが人気化して、安価なコワーキングスペースが次々と開発されていった。
次に訪れたのが、コワーキングスペースの高級化やブランド化を追求したコーワーキング2.0の動きで、好立地にあるオフィスビルにハイエンドなデスクや家具を揃えることで、モチベーションを高められる仕事の環境を提供し、一流の人脈作りができるコミュニティとしても活用されていった。
そしてパンデミック以降は、感染対策が強化された空調設備、ソーシャルディスタンスに配慮された余裕のあるスペース、通勤者と在宅勤務者が円滑にハイブリッドワークを行える各種ソフトウエアの提供などが、コワーキング3.0のトレンドとして浮上してきている。このステージでは、フリーランスやスタートアップだけでなく、ハイブリッドワークに対応したい中堅~大企業の中でも利用契約が増えているのが特徴である。
■リモートワークに関連したJNEWSレポート
○メタバースが変える近未来のリモートワークスタイル
○コロナ禍のリモートワークに対応した社食サービス
○パンデミック後の国際ビジネスを変革するWHF経済の特徴
○コロナモラトリアムからの出口戦略とデジタル投資市場
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?