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「アフターコロナのナイトタイムエコノミー 〜街づくりや観光に求められる多様な夜に向けて〜」をテーマとしたトークセッション開催リポート(後編)

アート、スポーツ、エンタ-テインメントなど多様なナイトコンテンツの可能性を探る

前編に続いて森ビル株式会社 新領域企画部 杉⼭央さんと、株式会社ディー・エヌ・エー スマートシティ統括部 都市開発部部長 ⽥島邦晃さんが登壇。ナイトタイムエコノミー推進における最先端の取り組みとして、アートやスポーツを絡めたコンテンツを仕掛ける2人が、それぞれに携わってきたプロジェクトを紹介しました。

デベロッパーを悩ませる共通の課題として、ともすると似たり寄ったりの印象になることを挙げたのは杉⼭さん。チェーン店がテナントとして⼊ることが多く、その結果街の個性が⽣かされなくなるのだといいます。その問題を打破するための方策が、アーティストやクリエイターたちとともに、自分たちで事業を運営することでした。

杉山:本来、不動産事業のベースは床を貸すことですが、ある程度安定的な収益を見込めるとはいえ、収益の上限が決まってしまうという難点がありました。でも自分たちで床を活用すれば、その上限を超えた稼ぎを出せますし、クリエイターやアーティストの発想が、都市や施設の使い方を飛躍させてくれることもありますから、チャレンジすべきと考えました。大切なのは「ここに来ないとできない体験」を創出・運営すること。お客様にはまずここを目指して来ていただき、その帰りにショッピングや食事をしていただくことで、街全体の収益を上げるという構造を目指しました。

旅の目的地となるユニークな施設を目指す

杉山:数あるプロジェクトの中でいちばん大きかったのが、「チームラボ」とのコラボレーションです。森ビル本体から融資を受けて1つの事業体を立ち上げ、お台場に「チームラボボーダレス」というデジタルミュージアムを作りました。規模が大きいだけに社内で反対意見もあったのですが、ふたを開けてみれば大盛況で、世界中から訪れる多くのお客様で連日賑わいました。1年目の入館者数は230万人。その約半数が海外からのお客様で、175か国からお越しいただいています。彼らにアンケートをとったところ、「この施設を目的に東京に来た」という人が全体の50%を占めたことから、東京に人を呼び込む新たな磁力を生み出すことができたと自負しています。

今後の話をすると、今年また2つの新しい街が完成します。1つが麻布台ヒルズ。日本一高いタワーと六本木ヒルズを超える床面積を誇る巨大プロジェクトで、「チームラボボーダレス」がここに移転オープンします。もう1つは虎ノ門ヒルズですが、いずれの街においても、我々の「この場所に来ないとできない体験」を提供しようという姿勢は変わりません。特に虎ノ門ヒルズエリアは、ジャンルに縛られることなく、多彩なアート、テクノロジー、エンターテインメントなど、ありとあらゆる要素の結節点となり、訪れた人にとっては必ず新たな刺激や感動、発見がある、ユニークな施設になると確信しています。

IT事業、スポーツ事業を経て都市開発・運営へ参画

DeNAはIT企業として成長した後、2011年にプロ野球に参入し、横浜DeNAベイスターズの運営を開始。その後バスケットボールの川崎ブレーブサンダース、サッカーのSC相模原の運営にも乗り出、現在は、横浜・川崎エリアの再開発事業にも参画しています。

田島:DeNAは「一人ひとりに想像を超えるDelightを提供する」という理念を掲げ、主にインターネットサービスを展開してきました。現在神奈川エリアで取り組んでいるまちづくりにおいても、Delightを届けながら社会課題を解決していくことを指針とし、エンターテインメント領域を得意とする当社の強みを生かす取り組みを進めています。

現在は横浜スタジアムを中心とした賑わいを拡大させ、隣接する旧横浜市庁舎街区へと展開しているところですが、将来的には横浜公園や市庁舎街区を中心として、より広範囲なエリアマネジメントにも参画したいと考えています。

旧市庁舎街区の再開発では、当社としては、常設型のライブビューイングアリーナを運営予定です。不動産事業と並行してテナント事業、2つの顔をもって開発と運営に携わっていきます。ほかにも、新しく教育のエンターテインメント化を目指したエデュテインメント施設も運営予定です。自社で、こういった事業を行うのは初のチャレンジで、コンソーシアムのメンバーに、いろいろ教えていただきながら事業を進めています。

ブレーブサンダースの本拠地である川崎エリアでも、京急様との共同事業として、京急川崎駅前の1万人規模のアリーナおよび複合施設から成る総合エンターテイメント施設「アリーナシティ」の開発事業を推進しています。現在は設計段階で、2025年の着工、2028年の竣工・開業を目指しています。横浜、川崎でのスポーツ事業、再開発事業で培うノウハウを、今後はほかのエリアにも横展開していけたらよいなと考えています。

スタジアムの賑わいと熱を周辺街区に広げていく“DeNAらしい”サービスを展開

田島:ナイトタイムエコノミーとしては、ナイトゲーム終了後のお客様がそのまますぐに帰ることなく、関内エリアにその余韻を楽しんでもらう仕掛けを考えています。例えば現在試験運用している飲食店の即時予約サービス「Neee(ニー)」。アプリを立ち上げると自動的に空席のある店が表示され、即時予約ができます。検索・空席確認といった手順を省けるのが特徴です。例えば野球を見た後に「4人で飲み行こうよ」という時に便利ですし、小規模店舗とも連動しているので、地元商店街の活性化にも役立っています。今後も自分たちが持つテクノロジーやノウハウを生かした、DeNAらしい仕掛けを考え、街の発展に寄与していきたいと思います。

意義と収益のバランスとって思い切ったチャレンジを

齋藤:全国エリアマネジメントのシンポジウムでもよく話題になったのが、アフターコロナの夜を、街づくりの中でどのように活用していくのか、ということでした。かつてはオフィス中心の街づくりが主流でしたが、コロナで出勤する人が減った今、「新しい夜」のあり方を考えないといけません。先ほど杉山さんも「磁力」という表現をされましたが、今後の街づくりやナイトタイムエコノミーを議論する際、どういうマグネットが必要となっていくのかも話題になっていくと思います。アートという“とんがった”マグネットを選んだ理由を、杉山さんにもう少し伺いたいです。

杉山:ストレートに言いますと、アート作品を見るというのは、他者の考えを理解すること、自分が知らなかった世界を知ることだと思うんです。今はオンラインで何でも体験できますが、だからこそ実際にフィジカルな体験として新しい発見をしたり、他者の考えを理解したりすること、つまりアート鑑賞が人間の生きる喜びとなり、重要度も増してくるのではないかと思っています。

齋藤:もう1点、「チームラボボーダレス」のように革新的な試みは、企業からすると事業リスクを図りにくいところがあると思います。その辺り、事業としての難しさを乗り越えるご苦労や工夫はありましたか?

杉山:何事においても意義と収益の両立は課題となってくると思います。意義だけでなく収益も追い求めないと持続可能になりませんし、収益だけ求めてしまうと、そこでやる意味がなくなってしまう。要はバランスなのですが、ある程度固いビジネスと挑戦的なビジネスを結びつけ、街全体としてマネタイズするのがよいと考えています。ナイトタイムの床の活用もそれに近い感覚ではないでしょうか。ナイトタイムも床を活用することで二毛作的な結果を生み出せますし、昼に手堅く稼いでいるなら、夜は思い切ったチャレンジがしやすくなるのではないでしょうか。

街の経済発展のエンジンはオフィスからエンターテイメントへ

斎藤:田島さん、DeNAは横浜・川崎にスタジアムやアリーナを作ることで、周辺地域をどう変えていこうとしているのでしょうか。

田島:私たちが力を入れたいのはエンターテインメントの側面です。街のエンジンがオフィスからエンターテインメントへと変わってきたと感じています。都市が成熟してくると、産業としては観光産業にシフトせざるをえませんし、労働時間が少なればエンタメの需要が高まるはずです。それを前提に考えると、スタジアムやアリーナは街のエンジンとなりえるわけです。そうした施設の運営に加え、先ほどお話した「Neee」など、私たちが持つテクノロジーを生かして街のすみずみまで経済という血の流れを行き渡らせ、街全体の繁栄へとつなげていきたいと思います。

齋藤:スポーツ観戦後の街での体験まで設計されているというのがすごいと思いました。スポート観戦の興奮や感動の余韻をいかに冷めさせず、街の賑わいにつなげていくか。最近だと「余韻都市」という書籍で論じられていたりもしますね。田島さんがおっしゃるように、ナイトタイムエコノミーというのは、ひとつの経済圏を作ることだと思います。アートやスポーツと絡めた都市開発も、まだまだ広がりを見せそうですね。

アフターコロナにおける海外のナイトエコノミー事情

最後に登壇したJNEA理事 梅澤高明は、ベルリンやUKにおけるナイトエコノミーの現状を、現地でのヒアリングに基づき報告しました。

梅澤:ナイトクラブが街のカルチャーの中心かつ観光コンテンツの中心にもなっているベルリンでは、2020年3月にコロナが勃発したとほぼ同時に、クラブが自主的に営業をやめています。政府にロビーイングをして補助⾦を確保したり、クラブ連携によるオンライン配信イベントで世界から寄付⾦を募ったりして、コロナ禍によるダメージを最⼩限に抑えました。またベルリンでは、今までエンターテインメント施設として運営されてきたナイトクラブを、付加価値税が低い「文化施設」として認めさせようという働きかけがあり、政治家たちも法制化に向けて動き始めたと聞いています。

一方、政情が不安定で、⾼インフレと治安悪化に苦しむUKでは、ナイトクラブの数がコロナ前に比べ4割減少。特に都市の⽂化的⽣態系の発展において重要な役割を果たしてきた独⽴系ベニューの減少が深刻です。オーナーの個性が反映された独自路線の店を、比較的大資本の事業者が買収するというケースが多発しているそうで、「小規模な独立店こそが新しい文化を生み出していく起点になるので、そうした店が減っていくのは大変な痛手」だとの声が多く聞かれました。

コロナの影響による、世界各都市に共通する重要な変化としては、以下の6点が挙げられます。

①都⼼部におけるオフィス需要の減少、飲⾷店・商業店舗の退店
②エネルギーコスト増と労働⼒不⾜が店舗事業者の重荷となる
③現場感や⼈との繋がりを求めるニーズは強く、コロナ後にリアルライブが⼀気に復活
④外出頻度の減少・帰宅時間の早期化、企業イベントの減少によるベニューの収⼊減
⑤コロナをきっかけにオンライン(メタバース含む)公演や屋外イベントが増加
⑥⼀⽅で、地場のアーティストが成⻑し新たな⽂化の芽も⽣まれる

現在、各都市で⼤きな課題となっている、需要が減少した商業地の再活性化において、ナイトタイムエコノミーが果たす役割は⼤きいと考えています。また、⽂化度の⾼い独⽴店や小規模店舗、いわゆる小箱の保護や新進アーティストの育成など、採算ベースに乗りにくいことに対する努⼒も、都市の⽂化⽣態系の維持には不可⽋です。では具体的にどうしたらよいのか。ここにお集りの皆様とも知恵を出し合いながらその方法を探り、日本の都市の魅力も高めいけたらと願っています。

様々なステークホルダーが集うネットワーキングの場へ
トークセッション終了後は、主要デベロッパー各社をはじめ、中央・地⽅⾃治体、⾳楽・ライブ・観光・飲⾷関連事業者等の参加者の多くが東急歌舞伎町タワー『JAM17』に残り、今後の夜を盛り上げていくための会話で盛り上がりましたl。ナイトタイムエコノミーは個々の事業者やアーティスト、クリエーターだけで実現できるものではなく、公民様々なステークホルダーの連携が不可欠です。ナイトタイムエコノミー推進協議会は今後も様々なイベントを企画していきますので、ぜひご参加いただけますと幸いです。