大半は乳頭がん。進行度や大きさで治療方針を決定 甲状腺腫瘍
疾患の特徴
良性と悪性があり、鑑別が重要
甲状腺は喉ぼとけのすぐ下にあり、気管を前から取り囲むように位置する内分泌臓器です。蝶が羽を広げたような形をしています。骨や神経、精神などの成長・発育や新陳代謝を促すホルモンを分泌します。
甲状腺に発生する腫瘍は20〜50代の女性に多く見られます。良性と悪性があり、それを鑑別することが重要です。良性はしこりが柔らかく、押すと動きやすいのが特徴です。悪性は触ると、硬くギザギザとしていて、押してもなかなか動きません。
甲状腺腫瘍は症状がしこり以外、ほとんどありません。そのため、早期の自覚が困難です。進行すると甲状腺の周辺にある、声帯の動きを司る反回神経や食道などに影響し、息苦しさや声のかすれ、飲み込みにくさなどの症状が生じる場合もあります。さらに進行して肺や骨などに転移することもありますが、それでも呼吸困難や骨の痛みなどの症状が出ないケースさえあります。
超音波検査で悪性が疑われる腫瘍が見つかった場合には、その部分に針を刺して細胞を採取し、顕微鏡で調べる細胞診検査を行います。悪性の場合にはCT検査で病気の広がりを調べ、治療方針を決定します。
悪性腫瘍には乳頭がん、濾胞がん、低分化がん、髄様がん、未分化がん、リンパ腫など、さまざまな病理組織診断名があります。そのうち9割を占めるのが乳頭がんです。
主な治療法
遺伝性の髄様がんは全摘を選択するケースも
悪性腫瘍の治療は、手術が基本となります。腫瘍のタイプや進行度などに応じて、手術後に放射性ヨウ素内用療法、薬物療法などの治療を行います。
悪性腫瘍の約90%を占める乳頭がんの治療では、進行度から将来の再発リスクを判断し、超低・低・中・高の4段階に分類します。管理方針はそれぞれの段階に応じて決定します。乳頭がんは進行が遅いことから、腫瘍の大きさが1㌢以下でリンパ節や遠隔臓器に転移がない(超低リスク)場合、手術をせずに様子を見ることもあります。
乳頭がんの手術は甲状腺の片側、もしくは全部を切除し、周辺のリンパ節も切除します。全摘の手術を受けた場合は、甲状腺ホルモン薬を生涯にわたり服用する必要があります。
放射性ヨウ素内用療法では、ヨウ素が甲状腺細胞に取り込まれやすい性質を利用し、手術後にわずかに残る甲状腺細胞を減らすために放射性ヨウ素が入ったカプセルを内服します。また、手術が困難な再発・転移例の治療の際にも用いることがあります。
薬物療法では主に甲状腺刺激ホルモン(TSH)抑制療法が行われています。下垂体からのTSHの分泌を甲状腺ホルモン薬の服用で抑え、腫瘍の増殖を防ぎます。
頻度は低いですが、乳頭がん以外にも注意が必要な悪性腫瘍があります。髄様がんは遺伝性疾患(多発内分泌腺腫瘍症)として発症するケースがあります。遺伝性の髄様がんだと甲状腺の両側に腫瘍が発生するため、全摘が選択されます。また腎臓のそばに位置する臓器である副腎に腫瘍ができることがあります。その場合、副腎を甲状腺より先に治療する必要があります。
悪性腫瘍の中で最も進行が早いのが未分化がんです。手術や放射線治療を行いますが、進行を抑制する有効な治療法は確立していません。
近年では再発や転移に対する治療として、分子標的薬が使われるようになりました。新たな治療である分子標的薬治療は、がんの増殖や転移に関わる特定の分子の働きを抑制する薬剤として、注目を集めています。
※『名医のいる病院2023』(2023年1月発行)から転載