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検査技術の向上で早期発見が増加 肺がん

がんの臓器別死亡数を見ると、肺がんは男性で1位、女性で2位となっており、「怖い病気」というイメージを持つ人が少なくありません。しかし近年、診断技術の向上で初期段階で発見されることが多くなり、早期に治療することで治癒できる機会が増えています。


疾患の特徴

CT検査の普及で早期発見・早期治療が可能に

 肺を構成する気管支や肺胞の細胞のがん化である肺がんは、細胞の形態と細胞障害性(殺細胞性)抗がん剤の効きやすさから小細胞がんと非小細胞がんに大別され、非小細胞がんは腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんに分類されます。
 小細胞がんは肺野や肺門で発生、増殖が速く、転移や再発しやすいがんです。腺がんは主に肺野で発生、最も患者数が多い肺がんですが、小型で初期に発見できれば治癒しやすいです。扁平上皮がんは肺野・肺門で発生、喫煙との関係が指摘され、咳や痰などの症状が現れやすく、初期でも再発リスクが15〜20%の疾患です。大細胞がんは肺野で発生、増殖が速いのが特徴です。
 肺がんの初期は症状がほとんどありません。徐々に咳、痰、血痰、息苦しさ、胸痛などの症状が現れます。いずれも他の呼吸器疾患でも見られる症状ですが、複数の症状があるようなら、早めに医療機関を受診しましょう。
 最近肺がん患者が増加の傾向にあるのは、CT装置が全国に普及してどこでも比較的簡便にCT検査が行えるようになったことと、検診で被ばく量の少ない低線量胸部CT検査の使用が多くなったことが理由です。従来の胸部X線検査では骨や心臓に隠れて見えにくかった部分が鮮明に見えるほか、「すりガラス陰影」と呼ばれる白く淡い影を確認して、早期がんと診断するようになりました。

主な治療法

胸腔鏡による低侵襲手術が治療法の中心

 肺がんの主な治療法は他のがんと同様、手術・放射線治療・薬物療法で、病期(ステージ)、がんの種類、患者さんの状態によって、特定の治療法を選択したり、複数の治療法を組み合わせたりします(集学的治療)。
 手術療法は肺がんがある肺葉と周囲のリンパ節を切除する「肺葉切除術」が標準的な術式で、場合によっては片方の肺全部とリンパ節を取り除く「肺全摘術」も行われています。ただ、切り取る肺の大きさ、元々ある持病や体格などによっては手術が患者さんの負担になり心肺機能が低下してQOLが落ちてしまうケースもあります。
 そこで近年2㌢以下の小型の肺がんが増えてきたこともあり、がんの手術としての質を保ちつつ、肺機能を温存するために切除部分が小さい「縮小手術」が行われる症例が増えてきました。
 縮小手術には「区域切除」「楔状切除(部分切除)」という2つの方法があります。区域切除は肺葉の中の肺がんがある区域を切除する方法で、肺葉切除に比べると局所再発(切除した部分のそばや近くのリンパ節でのがんの再発)しやすいのです。正しい術式選択と熟練度が要求されます。楔状切除は肺がんが肺の外側3分の1にあるケースにその部分を含む肺の一部を切除する方法です。
 リンパ節への転移や横隔膜や胸壁への浸潤が見られる場合、術後に薬物療法が行われます。逆に薬物療法や放射線治療で、がんを小さくしてから手術を行うこともあります。手術ができない場合、あるいは手術のみでは、がんを取り切れないと判断した場合などは放射線治療を優先することがあります。がんの転移による痛みやまひなどの緩和に用いられることもあります。薬物療法でも新しいタイプの薬剤が登場し、治療効果が向上しました。最新の知見に基づく、「分子標的薬」と「免疫チェックポイント阻害薬」です。分子標的薬はがんの増殖を促す「ドライバー遺伝子」の働きを妨害します。免疫チェックポイント阻害薬は低下していた免疫機能を元に戻して、がん細胞の増殖を抑え死滅させます。


国立がん研究センター東病院 呼吸器外科 科長
坪井 正博(つぼい・まさひろ)

1987年、東京医科大学医学部医学科卒業。東京医科大学外科第一講座入局、
国立がん研究センター中央病院勤務などを経て、2014年より現職。
横浜市立大学医学部外科治療学教室客員教授、東京医科大学外科第一講座客員准教授、
日本呼吸器外科学会評議員、日本肺癌学会評議員など。

※『名医のいる病院2023』(2023年1月発行)から転載