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異国”ユーゴスラヴィア”の友人「エレナ」へ

当時、エレナはユーゴスラヴィアに住む高校生。2年前ぐらい前から手紙のやり取りをしていた。

私も学生としての生活があり、同時にアルバイトにも時間を割いていた。
お互いの家族や学校生活、趣味、遊びの話題で交友を深めていて、彼女の素直な性格が好きだった。


エレナは私の日常を詳しく知りたがった。海外の友だちとの付き合いは私が初めてだったのだ。
「どんな家に住んでいるの?」「友だちは?」とか。

そのころ私は女子学生専門の寮に住んでおり、いろいろな大学の学生たちに囲まれて、賑やかで刺激的な毎日を送っており、それなりに充実した学生生活を満喫していた。

エレナは3人姉妹の末っ子で、一度だけ姉妹と写った写真を送ってくれたことがある。
日本の友だちができたのが嬉しいらしく、毎回テンション高めの手紙を書き送ってくれた。
エレナの夢はいつか日本に来て、私に会うこと。


そんなある日、ひとり暮らしがしたかった私は寮を去ることにした。繁華街のアパートに住いを移し、さらに、慌ただしい日々に埋没していった。

やがて、他のアパートへと移った頃、以前のアパートに郵便物を取りに寄ったら、エレナから手紙が何通か届いていた。

そう言えば、エレナとの手紙のやり取りがすっかり遠のいていたことをふいに思いだす。
かすかな罪悪感を覚えつつ、封を開けて立ち尽くしてしまった。

そこにはエレナのお父さんが亡くなったことが書かれていた。
「最近どうして返事をくれないの?」という不信感にとらわれたエレナの悲痛な叫びが綴られていた。


「あぁ、なんてこと」と絶句するしかない私。
学業とアルバイトに明け暮れ、余裕を失っていたあの日々。
大事な親友のお父さんが亡くなったことも知らず、自分の世界だけで生きていた自分を呪った。

急いでエレナに手紙をしたためた。
「エレナ、お父さんが亡くなったことも知らず、連絡が遅れてごめんね…。許して」と。

しかし、エレナからの返信は来なかった。

そうだよね。誰よりも大切な親友の気持ちに寄り添えなかった私を許す気持ちになるはずないもの。


郵便が手違いで現住所に届かなかったという不運はあるけれど、もう少しエレナのことを気にかけてさえいたらこんなことは避けられたのではないかという後悔は、今も私のなかでくすぶっている。


妹のように可愛かったエレナ。かけがえのない親友を永遠に失った私の回顧録。

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