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「未来創造セッション」(後半)

未来を創る方法はあるのか?

今回は前回に引き続き実際にお客さまに行ってきた「未来創造セッション」という場について、後半です。時間軸としては未来をどう描くか、そしてバックキャスト思考法によって現在に戻り「どうなるか」から「どうするか」を考えます。バックキャストとは「ありたい姿」「あるべき姿」から現在に帰って「どうするか」を考える思考法のことです。全体像を改めて下記に。

未来創造シンプル版

未来を考える方法はあります。そして、誰でも未来を創造することはできます。しかし、未来を創る方法はあるのでしょうか。 まずは未来を創った歴史や先人の言葉から学んでみましょう。過去の時点から見ればいま現在が未来になるからです。そういう意味で歴史とは過去・現在・未来との対話なのです。

私たちの生活の多くを変えたもの。それはスマホという製品です。スマホなしでは生活も覚束ない現在の世を2006年以前に想像できた人は恐らくいません。今日という一日を想像してみて下さい。朝起きる、新聞を読む、今日の天気を調べ出かける準備をする。電車の時間や運行状況を確認する。今日は出張だから新幹線の指定席をとり、今晩の宿を予約する。コンビニによって今日の自分に活力を与える飲み物や食糧を買う。。。これらの朝の生活の殆どは「手のひら」で済ませることが出来ますね。そういう意味でいまの私たちの生活様式を創った偉人としてスティーブ・ジョブズが挙げられます。ジョブズはアップルという会社がこうした未来を創造するために何をしたのか。或いは何を大切にしたのか。いくつか考えられますが、実際に彼の発言から見ていきたいと思います。

「問題は急激な成長ではなく、価値観の変化だ。」

上記の言葉は自分が去った後のアップルが存亡の危機に陥った原因について述べたものです。ジョブズが一旦去った後のアップルを率いたジョン・スカリーは製品づくりよりも利益の最大化と規模の拡大を重視しました。目に見えない価値観、これを未来に引き継ぐことが出来なかったことが苦境の原因と分析したのでした。またアップルに復帰する際、何から始めたのかも興味深いところです。

「手始めにやったのは、ものづくりができる会社にもう一度戻すことだった。」

当時10年ぶりに戻ったアップルをみてジョブズは「アップルには一万人の凡庸な社員がいる」と日々憤慨していたようです。当時のアップルは不在10年間のうちに既存の独占的技術(GUI)にしがみつき、それを売り込むことだけに執着するという、いわゆる大企業病に陥っていました。何から始めたか。もう一度「モノづくりとは何か」という存在意義を思い出させる意識変革から始めたのです。これは前回ご紹介したJAL(日本航空)再生時の稲盛和夫さんのとった手段と同じです。「この現代の近代文明社会をつくったのは、人類の思いがつくり上げていったんです。」先ず”思うこと”から未来は創られてきたという歴史観です。かつて松下幸之助さんの講演でダム経営の秘訣を質問され「まずダム経営をしたいと思うことですな」という松下氏の返答に対して多くの講演を聞きに来た経営者らは「思うだけなら誰でもできる」と嘲笑う中、「そうか!先ずそうなりたいと思うことなのか!」と一人頬を紅潮させながら松下氏の話を聞いていたのが稲盛和夫さんだったことは有名なエピソードです。そして稲盛氏の盛和塾に参加し、熱心にその話に紅潮した青年がいました。アリババ創業者のジャック・マー氏です。組織の中でこのような強烈な”思い”の連鎖が生まれるなら、その組織の未来は明るいものとなるのではないでしょうか。

未来創造の礎は「目に見えない」何か

ジョブズの例はあくまで一側面ではあるものの、実は企業再生には事業整理や財務面での止血もさることながら、中長期先の未来を創造する企業になるために「意識」の変革を迫ることが求められてきました。それこそが抜本的な対策であることが多いということだと私は理解しています。話しを「未来創造セッション」に戻すと、全体像で示した通り、未来にも社会、人々から選ばれ続ける企業、組織であるためには、未来創造の「土台」となる「何を大切にすべきか」という未来に引き継ぐべき価値観の継承と意識づけの愚直な取り組みが不可欠だということです。

もう一つ、先人から学びましょう。GAFAの一角、消費のあり方を社会レベルで変えて見せたAmazonですが、日本国内でこれほどまでに「欲しいものがすぐ届く」を実現させたのはヤマト運輸さんの存在が大きいことは多くの方が実感していることだと思います。いまでこそ時間や場所の指定までできる便利な「宅急便」は多くの日本人にとっては当たり前のサービスですが、世界的に見れば、このサービスは当たり前ではありません。このサービスができたのは中興の祖、2代目社長の小倉昌男さんによるものです。今でこそ宅配便市場において半分近くのシェアを握り、物流業界を代表する会社になっていますが、小倉氏が社長に就任した当時は深刻な経営危機に陥っていました。宅急便を開始したのは昭和51年(1976年)、まさに清水の舞台から飛び降りる気持ちで開始したそうです(小倉昌男『経営学』118頁)。当時個人宅配市場は郵便局の牙城でした。さらに新事業としての宅急便には当初役員が全員が反対という逆境の中、規制とも戦いながら翌日配送というサービスの差別化(独自の提供価値)を実現させることで人々に受け入れられていきました。実は宅急便の発想は当時の牛丼の吉野家が行っていた牛丼への原点回帰策が基になっています。いろいろあったメニューをやめ、牛丼一つに絞ったという日経の記事が着想の起点でした。「牛丼ひとすじ」という新しい業態開発し、チェーンを展開してその後の繁栄へつなげたわけですが、同じくヤマト運輸の強みとするところは昔から消費者に近い小さな荷物である、と。そこに思い切ってメニューを絞って新業態にを開発することで道を開こうとしたのです。昨今ECの急激な拡大により人員不足になった際にも、値上げに反対する国民が殆どいなかったほどに、現在まで不可欠の社会インフラにまでなりました。社会に受け入れられてこそのイノベーション、その代表のようなサービスです。小倉氏の経営哲学の一つに「サービスは市場を創造する」という思いがあり、それは現在も同社の「サービスが先、利益は後」という理念に受け継がれています。社会に貢献していることが、利益を頂ける前提だという考え方であり、精神です。
東日本大震災での同社の活躍は多く知られています。各地域のセールスドライバーが事業とは別に自発的に地域の支援に取り組みました。避難所での荷物の整理から救援物資の配送、地域住民の避難状況の把握まで…まさに小倉昌男さんの精神が企業文化として根付いているのです。いまのコロナ禍の中でも、物流を止めることなく、本業を通じて社会に貢献してくれています。そしてそれは物流業界全体に広まっている精神であるかのようです。震災時のトップ木川社長は「「小倉さんだったらどうするだろう」と考えるのです。「小倉さんなら、今の環境の中、何をするだろうか」と自分に言い聞かせているところはあります。」と述べています(『小倉昌男 祈りと経営』)。未来とは歴史との対話でもあり、また小倉氏のように自ら未来を創造することが可能であることを教えてくれています。このことを端的に述べたアラン・ケイ(PCの生みの親)の至言を下記に。

「未来を予測する最善の方法は、自らそれを創りだすことである。」
                          (アラン・ケイ)

未来を考える方法

未来創造の土台は、「未来に引き継ぐべきものは何か?」を徹底的に考え抜き、皆で出し合い、明確にすることです。出来るならあれもこれもではなく、これまで述べてきたように「これだけは絶対に失ってはいけない」と思えるくらいに研ぎ澄まされた精神のような、強い思いによるものです。その上で、さあ未来です。未来を考える方法はあるのか?その問いに率直にお答えするなら、以下のアプローチを提案します。
・論理的アプローチ(すでに起こった未来×考え方、推論)
・弁証法的アプローチ(正反合、事物の螺旋的発展)
・思いアプローチ(思いの可視化)
・未来学的アプローチ(何が存続・変化・出現するのか)
・仏教的アプローチ(末法思想)
これらのアプローチを通じて、未来から現在に立ち返り、今すべきことは何か、を明確にしていきます。※各アプローチの手法については紙幅の関係上また別の機会に。ここでは「今すべきこと」に落とし込む際に、より本質的な実践(本当にやる必要があるアクション)に結び付きやすくするためのいくつかの注意点をお示しします。ドラッカー先生の至言を大いに参考にしています。

6つの問い

最後に、前掲のスティーブ・ジョブズも敬愛したマハトマ・ガンディーの言葉を添えて、社会に明るい未来が創造されることを祈ります。

君の信念が、君の考えになる。
君の考えが、君の言葉となる。
君の言葉 が、君の行為になる。
君の行為が、君の習慣となる。
君の習慣が、君の価値観となる。
君の価値観が、君の運命となる。
未来は、君が今日何をするかにかかっているのだ。
        (出典:佐藤けんいち『ガンディー 強く生きる言葉』)



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