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武装ポーカー/荒木飛呂彦はいいぞ

今日、こんなtweetを見かけました。

初心者、無名漫画家が 有名)漫画家(の作品を参考にする)場合
短編集初期連載1~3巻まで(中略)
売れてからのネームは参考にしちゃダメだ(中略)
無名作家からファンを勝ち取っていった過程に作家の全てが詰まっている(tweet内の台詞より。カッコ内は筆者の補足)

 私も全く同感です。例えば荒木飛呂彦さんの作品ならば個人的に現行作品のジョジョリオンよりもジョジョの奇妙な冒険一部二部、もっと言えばそれ以前の(週刊少年ジャンプに連載されたが残念ながら打ち切られた)作品のほうが好みということもあります。

 別にジョジョリオンが、駄作だとか見る価値がないというつもりはありません。これから漫画を描こうとする人が参考にするなら、ということと私の個人的な好みが多分に含まれています。

 そこで今回は、荒木飛呂彦さんのデビュー作である「武装ポーカー」をご紹介します。こちらもおすすめ「ゴージャス☆アイリン」の単行本に収録されています。興味が出たらぜひお買い求め、その結末は実際に自分自身の目でお確かめください。いまなら文庫版でしょうか。『魔少年ビーティー(読切版)』も収録されていてお得です。

 話を武装ポーカーに戻しますが、この作品はまずある人物の語りから始まります。創作作品ではたまに目にする手法ですが、ラストまで読むと実に効果的に使われていることがわかります。語り手はこの作品の重要人物であるのですが、ネタバレになってしまうのでまたあとで。

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 語りから初める手法。
集英社ジャンプコミックス「ゴージャス☆アイリン」P182より。

 読み進めるとまず銃声が響き、手から零れ落ちたと思われる拳銃、撃たれて倒れた男が描かれます。撃った側の男は顔の下半分が泡に覆われていて、大きな鏡と椅子が並んだ背景から場所は床屋。ひげをそっている最中だったのでしょうか、画像にもあるガンマンというセリフと背景の様子から場所はアメリカ、時代は西部開拓時代と思って間違いないでしょう。

 続いて撃った男の台詞。ここでどんな人物像かが描写されます。そしてここが重要なのですが、その後!に語り手による説明が入ります。創作に慣れていない人の作品ではよく、その人物の設定を長々と説明した後で何か行動させることが多いように思います。それではタネを明かした後で手品を見せられているようで、個人的にあまりそそられません。先に行動させ「なぜそうしたのか」「こいつは誰なんだ」と思いながら読んだほうが楽しめる気がしませんか?

 語り手により、この男の名前と1万ドルの賞金首であることが明かされます。その金額から、この男ドン・ペキンパーのすきを狙う連中も多くいるようです。

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先に行動させてから……(同P184より)

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解説。逆ではそそられない。(同P185より)

 床屋を出たペキンパーは酒場へ入ります。そこでも人物描写。バーテンダーとの会話で彼のいつもの飲み物と、彼がこの酒場の常連であることがわかります。

 酒場でペキンパーは、ポーカーに興じる客を目にします。客の台詞から、セリフを発した客ともう一人はおそらく負け続けているのでしょう。ペキンパーは彼らに声をかけ、ゲームに加わろうとします。

 いかさまを警戒しているのかカ-ドを確認するペキンパー。シャッフルすると4枚のカードを手に取り、テーブルに置いた残りのカードの山に投げて4枚のエースを押し出す離れ業を見せます。

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この離れ業。(同190Pより)

 これに対して勝っているらしい男はカードをシャッフルし、ペキンパーではないうちのひとりにカードをカット(置いた山から好きな枚数だけ取り、取ったカードをそのまま山の下に入れる)をさせます。そして上から4枚とると、なんとそこにも4枚のエース!どうやったかは分かりませんが、二人とも信じられないほどの腕前であることがわかります。これを見た二人の客は、当然ながらゲームを降ります。一対一の勝負になりました。このあたりの台詞回しも渋い!

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 誰だってそーする俺もそーする(同193Pより)

 ゲームを始めようとしたとき、一人の男が彼ら(のどちらか、もしかしたら両方)を狙って銃を抜きますが、二人に同時に撃たれて退場。ここで語り手が、ペキンパーの相手をする男のことを語ります。その男マイク・ハーパーもペキンパーと同じ1万ドルの賞金首。見たところ銃の腕前も互角。そうして始まった勝負ですが、ゲームは意外な方向へと進みます。

 一方的に負け続ける展開に苛立つペキンパーは、機嫌のいいときなら小銭を恵んでもやる酔っ払いのじいさんにも八つ当たりをしてしまうほど苛立っいました。しかしその後にそこそこいい手が入ったペキンパーは、掛け金の他にお互いに持っているあるものを賭けようと、悪魔の提案を持ち掛けます。相手が逃げにくいように逃がさぬように言葉巧みに挑発し、賭けさせたものはお互いの拳銃でした。

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悪魔の提案(同205Pより)

 この状況では、拳銃が無ければ襲い掛かってくるゴロツキどもには対抗できないでしょう。しかし、負ければ自分自身も危ないはず。ペキンパーには何か必勝の秘策があるのでしょうか?受けるか悩むマイク・ハーパーですが、引くに引けなくなりこの賭けを受けてしまいます。なにしろ彼の手はクイーンの4カード。普通に考えて、まず負けるはずがありません。そして……

 物語の結末は?語り手は一体誰だったのか?この結末は、ぜひあなた自身の目で確認してください。数百円の短編集、さらにその中の1つでこれだけのものを見られるのですから決して高い買い物ではないはずです。

kindle版はこちら。アソシエイトなどは仕込んでおりません。

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