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春――きっとベランダからの祈りがいっぱいの季節

週に何度かごみ捨てに行く朝、マンションの中庭でときおり行き合う女の子がいます。私がごみ捨てに行く時間にちょうど登校していくランドセルを背負った女の子です。

1年生ではなさそうだけど、だぶん小学校低学年。近所にある公立小学校へ行くには時間が早いし、かわいいセーラー服風の制服を着て革靴をはいているので、私立学校に通っているのでしょう。

その子が私と行き合う直前くるっと後ろを振り返り、にこっと笑って、手を振るのです。おそらくベランダから見送っているお母さんに向かって。
その様子があまりにも可愛らしくて!

女の子の視線の先を追うのはなんだか野暮な気がして、ベランダのお母さんを確認したことはないのですが、きっとお母さんも笑って手を振り返しているのだろうな。

女の子はいつも明るい感じで、「行ってくるね、お母さん!」という心の声が聞こえてきそうです。これから始まる今日が楽しみ!っていうオーラがいっぱいで、この光景を見た日は私まで「いいことありそう!」って期待してしまいます。

同時に、ベランダのお母さんを思うと少しだけ切なくなります。笑顔で見送りながらも、お母さんは心配だろうな。これからきっと電車やバスに乗って学校に行きついて、一日いろいろな出来事があって、また夕方電車やバスに乗ってただいま!と帰ってくるまで、「大丈夫かな?」「ちゃんとやってるかな?」……考え出したらキリがないだろうな。

私なんて「卒母」とか言いつつ、大学生になった息子を送り出すときには、「この人新しい世界でほんとにちゃんとやっていけてるのかな」といまだに心配になっています。そして気がつくと、「無事に帰ってきますように」と心の中で祈っている。ベランダで……。

でも、たぶんみんなそうですよね。今日がいい一日であるように、無事に過ごせるようにと願いながら、家族を送り出している。

春はとくに環境が変わる人も多い季節。
中庭から見えるたくさんのベランダで、今日もたくさんのお母さんお父さんが、子供を思いながら手を振っているのでしょう。
その光景を想像すると、なんだか温かい気持ちになります。



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