見出し画像

【感想】『バンクシー アート・テロリスト』を読んで、都市空間について考えました。

本記事は「note×光文社新書」の合同企画「#読書の秋2021」の課題図書『バンクシー アート・テロリスト』(毛利嘉孝【著】)の読書感想文です。過去に趣味で撮影した写真を交えて読書感想文を書いてみました。本企画の詳細は下記に記載されています。(※前回アップロードした記事を誤って消してしまったので、再アップです。)

--------------------------------------------------------------------------------------

壁に落書きをしようと思ったことがない私は、いつの間にか日本社会の均質性・同質性に染まっていたんだと気づかされた。本書はバンクシーについて丁寧に解説していることに加えて、日本と欧米の都市景観の考え方の違いまで踏み込んでおり、非常に興味深かった。人物に関する興味の一つとして、私は「なぜその人がその人になれたのか?」という部分が気になってしまう。本書では「なぜバンクシーがバンクシーになれたのか?」をわかりやすく説明しており、アートの知識がない私でも十分に楽しめた。

私がバンクシーを知ったきっかけは、2018年にサザビーズのオークションでバンクシーの作品である「風船と少女」が落札直後に額縁に仕掛けられていたシュレッダーに裁断されるという「事件」のニュースであった。日常生活でアートに接する機会があまりない私にとって、衝撃の大きいニュースであった。この事件のおかけで、「現代美術を知らない私でもバンクシーの名前を聞いたことがある」という状態になれた。ある意味、バンクシーのメディア戦略の恩恵を受けたのかもしれない。

画像1

本書を通して、イギリス出身のバンクシーがステンシルという表現方法で独特のブラックユーモアを含んだ絵を創出し続ける経緯を知ることができた。バンクシーによって、落書きがアートに昇華されていく過程は、錬金術を見ているようであった。実際、現代の錬金術の一種かもしれないが、、、。多くの国において公共施設や商業施設におけるグラフィティは犯罪とみなされるため、グラフィティの作者は匿名性を選択するそうだ。そのため必然的に真贋の議論が巻き起こることになるが、こういった議論も含めて作品なのかもしれないと思った。

本書では巻頭にバンクシーの独特のブラックユーモアを含んだ絵が17点掲載されている。これらの絵を楽しめる点でも本書はお得である。そして、読む前に見た「絵」が、本書を読むことによって「物語と紐づけられた絵」になることが非常に良かった。知識を得た後に、改めて絵を見ると、心に訴えてくるものがあった。ブラックユーモアがブラックユーモアであると認識するためには、それなりの知識が必要だと痛感した。さらに、ブラックユーモアを生み出す側であるバンクシーの着眼点の絶妙さには思わずうなってしまった。

画像2

また、アート・マーケット批判もしっかり飲み込んでしまう現代資本主義のしたたかさには頼もしさと不気味さの両方を感じた。制度化されたマーケットの中で、その制度の中に組み込まれない作品群たちが存在することを知ることができて良かった。もしかしたらアート以外の分野でも、バンクシーの作品のように、既存制度の枠組みから漏れてしまっている物事が多いのではないかと考えた。なかなか難しいことであるが、身近な「バンクシー」を見落とさないようにしていきたいと思った。

都市空間とアートの関係性に関する本書の説明は、私が旅行で欧米の街並みを見た時に感じた違和感を解消してくれた。日本と欧米で「公的」なものに対する考え方の違いがアート文化に影響を与えている、ということを深く考えたことがなかったので、新たな視点を頂けて良かった。本書のおかげて、街並みを鑑賞するときの楽しみ方が、また一つ増えた。次回、欧米を旅行する際には、今までより注意深く建物の壁を観察してみようと思った。

色々と本書の感想を書いてみたが、「ところで、バンクシーって何者?」と思った方は、ぜひ本書を手に取って「バンクシーという文化」を楽しんで欲しいと思う。バンクシーを切り口として、イギリスの地域性、アートの歴史、影響を与えた人物などなど多視点から解説されており、読み応えがあった。私の知識の幅を広げて頂いた作者の毛利嘉孝先生と、編集者の方々に感謝致します。ありがとうございました。

画像3

#バンクシー #読書の秋2021 #光文社新書 #毛利嘉孝

「みんなのフォトギャラリー」に「#jjpp」でタグ付けして写真をアップしています。みなさまのnote活動の一助になれば幸いです。