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「川内有緒文庫」オープン!②/「バウル」とともに紐解きたい本

『バウルを探して<完全版>』を置きたいという思いで始めた「Go to “Book” Travel」企画、そしてそこから派生した「川内有緒文庫」の試み。私自身がすっかり惚れ込んでいる川内さんの本を、ぜひ一人でも多くの方に手にとっていただければと思っています(ほぼ布教活動ですね 笑)。

池上ブックスタジオの棚で本を売るだけでなく、このブログで本について知らせることも、本を広げることにつながると思います。せっかくなので“いつもの仕方”で、本と本をつないでみたいと思います。

5年前に川内さんのトークに伺った際、質疑応答で私が「好きな書き手」について伺ったところ、川内さんからは高野秀行角幡唯介、そしてジュンパ・ラヒリという名前が挙がりました。(いまや)旅とともに生きて、旅について書く作家である川内さんのこのチョイスを聞いたとき、心のなかで大いに頷いたものです。

高野秀行さんといえば、“誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それをおもしろおかしく書く”をモットーに、世界中のおかしな場所のおかしな人やおかしなことを、私たちの手元に届けてくれる方ですね。第一作(でいいのかな?)のムベンベ以来、愉快で読み応えのある著作がたくさん。

私自身は決してよい読者ではありませんが、池上ブックスタジオでも並べている『謎の独立国家ソマリランド そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア』ほか、いくつかの著作を、大いに腹を抱えつつ、でも時々その背後に覗く深い世界の現実について真面目に考えながら、味わってきました。

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何かよくわからないものを追い求める、という意味では常に一貫しているのかもしれませんが、個人的に特に好きだったものを挙げるならば、『謎のアジア納豆 そして帰ってきた「日本納豆」』でしょう(※私は茨城出身です。また、本書を読まれた方には成程と思っていただけるかと思いますが、母方は東北ルーツです)。

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スーパーなどでも「テンペ」をだいぶん見るようになりましたし、納豆(的なもの)が決して日本だけのものではないんじゃないか、ということは想像できるでしょう。そんな納豆のルーツを求めてアジアを旅する高野さん。しかし、その行き着く先は……!?

そして、先頃その続編となる『幻のアフリカ納豆を追え! そして現れた〈サピエンス納豆〉』が刊行されました。私も未読なのですが、納豆、まさかアフリカまで行くの?と興味津々です。ぜひ2冊併せて、納豆をめぐる旅に出てみてください。(というか、「サピエンス納豆」って何!?)

続いて名前の挙がった角幡唯介さんは、前述の高野さんの後輩(早稲田大学探検部)にあたるのですよね。『探検家の憂鬱』でその旨を読んだ覚えがあります。うっかりしていましたが、お二人の共著が出ていました(『地図のない場所で眠りたい』)。こちらもぜひ読みたい(皆さんもぜひ)。

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掴み所のない何ものかを、全身全霊を傾けて追い続けるドキュメントはやはりグッと心を掴まれます。代表作『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』は、探検に、未知に興味を抱く方は、ぜひ読んでいただきたい一冊です。

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3人目に名前の挙がったジュンパ・ラヒリは、コアなファンも多い一方で、触れる機会のなかった方も少なくないのではないでしょうか? 私自身、名前だけは前々から知っていたものの、その著作を読んだのは、(邦訳版)刊行から10年近く過ぎてからでした。

ただ、一度その世界に触れてしまうと、ぐっと心を掴まれて逃れることができません。折に触れてSNSなどで言及してきているのですが、代表作「停電の夜に」は、描写は非常に淡々と落ち着いていながら、人間真理のヒリヒリと苦い現実をすっと私たちの前に提示していて、苦しいのですが、苦しいのですが、何度も読みたくなる名作です。

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移民や漂流する人の物語を紡いできた彼女は、インド系のルーツがありますが、生まれはイギリス、そして人生の多くの時間をアメリカで過ごしてきた作家です。そして、学生時代に出会ったイタリア語にひっそりと、しかし離れずに“片思い”を続け、2015年からはローマに移住。自身が多く描いてきたような「外国人」として生きながら、現在はイタリア語でも著作を発表しています。

そうしてついに飛び込んだイタリア語の世界での経験を、イタリア語と格闘しながら綴った作品が『べつの言葉で』

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小説作品ではなく、異邦人としての経験を、言語そのものを旅しながら記していったエッセイです。旅の要素に溢れる川内さんの本と一緒に味わうのに、これほどぴったりの本はないのではないでしょうか。

川内さんの挙げた3名の作家の作品、私もまだまだ読んでいないものがたくさんあります。川内さんの本を、新たなバウルの本を経てきたいま、改めてこの作家たちの本を読んでみると、そこにはきっと深く共鳴する部分が見つかることでしょう。

読書は、一冊一冊の本をそれぞれに味わえるものではありますが、ふとした瞬間に本と本のあいだにあるつながりが見えると、その楽しさは格段に増えていきます。そして、そのつながりは読めば読むだけ、無限に広がっていくものです。

バウルから始まる、あなただけの本のつながりの旅を、ぜひ探して、堪能してみてください。

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<お知らせ>

池上ブックスタジオを中心とする「さるうさぎブックス」のあれこれ、まだまだブログを通じてお伝えしていきたいと考えておりますが、この「note」というメディアについては、近日中に利用を停止する予定でおります。

ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、このメディアを運営するnote株式会社では、今夏に利用者のIPアドレス疎漏問題が起きましたが、その事自体はもちろん、事後の対応は誠実なものだったとは言い難いと思います。それに加えて、先日はそのnote社が運営するメディア「cakes」において、DV被害者に対して二次的な加害をするような記事を掲載するという事態が起こりました。

個々の事例が問題であるのはもちろんのこと、そこから伺えるnote社の姿勢や方針に対して、これを容認するべきではないと感じております。

使いやすく洗練されているなと感じて、比較的早期からこのメディアを利用してきました。長く使い続けられそうだと感じたのも選んだ理由だったので、迷いはありました。しかし、やはり道義的に認め難いと感じながら、サービスを利用し続けるべきではないと判断しました。

準備が間に合わずに、新たな投稿をしてしまうのは情けないことではありますが、移行準備期間ということでご理解をいただけますと幸いです。

何卒よろしくお願い致します。

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