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永遠(とわ)のうた

その夏 いっぽんの
おおきな木が 
「わたし」という森のなかの だいすきな木が
倒れ あっという間に
大地に 還った

わたしは なにを していたのだろう
大義名分を ふりかざし
高慢さを 増大させ
とおく とおく 
そとに こたえを探しているあいだ
じぶんの森の たいせつな木を うしなった

その 唯一無二の おおきな木は 
いつもそこにあるのが あたりまえで
その木がもうすぐ なくなりそうだと しらされたとき
いそいで かけつけて だきしめた その木は
いっとき 息をふきかえし
目を きらきら かがやかせ
なんどもなんども わたしのなまえを よんでくれた
それから ねむれぬ 10日のあいだ
わたしは それが ただしかったのか
その木の くるしみを のばしただけなのか
なにを祈ればいいのか わからなくて
途方にくれて

ゆっくりと その木のぬくもりが 消えていき
あっという間に ちいさなかけらに なったとき
森は しばらく うごけなくて
ぽっかり えぐられた その場所に
吹きすさぶ 雨と風

むき出しの 大地に
太陽のひかりは つよすぎて
土は ますます かたくなり
雨風に 簡単に けずられていく

からっぽになった その場所に
わたしは何も 植えたくなくて
何年も その場所は 見ないように
あたらしい 緑で おおわれることを
かたくなに こばんで
その木との 思い出さえも 蓋をして
それでも 空は 毎日毎日
朝をはこび 夜をつむいだ

その 宇宙の とてもしずかな でも
ちからづよい いとなみのなかで
ゆったりと 5年の歳月が流れゆき
時は満ち
ちいさな かすかな 森のうたが きこえてきた
森は ずっと うたっていた
森は きっと さいしょから 
ずっとずっと うたっていた

そのうたに はじめて 耳を かたむけたとき
あふれる なみだは かんしゃに あふれ

やがて その うたは 森全体を ふるわせる
かなしみは もう 悲しみでも 哀しみでもなく
かなしみは 美(かな)しみで 
豊かな色に きらめきひかる 感謝のしずく

あぁ 森全体が メロディーを ふるわせて
歌いあげるよ 
ひかりにみちた
永遠(とわ)の うた

そのひ ようやく わかったの
森は ほんとうは うたいたい
おなかのそこから うたいたい
あふれでるの メロディーが
ひかりはいつも そこにあるから

その春 むき出しだった 森の大地に
たくさんの ちいさな芽が めぶいたよ

あぁ 森は ずっとずっと まっていた
それが きっと 森本来の 姿だから
森のなかの すべての木が
森をながれる 水と風が
宇宙の ひかりと 闇夜さえ
たくさんの ちいさな芽を いつくしむ

からだは いたみを きおくする
そう、からだに きざまれるものは
そこに たしかに あったもの

でも そこには ゆるぎない 
たしかな たからものも ひかっている
やさしい まなざし
手の ぬくもり
見返りをもとめない 純粋な愛

うしなってなんか いなかったの
そう、うしなうことなんか ないのだから
ぜんぶ ぜんぶ ここにある

この ちいさな芽のなかに
それをはぐくむ 土のなかに 水のなかに
あなたの一部が たしかにあって
ひろがる みらいに えいえんを かんじるの

その みらいの うつくしい ばしょに
いちにち いちにち
一歩ずつ すこしずつ
わたしは あきらめずに ちかづくの
そして きっと つくりあげる
その うつくしいばしょで
ほほえむ あなたが みえるから

かわいい かわいい ちいさな芽
かんしゃの しずくと 
ひかりの うたを 
たっぷり そそぐよ

きょうは 命日
いつもより ふかく つよく
あなたを おもうひ


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