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鉄道車両の分類法を、そろそろ変えたい。

「四季島」は電車か?気動車か?

 鉄道模型の店舗に勤めて早20年になる身であるが、お客様や後輩スタッフのこういった質問が、実は内心困る。「とりあえずの答え」を用意して返事はしているのだけど、そのたびにワタシの中で葛藤がある。

 現在のところ主流となっている鉄道車両の分類方法は、まず電車・気動車・客車・貨車・機関車…と動力方式によって大きく分けて、特急型・急行型…と用途別に細分するやり方。国鉄時代の車両体系に基づくものだ。

 これがJR以後、特に21世紀に入ってからの鉄道車両の実情から外れ始めていて、それを古い枠組みに無理矢理ハメていく脳内の作業が、いちいち面倒くさいのだ。

今や気動車は「電気で動く」

 例えば冒頭に挙げたJR東日本のクルーズトレイン「四季島」。形式名で言うとE001形というのだが、パンタグラフもエンジンも付いていて、ざっくり言うと電車と気動車のハイブリッド。どちらにも分類しにくいのである(JR東日本では「EDC方式」、一般にバイモード方式ハイブリッド車と呼ばれている)。
 
 で、「四季島」だけ特別なら別枠にしときゃ良い話なんだけど、自動車と同じ仕組みのハイブリッド車も増えている。だったら全部ひっくるめて「ハイブリッド」って新しい枠に分けりゃいいと思うのに、鉄道模型の業界では後者を無理矢理「気動車」枠に突っ込んでるから面倒くさい。

 さらに事態はややこしいことに。JR東海が特急「ひだ」「南紀」向けにHC85系という新型ハイブリッド車両を開発したのだけれど、形式名が「モハ」。モーターの「モ」。あ~あ、とうとうJR東海はハイブリッド車を公式に「電車」って呼んじゃったよ。電気を使ってモーターを回す「電車」だと。ああ面倒くさい。

 気動車の方も技術進歩の結果、「エンジンで発電して、モーターで走らせる」電気式気動車にシフトしてきた。電車と部品を共通化できてコストダウンできるのがメリットだ。

 今や気動車も電気で動く、広い意味では同じ「電車」だ。「いや、気動車だ」とドヤ顔する鉄道マニアより、鉄道車両を何でもかんでも「電車」と呼んじゃう非鉄ヲタの一般人の方が、もはや本質的に正しくなってきたのではなかろうか。

E231系は通勤型?近郊型?

 もう一つの悩みの種がコレ。「用途別」の変化だ。

 見出しに挙げたE231系以降、JR東日本は「通勤型」「近郊型」を一本化して「一般型電車」と呼んでいる。鉄道会社が公式に分けてないものを、後輩スタッフはワタシに無理矢理分けさせようと質問するのだ。

 まぁ、いまだ頭の中が国鉄時代の鉄道模型業界が用意するシステムに、彼らは無理矢理でも当てはめて商品登録しなきゃアカンのだ。だから質問する個人は責められないのだけど。あああ面倒くさい。

 そもそも「通勤型」「近郊型」の分類自体が、国鉄分割民営化時点で怪しかった。

 JR北海道・四国にはもともと「通勤型」が存在しないし、JR東海も国鉄103系の後継車は作らなかった。JR九州の「通勤型」は地下鉄に乗入れる筑肥線限定。
 一応JR西日本だけは「通勤型」はロングシート、「近郊型」はクロス・セミクロスシートという区分けを続けてきたけど、近年ではワンマン運転対応の近郊型ではロングシートを採用。境界線があいまいになってきた。

 もうJRの「通勤型」「近郊型」、分ける必要なくないっすか?

時代はとっくの昔に変わっている

 JRの歴史も今年で37年。国鉄時代の33年よりも長くなってしまった。
 実は、鉄道の歴史を区切るのに元号が便利で、

明治(1871~1912):日本鉄道黎明期。官営鉄道と民間により主要幹線が整備されていった時代。車両面の主役は輸入蒸気機関車。

大正(1912~1926):主要幹線の国有化と鉄道院発足に伴う制式機の制定による整理統合。蒸気機関車国産化の進行と電気機関車・電車の本格導入。

昭和戦前(1926~1945):鉄道省への昇格、新形式称号規定の制定。電気機関車・電車の国産化。

昭和戦後(1945~1988):戦後復興と日本国有鉄道の発足から解体まで。おそらく読者の皆様がイメージするであろう「国鉄時代」。

平成(1989~2019):JR時代。航空路線・高速道路・新幹線網の発達により、在来線の長距離輸送が衰退。地域事情に合わせた車両仕様の多様化。

令和(2019~):はてさて、どうなることやら。

こんな感じ。37年というのは我が国の鉄道の歴史上、ひと時代分の長さだと言える。

 昭和という2時代も昔のモノサシで、令和の鉄道を分類しようというのが、そもそも無理な話というものだ。

苦悩の日々は続く

 実はKATOの鉄道模型カタログでは数年前から、実車事情を反映したような、地域ごとのページ構成にしていた。何かが変わるキッカケになればと期待していたのだけど、2023年版では元の分類法に戻ってしまった。

 それだけ国鉄式の分類法へのユーザー支持が根強いということなのだろう。ただ、若い世代の人たちには使いにくいんじゃないか、といらぬ心配をしてしまう。

 まぁ趣味の業界だから「それでよし」とするのもひとつの見識なのだろうけど、冒頭の悩みからは解放されないのだろうなぁ……。

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