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大塚久美子社長の赤いスーツ ~企業改革をファッションから考える。

なぜ赤いスーツを彼女は選んだのか。

記者からの質問に彼女は「あかるい気持ちで(記者会見を)やりたいから」と答えた。
極めて明解だ。
しかし少し短絡的だとも思える。

企業内のガバナンスの強化を掲げ、創業者の父から経営を奪取した久美子社長に、当初はマスコミも(僕も)期待した。父である前社長勝久氏のハイエンド向き施策は、高齢化社会にマッチした考えで確実ではあるが、将来を見据えて裾野を広げる施策を今から打つ久美子社長の提案も納得できるものだった。

成功した創業者は、その人自身がブランドである。俗にいう"ボンボン"では後継者は務まらないから外部から後継者選択をした、まさしくブランド社長の柳井正氏、孫正義氏。だがそれは失敗だった。一方大塚家具は、身内の後継者に創業者が会社を乗っ取られるというドラマチック(?)な展開になり、世間は安直に沸いた。

一部報道では大塚家具が低価格商材に移行する向きであると報じたが、久美子社長は低価格帯で勝負するとは言っていない。しかし会員制を排除するということは、必然的に客単価が下がることも念頭にあったはずだ。事実、彼女は就任直後に感謝セールとして、それまで滅多に行わなかった割引販売を実施している。 これまでとは異なるミッドレンジの客層を取り込もうとしている事は明らかだった。

就任後、大塚家具の新制服が発表された際、僕はとても違和感を感じた。ライトベージュの制服は久美子社長がいう通り知的な印象がある。だが試しにGoogleで"家具店スタッフ"もしくは"インテリアショップスタッフ"で画像検索してもらいたい。白系の制服を採用しているショップは皆無だ。茶系、紺系が大半で、白いシャツを採用している場合はかなりカジュアルなものだ。その違いは接客姿勢に表れている。
家具販売にはホコリが大敵で清掃・陳列修正等の作業がつきものだ。その際にフローリングに膝をついて作業をする。必然的にスタッフの衣装に汚れが付着する。つまりミッドレンジ帯の家具を販売するスタッフは作業の傍ら接客をする事になるので「白」は不向きなのである。
一方、大塚家具のスタッフは接客の合間に作業をしている印象だ。

「作業しながら接客する」と
「接客しながら作業する」

一見似ているがまったくスタンスが違う。先日大塚家具に行ってみたが、作業スタッフの視線を(以前程ではないが)痛いほど感じた。表面上は変化してみえるが長年染み着いた「獲物を狙う」オーラは簡単には消せない。やはりスタッフの意識は接客がいまだに主なのである。
大体、作業が主であれば白系のユニフォームは採用するわけがない。
つまりユニフォームを採用したこと自体が「入りやすい店づくり」に矛盾するのだ。

話を久美子社長の赤いスーツに戻そう。

彼女は「あかるい気持ちで」と言った。

赤は「赤字」の赤。縁起も悪い。
そもそも「赤」は主役の色ではないか。
今回、久美子社長が欲するメインの客層は40代~50代のはずだ。彼ら、彼女らにとって 赤いマスクのヒーローは、いつも5人のセンターである。それではスタッフの支持は得られるはずがない。なぜなら企業改革の「主役」は間違いなく現場のスタッフなのだから。

自分たちの会社が今、買収される。上場企業のインテリアショップに就職したはずなのに、家電量販店の子会社の社員になるその悲しい瞬間に、自社のトップが「あかるい気持ち」と言っているのをみたとき、現場の気持ちは、いかばかりであろうか。

結局、「赤いスーツ」は大塚久美子社長本人の最後の花道を飾る姿だったのかもしれない。"企業の主役としての自分"の終焉を予見した彼女なりの精一杯のパフォーマンスだったのだろう。

IKEAのスタッフにプラダは似合わない。
ユニクロにアルマーニを飾っても売れはしない。

ミッドレンジを売る経営者にふさわしいファッションを教えるブレーンがいなかったことは彼女の悲劇の一つといえる。

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