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女性は転落したらどうなるのか?夜の世界から抜け出せないシングルマザーの人生から日本の貧困を考える【中村淳彦の名前のないコラム】

パパ活女子、歌舞伎町立ちんぼ、いただき女子……若くして夜職につく女性たちは、その後どうなるのか。若さを武器に大金を稼げているうちはよくても、加齢とともに厳しくなっていく現実。日本の貧困女子をテーマに長年取材・執筆を続ける中村淳彦が、負のスパイラルを解説します。

賃金の安い困窮県で起きていること

 ノンフィクションライターの中村淳彦です。今日は女性はどうやって転落していくのか?を話していきたいと思います。
 女性の転落は色々あるけど、ワンコンテンツでバッと話せるのは「沖縄」がいいかなと。沖縄のことを思い浮かべながら、女性がどうやって転落していくのかを話していきます。

 まず沖縄は、県民の賃金が低い。最貧困窮県と言われています。毎年、最下位は沖縄か鹿児島か宮崎か、その辺りですね。それで、シングルマザーの比率は沖縄が47都道府県で一番高い(総世帯数に占める母子世帯の割合2.22%/2020年国勢調査)。さらに女性の出産率も沖縄がずば抜けて高かったはず(合計特殊出生率1.79:全国平均1.37/2021年)。シングルマザーが多くて、子どもをどんどん産む、土地の性格がそういうところです。
 そして、長男信仰が大問題となっている。長男信仰がめちゃめちゃ浸透している県で、男尊女卑がすごい。男は可愛がられ、女は働けみたいな風土があって、だから恋愛結婚をしても、結婚すると男は甘やかされていて、しかも長男信仰が原因のマザコン比率が高いから、男性のDVが凄まじい。「お前はお母さんと違うじゃないか!」とか言って妻に暴力振るって、しかも若くして結婚しているから、女性がDVに遭いまくる。しかも最貧困県で共稼ぎ率も高く、女性も働いて男性も働いている。

 沖縄県は観光業が盛んだけど、富は本土に奪われている。本土から入ってきた資本の会社で働いて、沖縄の美味しい所は全部、東京とか大阪の企業が持っていく。現地の沖縄県民の方々を二足三文とまではいかないけど、めちゃめちゃ安く使って利益を上げて、県にお金を落とすんじゃなく、東京に利益を持っていく。そんなことをやっているから、沖縄でお金がまわっていても、県民の方々は貧しい。
 それで大家族。全員所得が低くても、家族がみんな一緒に住んでいる。家には祖父母がいて、夫婦がいて、子どもがいて、さらに孫がいるみたいな家族。東京の企業に安く使い倒されているからみんな低賃金だけど、みんながみんな家族全員働いて、世帯収入を上げることをしている。お父さんもお母さんも働いているから、自立が早い。長男は可愛がられても長女とか次女は、もう中学まで、義務教育まで面倒見たからもういいでしょう、みたいな扱いを受けがちで、ネグレクトされる。だから、沖縄はヤンキーが多いんですね。
 そういう子たちが中学生ぐらいから夜遊びをはじめて、そうすると、子どもができちゃうわけですね。だから、高校1年生とか2年生の年に子どもができて、じゃあ結婚しようかみたいな感じで、高校中退して10代で結婚したりする。結婚したら、今度は男の子は甘やかされているから、「お母さんと違うじゃないか!」って妻に暴力振るって、18歳とかで子どもを抱えたまま離婚しました、みたいなことになるんです。

 ここが転落の始まり。養育費もらいたいって言っても、18歳とか19歳の夫はまったく働いてないから、パチスロとか行っているだけ。だから、そんなものもないわけ。だからお母さんが子どもを育てながら働くしかなくなって、沖縄は最低賃金が安くて、賃金が抑えられているから、高校中退の昼職ではとても子どもを育てられない。
 そうなると、キャバクラに行くしかない。それでキャバクラ街で有名な松山という繁華街がある。男性で沖縄に旅行行った方は知っていると思うけど、那覇市松山ってキャバクラ街があるんですね。
 松山のキャバ嬢はめちゃめちゃ若くて、今は年齢確認しているかもだけど、10代とか普通にいる。みんな、シングルマザーなんですね。子ども抱えて松山に出勤して、夜の託児所かなんかに子どもを預けて、キャバクラ嬢をする。夜に子どもを引きずり回すなんてめちゃめちゃ良くないから、そうお母さんは思っていても、それしか選択肢がないわけですね。どうしても松山から抜けられなくて、抜けたいと思ったら新しい彼氏とか旦那を見つけるしかないけど、そういう夜の環境にハマってしまうと、もう会う男はロクなもんじゃないわけですね。
 一度、松山に堕ちてしまうと、健全な出会いはないから、再婚してもね、またロクでもないやつでDVしたりとか。同じことを何度も繰り返して、再婚も外して、さらに再婚の子どももできたりして、今度はダブルの、お父さん違いのシングルマザーになっちゃったみたいなことになる。そんなこと何度も何度も続けていると子どもが2人とか3人とか、4人まではあんま聞いたことないけど、そうなってドツボにハマっていくわけです。

 松山のキャバ嬢も10代の未成年とかガンガン入ってくる。今は入ってくるかわからないけど、入ってきた時期もあった。男尊女卑の県は「女は若いほどいいよね」「若いやついないのかよ」みたいな、そういう横暴な男が多くて、「25歳なんてそんなババアいらねえんだよ」とか、なんかそういうノリの男の連中が出てくる。若い子が続々堕ちてくるから、女性が松山で生き残ることは難しい。逆年功序列制が働いてしまうと、年取れば取るほどね、女性はさらに転落していくわけですね。
 で、「25歳なんてそんなババアいらねえよ」とか言われながら、なんとか28歳ぐらいまでは松山で生き残ると、もう28歳で松山のキャバ嬢歴10年とかになってしまうわけです。この段階でちゃんとした旦那とか見つけて再婚とか、看護師になるとかOLになるとか夜から抜けることができるのは、ほんの一部。子ども育てて松山で働いて、さらに看護学校とか、それは無理だから、必死に生きてるうちに加齢して、男たちが「25歳のババア」とか喚いているなかで、なんとか粘っても28歳で、もうダメになっちゃう。再婚できないで抜けられないお母さんは、もうどう考えても一定数いる。
 こうなると次段階に行くわけです。抜けるって言っても、昼職のバイト色々探しても、コールセンターとか飲食店とかは最低賃金にへばりついているから、どう考えても家賃払って子どもを育てるお金は残らない。夜職を続けるしかないわけです。

かつて賑わった沖縄のちょんの間街。
大規模摘発により現在は壊滅状態となっているが、
闇営業の噂も聞こえてくる
10代にも見えるような若い女性が
5千円〜の格安で性サービスを売っていた

夜の世界から抜けられないまま…

 次はもう性的サービスを売るしかない。今度は那覇市内のどこかのデリヘルに入って地元住民3割あと観光客7割ぐらいのデリバリーヘルスの風俗嬢になる。そこでも若い子がどんどんどんどん来るから、松山を卒業した若い子が来るから「なんだよ28歳かよ」みたいな感じの扱いを受けて、なかなか苦戦しながら、子どものためにデリヘルを頑張る。やっぱり男と恋愛したり、結婚したりして抜け出す道がひとつだけど、デリヘルの客層はさらに悪化するから、客なんかロクなもんじゃない。さすがにね、恋愛対象とか結婚対象なんていうそんな出会いは皆無になるわけです。
 デリヘルでもまた加齢して、30歳を超えてしまった。そうすると、もうなんなの?って感じになる。今度はデリヘルの男性スタッフたちからも、「なんだよ30歳のババアなんて金にならねえんだよ」みたいな扱いを受ける。でも、抜けられないわけです。

 18歳で子ども産んだとしたら、子どもはまだ中学1年生ぐらい。30歳で本当にこれからお金が必要なのに困ったとなって、デリヘルの次はソープランドになる。那覇市の海沿いに辻っていうソープランド街があって、そこに移る。辻堕ちと呼ばれています。そうやってソープランドで働く頃にはアラサーになって、今度はソープランド。ソープランドと売春とはちょっと違うけど、でも売春するしかないわけですね。
 それで辻で売春しても、やっぱり客層が悪い。もうどんどんどんどん、環境が悪すぎて転落する。それで子どもは中学生だし、目先のお金が必要。沖縄県では中学3年まで面倒を見たら、あとは自己責任でやりなさいって、突き放すみたいな家庭が多い。ソープランドで子どもだけはちゃんと育てたいってなったら、やっぱり高校行かせたいだろうから、高校行かせるために頑張んなきゃってなると、辻で売春しまくる、客取りまくるしかないわけですね。
 もう10年とか12年、そんなことやっていたら感覚も麻痺して、環境もその頃にはもうボロボロ。夜の世界から抜け出すような、なんていうか光みたいなのが環境で一切見えないわけです。だから日々頑張るしかなくて、18歳で産んで33歳か34歳の頃、子どもが高校行くって時に高校生行かせないで「あなたはもう好き勝手しなさい!」って子どもをネグレクトとか育児放棄して、子どもは中学校でグレて夜遊びして、高校1年ぐらいで中退して、子どもが女の子だったら今度は娘が松山入りしてしまうみたいなことが、永遠に続く。もう、最悪でしょうっていうのが沖縄の夜の世界なんですね。

 娘がグレて松山入りしてしまっても、お母さんは生きていかなくてはいけないので先がある。辻のソープランドでも客がつかなくなると、今度は隣町に前島ってちょんの間街があったり、あと沖縄市コザの方に吉原っていう売春街があったり、そこでガチの違法売春するしかなくなるわけです。
 ちょんの間は、もう完全な売春宿みたいなところです。ソープランドはちゃんとした店だから、入浴施設なので衛生的だけど、今度は不衛生な完全違法のちょんの間街みたいな売春まで堕ちてしまって、そこでダラダラダラダラね、10年ぐらい売春してしまう。気づいたら45歳になっちゃうわけですね。
 さすがにその売春宿でも売りづらくなる。もう20年もこんなことやっているから、「私、これしかできないわ」ってなる。その先が意外と思いますが、なれの果てがスナックのママなんですね。
 寂れたスナックのママは、やっぱり夜職抜けられなかったフルコースの女性のなれの果ての終着地点なんですね。だからママは「私、苦労したわよ」みたいなこと話しながら、ど底辺のじじい5、6人くらいは常連客がいて、そういうところで恋愛とかして、底辺の女性とど底辺のじじいみたいなので一緒になって、ど底辺のじじいがママの彼氏だってことでなんか皿洗いとかしていたり、一緒にカウンターで働いて接客していたり、そういうことになる。
 そういう底辺の女性がママをするスナックは全国あらゆるところにあるけど、この沖縄に関して言えば、国際通りの裏に栄町社交場ってある。ど寂れたスナックがいっぱいあるけど、そこのママたちが、やっぱみんな本当の貧困で辻のソープ上がって売春宿で働いて、そこでもまだ抜けられなかった女性が栄町社交場のスナックのママになるわけですね。

 まあ大雑把に女性の転落の具体例を話したのですが、沖縄だけではなく、全国各地である程度こういう感じのノリはありますよね。特に地方ですね。そういう女性の貧困や転落を意識して、スナックのママみたいなことを見るとまた違ったママの一面みたいなのが見えるんじゃないかなと思ったりします。

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<著者プロフィール>
中村淳彦(なかむら・あつひこ)
ノンフィクションライター。無名AV女優インタビュー『名前のない女たち』シリーズ、『東京貧困女子。: 彼女たちはなぜ躓いたのか』、『悪魔の傾聴』などヒット作多数。花房観音との共著『ルポ池袋 アンダーワールド』(大洋図書)が絶賛発売中。Voicy「名前のない女たちの話」日々更新中!https://voicy.jp/channel/2962